第10話 コテハン。
「
「付き合ってくれると言ったではないですか。このくらい耐えて下さい」
「と言われてもな……」
俺と一之宮は現在、とあるスレで集まっている人たちをこっそり眺める為にカップルのふりをしてハチ公前に向かっていた。
正直、大したスレではない。
一之宮の騒ぎっぷりからてっきり伝説の祭りとなるようなスレだと思っていたのだが、話を聞けば出会い厨を釣るスレである。
前にもこういった出会い厨釣りスレは立っているし、動画としてまとめられているスレもある。
「一応言っとくけど、今回のスネークって最低な奴がやることだからな?」
「だからこそです。九重にバレたらきっと怒られますし、クラスメイトなんてとてもじゃないですが誘えません」
「……俺もクラスメイトなんだけどな……」
今回のスネーク、出会い厨をスレ民たちが釣る為に色々な工夫をしてハチ公前に出会い厨である男たちを集めているわけだが、内容が内容だけに俺は一之宮とカップルを演じている。
そうでなければ違和感が出てしまう可能性があるとかないとか。
年末にこんなことしてていのかと多方面に対して思うが、一之宮の飯は美味かった。
そして今現在、偽物の関係とはいえカップルであるという事実は俺の今後の弱者男性生活の中で救いとなる可能性がある気がする。残念な事に。
「あの、当たってるんですけど」
「……あ、すまん」
「いえ。カップルらしくしなければならないと言ったのは私なので、仕方ないですけども」
肘が一之宮の豊満な胸に当たってしまっている。
既に目的地であるハチ公前付近に来ていたこともあり、一之宮が俺の腕を掴んでいるので仕方ない。
俺が当ているというよりは、一之宮が当てているような状況である。
がしかし弱者男性というのは悲しい事に、こっち側が悪いとされる事が多い。
今声を挙げられたら困るのは間違いなく俺なのである。
そして俺の肘が羨ましい……
やべぇ本音が。
「……ってもどうすんだ?」
「何がですか?」
「出会い厨たち眺めてるだけで年末終わっていいのかって話だよ」
スレ民たちに騙されて集められている出会い厨たちは目印となる物をみんな持たされているのでスレを覗いていたらすぐにわかる。
今回の目印はビニール傘とファンタオレン○らしい。
他の人と被っていてもギリギリわからないか疑わしいというような極限の目印であり、スレ民のセンスが光っている証拠と言える。
「ふふふっ。甘いですね山田さん」
「……寒さに震えながらドヤ顔されても」
「寒いのは仕方ないじゃないですか。冬なんですから」
杏香お嬢様のドヤ顔って可愛いんだよな。
偏差値低く見えるから普段みたくスっとしてれば良いのにとも思わなくはないが。
「で? なんかあるのか?」
「スレをご覧下さい」
ドヤ顔のままスレを見ろと言われたので見てみると、明らかに俺たちのいるポジションから撮影されたと思われる出会い厨たちの姿の写真がスレに貼られていた。
「お嬢、ってお前か」
「もちろんです」
コテハンで「お嬢」と名乗るスレ民こと一之宮がスネークしてまっせと画像を貼っているわけだが、まあやってる事はより最低だよなって話。
「お前、楽しそうだな」
「初コテハンですっ」
「自分で普通は「お嬢」って名乗ったりはしないとは思うがな」
「た、たしかに……」
「スレ民たちにも笑われてるぞ。お嬢」
「は、恥ずかしくなってきたのでやめてください……」
「お嬢」
「……ムッ……」
睨まれたけど、ただ可愛かった。
流石お嬢だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます