第15話 行き先。
桜が咲き誇る春休み。
清々しい季節であるが、俺の財布は閑古鳥が鳴いている。
「じゃあ山田さん、行きましょうかっ」
「お、おう。ところで……」
春らしい白のワンピースがここまで似合う女の子は果たして本当に存在するのかと目の前にいる一之宮を見て思った。
自分の目を疑ったくらいの美少女。いやそもそも美少女だったんだが。
「ところで、どこ行くんだ?」
「着いてからのお楽しみです」
「そうか」
「はい」
春らしい爽やかな一之宮の笑顔。
その笑顔になんとなく気圧された。
いやだってこれ、これさ……
「あのぉ一之宮お嬢様、もしかしてだけど、これってデートというやつでござるか?」
「すっごいキャラがブレてますよ山田さん」
「そりゃキャラもブレるよ」
「私は最初からデートのお誘いのつもりだったのですけどね」
「さ、さいですか……」
尚更ドキドキしてきたんだが。
「てか、デートって普通は男がなんかするもんじゃない? いいの?」
「山田さんですし、そういうのは期待してません」
「す、すみません……」
「あっ!! いやいやそう意味じゃなくてですね?! その……」
申し訳ないなと思ってたら一之宮の方がなんか申し訳なさそうな顔をしたので困惑していると、一之宮が俺の手を握ってきた。
「私は、お姫様じゃないです。なりたくもないです」
「お姫様じゃなくてお嬢様だし、そりゃそう? かな」
「そうじゃなくてっ!」
目線をそわそわさせながら、握られた俺の手の甲を人差し指でなぞる一之宮。
一之宮がモジモジしてるのは珍しいなと思っていたが、いよいよこれは他人事ではないと内心焦ったりもした。
「とりあえず行きましょっ」
「お、おう」
そのまま手を引かれて駅へと歩く。
どこまで行くのかわからないけど、それが楽しみでもあった。
男らしく、とかそういうのを一之宮は期待していない。
それが精神的に楽だと思えた。
「あ、一之宮。遠出するにしても、俺はそこまで金持ってないんだが大丈夫なのか?」
「大丈夫です。私がチャージしますし」
「いやでもそれは流石に悪いし」
「山田さんとふたりだけで行きたいから、私のわがままを通してるんです。お小遣いだってわざわざ現金で用意したんですよっ」
「お、おう」
さらに申し訳なくなった。
「……なんか、いよいよ俺は屑のヒモ男みたいだな……」
「そしてさらに駄目になっていくんですね、山田さん」
「床ドンひとつで一之宮がご飯持って来てくれるんだろうな。俺はネット掲示板に入り浸ってて」
「それじゃヒモじゃなくてヒキニートですよ……」
「それでも俺は生きてて偉いと思ってるだろうな」
「ほんとにどうしようもなくなっていきそうですね山田さん」
駅に着いて交通系マネーをチャージして、行き先もわからないまま俺は一之宮と共に電車に乗った。
「正直、あまり電車には乗ったことないのでちょっと緊張します」
「……それ、大丈夫なのか? 行きたい所にちゃんと行けるのか? 秘密にされてるから俺はどうしようもないぞ?」
「それは大丈夫です」
そう言って一之宮は不敵に笑った。
無邪気なその笑顔に不安感が消えた。
「行き先はとくに決めてませんからね」
「……ん?」
満面の笑みでそんなことを言う一之宮。
行き先を決めていない電車の旅、ということなのだろうか。
……それって大丈夫なのだろうか?
色々と。
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