第14話 女子会

~藤宮塔子視点~


勤務を終えた私たち営業第一課女子一同は、ささやかながら夕食会を楽しんでいる。


「一美ちゃんってどうなるのかな~、ずっと来てくれたら良いのにな~」


珍しく?鈴木先輩から一美ちゃん押しの独り言の様な発言が漏れた。

不思議に思って、鈴木先輩の顔をぐぐっと見た。


「だって、課内が良い雰囲気になるじゃない?」


「わ、私は佐藤課長でも全然同じですけど…。」


「塔子ちゃんはそうでしょう、ふふっ。でも男子達がね~、全然違うのよね~、なんか目にハートマーク浮かべて、張り切っちゃってさ」


「特に田中係長と磯谷くんね…、あとは及川くんも」

とちょっとキツい口調で北村主任が呟いた。


彼らは独身だから普通に理解できるのだけれど、主任は必要は以上に敵視している。

思えば、主任は終業前から少し様子が変だった。

時々物思いにふけったり、強い怒りを滲ませたり、そうかと思えば一美ちゃんの方を凝視していたり・・・。


鈴「まぁ、田中係長はいつものことだけれど、磯谷くんは重傷よね?」


塔「え? いや、私、分かんない」


鈴「磯谷くんには本当に興味ないのね。塔子ちゃんは分かりやすいわ」


まぁ、実際、私は磯谷さんに興味は無い。

確かに、外見はイケメンなのだけれど、中身の薄い優男(やさおとこ)にしか見えず、今時と言えば聞こえは良いが、要するに信を置くに足りない。

私の理想は、芯の強い人。

外見は良いに越したことはないけれど、ウェートはそんなに重くない。

その点、一美ちゃんは外見は儚く折れそうなのに、耐えて踏ん張る姿が殊の外愛おしい。


「声に出てるわよ」と冷たい指摘が主任から出る。


「え! いつからですか?」


「さぁ、多分最初からじゃない?」


私は、羞恥から体中の血が沸騰するを感じた。

が、ふたりは特に気にもしていない様子だ。


「まぁ、でも分からないでも無いわ」


何この二重否定。

せめてどこから声に出していたか教えて欲しい。


「そ、それで、主任は何を悩んでいるのですか?」


「ちょっと、唐突ね? 別に私の悩みの話なんてしてなかったじゃない?」


「そ、そうでした?」


「そうよ。でも良いわ。どうせ話すつもりだったしね」


「「 どうぞ、どうぞ 」」


「ふん。あなたたちも薄々感じていると思うけれど、、、一美ちゃん、そう長くは出勤出来ないわよ。次長は良いとしても、そろそろ総務課あたりが勘づくわ。

課内の男性達でも半信半疑なのだから」


ごもっとも。

仮に、佐藤課長=一美ちゃんだと信じてくれたとしても、客観的な証明はまず無理だもの。


「「・・・・・・。」」


「貴女たち、ちょっとこれ見て」

と北村主任がスマホを差し出した。


鈴「うわー、イケメン! これって誰ですか? 主任の彼氏ですか~?」


「バカ言わないでよ! 私に彼氏が居ないのは知っているでしょ!

 わたしよ、わ、た、し。 スマホアプリで加工したのよ!」


「ああ~、なるほど。」


例のアプリかな?

思わず唸ってしまったが、かすかに主任の面影がある。

原型を残しつつ、TSも若返りも可能と言うことね。


鈴「これだけイケメンになれるなら、男になるのもありかも!」


「なれるならね。そう簡単に行かないから悩んでいるのよ」


そうだ。

現実はそんなに甘くない。

男性化を切望する主任にとっては、成功すれば一美ちゃんの証明にもなり一石二鳥と言うところだったのね。


「「・・・・・。」」


「はぁ、じゃ~そろそろ出ようか?」



主任の言葉に半ば解放された気分になり、我々は店を出た。


主任、落ち込んでいたな・・・。



△△



主任と別れた後、鈴木先輩から“化粧品を買いに行きたいから付き合って”と頼まれてしまった。


「私も頑張らなきゃね!」

と言う鈴木主任も何か思うところがあるようで、本当は私、デパートの化粧品売り場って嫌いなのだけれど断り切れなかった。


「で、塔子ちゃんはどうなのよ?」


と鈴木先輩はデパートの厚い扉を開けつつ、趣旨が不明の質問を投げかけてきた。

“どう”と問われても答えようが無いよ。

この手のふわふわとしたやり取りって実は苦手だったりする。

女子力を上げようと言う話なのかな?

ある意味鈴木先輩が一番女子らしいのかもしれない。


化粧品売り場に差し掛かると、鼻を突き刺すような濃いニオイが襲いかかってきた。

しかし、次の瞬間、目に飛び込んで来たあるものに私は魂を奪われ凝固(フリーズ)する。

嫌なニオイも消え失せて・・・。


「わ~、綺麗!」


耳の奥で鈴木先輩が感嘆の声を上げている。

だが、私は未だに身動き一つすることが出来ない。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・女神?」


「凄い綺麗ね~、一美ちゃんってモデルだったのね!」


鈴木先輩の声が、やっとはっきりと聞き取れたが、綺麗と言うありきたりの言葉だけでは足りないと強く感じた。


そう、そこには一美ちゃんの等身大ほどのパネルが掲げられていたのだ。

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