未確認飛行物体12

 四ヶ国国王会議が行われてから三日後。

 死の森にある小高い丘には人影が五つ。その先には飛行物体が上空に浮遊する魔王城があった。


「今回は調査だ。行けるところまで行くが危険と感じたらすぐに退く」


 先頭に立つアーサーは魔王城の方を見ながらそう言うと後ろを振り返る。

 そんな黒い鎧に身を包み名剣エクスカリバーを腰に差したアーサーの前にはマルクと騎士が二名、魔術師が一名立っていた。


「迅速に動く為にも今回のメンバーはこの五人だけだ。指揮はログロットを代表してアーサー・アウレリアが務める。ログロットからは俺を含め三名が参加することになった」

「初めましてっす! ログロット王国騎士団第一部隊のクーリオ・フォルナーっす!」


 そう活気に満ちた声で自己紹介をしたのはアーサーの右手前に立っていた騎士。それはログロットの国章が描かれた藍色のマントを付けた鎧を身に纏う青年クーリオ・フォルナー。アーサーより少し背は低く彼と同じ金髪で背には槍を背負っている。何にでも興味を持つ好奇心に満ちた子どものような煌めく顔のクーリオは無邪気そうな笑みを浮かべていた。


「それでこっちはログロット王国騎士団第二部隊副隊長のルルディ・セルダムっす」


 クーリオは自己紹介の流れのまま隣にいたバイザーを被り全身鎧に覆われた騎士も紹介した。特注で作られたのかその鎧は細身でクーリオ同様に国章が描かれた藍色のマントを付けている。クーリオと同じぐらいの背で腰には剣を二本差していた。

 そしてルルディは紹介されると手を前で組みお辞儀をする。


「彼女は無口なんすけど実力は相当なもんすよ」


 その褒め言葉に両手を振っているところを見ると謙遜しているのだろう。そして自己紹介の順番は次へと移った。


「はいはーい! グレルラン王国国王第二師団の副師団長アメリア・ローゼンクロイツでっすぅ! よろしくぅ!」


 グレルラン王国国章の描かれたローブを身に付け手には魔杖の大杖を持ったアメリアはもう片方の手の親指を立てグーサインを出した。その際に茶髪の両サイドで一本三つ編みが垂れるボブヘアが揺れた。そんな自信に満ち凛とした顔のアメリアの次にバトンが回ってきたのはマルク。


「初めまして。マルク・ミルケイです」


 その言葉と共に頭を下げる。他の者のようにどこかへ属している訳では無いマルクの自己紹介は短いものだった。


「あの勇者様っすか! 本物っすか! おぉー!」


 マルクの自己紹介にクーリオは表情を輝かせる。それはまるでプロ野球選手に会った野球少年のようだった。


「魔王を倒せる唯一の聖剣に選ばれた勇者。くぅぅぅ! カッケーっす。はっ! もしかしてその背中にあるのがあの伝説の聖剣! ちょっと見せて……」

「後にしろ」


 マルクの元に行こうと一歩を踏み出したクーリオをアーサーの視線と言葉が止めた。


「す、すみませんっす」


 肩を落とし落胆するクーリオ。そんな彼を見ていたマルクはクーリオ・フォルナ―という男はいささか感情が荒波なのかもしれないと感じていた。


「まずは魔王城付近まで向かう。その間も気は抜くなよ。アメリア、何か異変を感じたらすぐに知らせろ」

「はいはーい」

「では行くぞ」


 そしてアーサー率いる五人は飛行物体が浮遊する魔王城へ向かい死の森を進んだ。警戒しながら死の森を進んでいくが不気味なほど静かなだけで何事もなく魔王城付近へ辿り着いた。魔王の話ではこの森の段階で攻撃を受けたらしいがここまでそれらしき気配はない。


「アメリア。不審な気配はあったか?」

「特に気になるのはなかったですよ」

「ここまで敵兵の一人もいないってことは、まだ城には拠点を築いていないってことなんすかね?」

「その可能性はある。魔王城の入り口は正面だけか?」


 アーサーは唯一魔王城を訪れたことのあるマルクへ顔を向けた。


「詳しく調べた訳じゃないですが恐らく正面しかないと思います」

「アメリア。魔王城周辺を簡単でいい敵影が無いか確認を頼む」

「はいはーい。それじゃ」


 返事をしたアメリアは魔杖を使い姿を変化させた。それはリス。


「サクッと行ってきまーす!」


 そしてアメリア(リス)は近くの木に登り偵察へと向かった。


「周辺の安全が確認できれば魔王城へ侵入する。だが中へは俺とマルクとアメリアの三人で行く。お前ら二人はここで待機だ」


 アーサーはクーリオとルルディを順に指差しながら指示を出した。


「三十分で戻る予定だが少し待っても戻らなければヴァレンスの爺さんにそのことを伝え指示を仰げ。その時は俺らは死んだと思って行動しろ。それともし三十分が経過するまでに敵が現れた場合は戦わずにやり過ごせ。無理ならセルガラ王国へ退け。いいな?」

「了解っす」


 クーリオの返事と共にルルディが頷く。それから一行はアメリアが戻るのを静かに待った。

 そして暫くして戻ってきたアメリアはリスから人間の姿へ戻ってから報告を始める。


「見た感じはいなかったですよー」

「では俺とマルク、アメリアで魔王城に侵入する。戦闘は避るがもしもの場合は生き残ることを優先しろ。もしバラけた場合はここで待機してるこいつらと合流するかセルガラ王国へ向かえ」


 マルクとアメリアは一度頷き了解の意を伝えた。


「よし行くぞ」


 そしてクーリオとルルディを残し三人は魔王城正面入り口へと向かう。マルクにとって二度目となる見上げるほど大きな両開きドアは未だ禍々しさを帯びているように感じた。

 そんなドアへ近づいたアメリアは大杖を翳す。ほんの数秒大杖を翳してから彼女は振り返った。


「付近には誰も居ないっぽいかな」

「中には入れそうだな。だが警戒は怠るな」

「はい」


 マルクは返事と共に気持ちを引き締めた。

 そして先頭のアーサーが手を伸ばすと軋む音を鳴らしながらドアが緩慢と開き始める。アメリアの言う通り柱が等間隔で並び広々とした空間には人影のようなものは見当たらなかった。


「とりあえず魔王の間を目指すとしよう」

「ですがあそこは魔王が床を破壊したのもう何も残ってないと思いますよ」

「魔王城内部を調査しながら魔王の間へ向かう。魔王の間に何もなければ今回は退く」

「分かりました」

「ここへ来たのはお前だけだ頼めるか?」

「はい」


 案内を頼まれたマルクはアーサーの横に並び上への階段へ足を進め始める。

 警戒をしつつ二階、三階と階を上がっていくがどの階も静寂だけが徘徊していた。それは不気味すら感じさせ歩く屍の呻き声がどこからか聞こえてきそうな静けさ。

 その静けさの中、三人は更に上へと上がっていく。ここまで敵のような影は一切なく情報という情報は何も得られてない。そんな状況が続きながらも目的の魔王の間へと到着した。

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