未確認飛行物体11

「そういえばアタシこんな噂も聞いたことあるわよ。アーサー王は剣術だけじゃなくて魔術にも長けているって」


 言葉の後、生まれた沈黙の中アリアは反応を伺うようにみんなを見渡すが、その噂は誰も聞いことがないようだった。


「え? アタシだけ? えぇー! 騙されたわ」

「あくまでも噂ですから。真偽は私達だけでは判断できませんし。まだ分かりませんよ」

「でもアーサー国王様は剣ってイメージが強いよね」

「そうそう。だからアタシもおかしいと思ったのよね。やっぱあれは嘘よ」


 するとアリアは祈るように両手を合わせた。


「アタシに嘘を教えたアイツがどっかで痛い目にあいますように。っと」

「そんなに腹が立つんだ」


 その様子に苦笑いを浮かべるマルク。

 するとマルクの脳裏にふと前々からの疑問が浮かんできた。


「そう言えば前から気になってたんだけど、魔術師ってアリアみたいに魔杖まじょうを使う人とフローリーみたいに体に魔紋まもんを彫る人がいるけど何が違うの?」


 マルクは杖を持つ素振りと腕を指で叩きながら疑問を尋ねた。


「まぁ、一言で言ってしまえば魔石を介して魔術を使うかの違いじゃない?」

「そうですね。魔紋は魔杖に比べて魔力消費は多いですが、発動時間が短かったり魔力の変換率が高かったり、あとは体に彫ってありますのでいつでもどこでも魔術を使えるという利点があります」

「もちろん魔杖にも良いとこはあるわよ。安定性があったり魔石の補助のおかげで術の幅が広がったりとか色々」

「私のイメージでは幅広く魔術を扱う方は魔杖を使用して、ある程度限定的な魔術を扱う方は魔紋を使用しているという感じですかね」

「そんな違いがあったんだ。フローリーは確か右手に魔紋があったよね」


 うんうんと頷いたマルクはフローリーの右手を指差した。


「はい」


 そう言うと彼女は右手の甲を見せる。そこにはいくつかの重なり合った図形と見たこともない文字によるワンポイント程度の魔紋が彫られていた。


「それと緊急事態用に左腕にも少し強力な回復術が発動できる魔紋を彫ってあります」


 フローリーが服の上から左腕を叩くとそれに合わせるかのようにノック音が響きドアが開いた。部屋へ足を踏み入れたのはヘクトラ。


「ヘクトラ騎士団長。お疲れ様です」


 その姿を確認したマルクは座りながら頭を下げそれに対しヘクトラは片手を上げ答える。


「どうされましたか?」

「お前さんがアーサー騎士王と共に調査へ出ると聞いてな」

「はい。ご一緒させていただく予定です」

「まだ決行の日は決まっていないのだろ?」

「そうですね。アーサー国王様側からご連絡があるようです」

「ではそれまでの間はうちの鍛練館で体を動かしておくといい。他の者も体が鈍らぬ様いつでも使っていいぞ」

「ありがとうございます」

「では私は次の任務があるんでな」


 ヘクトラはそれだけを伝えると次の任務の為に客室を後にした。


「暫くここにいることになるんだろ?」


 そのゴウからの質問にマルクはドアから視線を移した。


「そうだね。今後がどうなるかはわからないけど今のところはここにいるよ」

「なら動ける場所があるってーのはありがたいな。オレも体を鍛えねーと鈍っちまう」

「やはり心技体、それぞれ日々の鍛錬は欠かせぬ」


 二人の言葉を聞きながらマルク自身、剣と肉体だけでなく戦闘そのものを鍛える必要があると思っていた。それは魔族や魔王との戦いで感じた力不足が彼の中で深い爪痕を残していたからだった。

 そんなマルクの考えも見通すようなアリアの溜息が響く。


「はぁー。男ってやぁねぇ。鍛えることしか頭に無いんだから」

「でも私達もサボり過ぎちゃうと魔力容量も減って調整も下手になってしまいすよ。そしたらすぐに魔力が底をついて戦いどころじゃなくなっちゃいます」


 フッ、とアリアはそんなフローリーの心配を払い除ける。実際に手でも払う素振りをしていた。


「まぁアタシは昔から優等生だから大丈夫よ。ちょっとサボったぐらいじゃどうってことないの」

「そういう奴に限って大事なとこで力が出せねーで後悔するんだよ」

「俺も似たような者を何人も見てきた」

「アタシをそこら辺の天狗と一緒にしないでほしいわね」


 そう言いながら腕を組むアリアの表情に浮かんでいたのは純度百パーセントの自信。


「そうですよ。アリアさんはちゃんと魔力の鍛錬は怠らないですからね。旅をしている時も皆さんがテントで寝ている間にお一人で頑張られて……」

「あーーー!!!」


 すると横から加勢するようにやってきたフローリーの声を慌てて自らの大声で掻き消しつつ口を塞ぐアリア。


「あんた何で知ってんのよ!」


 フローリーはそれに答えているようだったが口が塞がれていた為、何を言っているかは分からない。

 そしてアリアは先程までの自信はすっかり端に追いやられ、赤面でどこか可愛らしい顔を三人へと向けた。少しでもその心内を隠すよう睨み付けながら。

 一方であまり長居してほくない沈黙の中、彼女と目が合うも誰一人言葉を口にはしなかった。


「さ、さーて。んじゃ早速その鍛錬場とやらを見てくっかな」


 すると何を言っていいか分からない気まずい空気に耐えかねたゴウが、自然とは程遠い口調でそう言いながら立ち上がる。


「あっ! 僕も折角だし行こうかな」


 この状態に長く浸かりたくないマルクもすぐさまその逃げ道へ走り出し、ゴウに続き立ち上がる。そして二人の後を追い宗弥もまた無言のまま立ち上がった。

 そして三人は早足でドアへ。


「ちょっと! せめて何か言いなさいよ!」


 客室から出る三人の後を追い聞こえてきたアリアの叫び声へ蓋をするようにドアは閉められた。

 そして逃げるように客室を出た三人は城の人に道を訊きながら鍛錬館へと向かった。

 鍛練館はセルガラ本城とは少し離れた場所に建てられており、それはマルクが想像していたよりも大きな建物だった。その正面入り口は鍛錬に励む者を拒まぬと言っているように開きっぱなし。

 そこを通り中に入ると通路は三叉になりそれぞれに案内が書かれていた。


「真っすぐがメイン場」

「左がトレーニングルームみてーだな」

「右はロッカーシャワールームだ」


 三人は何か言う訳でもなく意思疎通が取れているようで同時にロッカーシャワールームへと向かった。そして持っていた物をロッカーに預けるとメイン場へ。

 そこは更に二つの部屋に分かれており入り口には『剣』『体』と書かれた小さな看板が付けられている。

 まず『体』の部屋に入った三人は既に中で訓練中だった騎士団や護衛団、訓練生の素手による戦闘訓練に混じった。日が沈むまで行われたその訓練に最後まで参加し翌日は『剣』の部屋で行われた武器使用による戦闘訓練にも日の沈む最後まで参加した。

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