第4話 大喜利、こんな彼女は嫌だ。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「……しんど……」
「悪いことなんて、なにもしていないですが、なんか凄く悪い事をした気分です」
「……そのわりには、楽しそう、だけどな……」
ホットパンツサンタが2人、路地裏に持たれながら息を切らしていた。
警察から逃げて今に至るわけだが、どこか一之宮さんは楽しそうに笑いながら息を荒らげている。
普段の清楚で綺麗なイメージとは違う、純粋な子どもみたいな姿に萌えた。
「一之宮さんって、意外とお転婆なんですね……今更ですけど」
「そうですよ。だから普段はとても窮屈です。でも今は山田さんと一緒に阿呆な事ができて楽しいです」
こんな状況で無邪気な笑顔なんて向けられても困る。
顔が良いだけに、簡単に好きになりそうだ。
「あんまりそう言う事を簡単に言わない方がいいですよ。うっかり好きになってしまいそうだ」
「大丈夫でしょう。私の分析によると、山田さんは全然素直じゃない人なのでそんなことを言っているうちは大丈夫です」
「そんな事言ってると釣られるぞ」
「釣り針にしては小さいですね」
素直じゃないというのは図星だった。
そうじゃなかったらもっと生きやすかっただろうとも思う。
「一之宮さんは、なんで今更ハマったの? ネットの愉快なアホたちに」
「自由な人達に見えたからです」
「ヒキニートとかこどおじとか、ある意味では自由かもなぁたしかに」
「むむっ。山田さん、ニートをするのも才能がいるんですよっ。知らないのですか?」
「いや知ってるよ。知ってるだけだけど」
路地裏のビルとビルの隙間から見える冬の夜空をぼんやり眺めながら、一之宮さんと他愛もない話をしている。
いつぶりなのだろうか。
こんなに普通に人と話すのは。
「でもたしかに、なにをするのも才能の有無はあるんだろうな」
親ガチャも外れたし、自分にはどんな才能があるのだろうか?
わかりやすく人生を無双できそうな才能は今のところ見付けていない。
まだ10代半ばではあるが、これからそれが見つかるとも思えない。
「そろそろ、帰らないとですね」
「もう学生が出歩いてていい時間じゃないしな」
「私、たぶんもうすぐお迎えがくるので山田さん、連絡先交換しませんか?」
「いいけど、お迎えが来るって、GPSでも仕込まれてるのか?」
「そんな感じです」
一之宮さんの家庭事情が垣間見えて、そこから先には踏み込めなかった。
連絡先を交換して、俺の連絡先一覧には家族の他に一之宮さんという異質な一覧が出来上がった。
一之宮杏香
『よろしくお願いします』
山田
『よろしくです』
一之宮杏香
『おけまる水産』
「ぶふッ?!」
目の前でそんなメッセージを送ってきた一之宮さんに思わず吹いた。
そして俺のリアクションに味をしめたのか一之宮さんは更に追撃してきた。
一之宮杏香
『山田さん笑い過ぎワロタ(´▽`*)アハハ』
満面の笑みを浮かべる一之宮さん。
ギャップあり過ぎるメッセだなおい。
「一之宮さん、まさかとは思うけど、他の人にもこんなメッセの仕方してたりする?」
「まさか。山田さんにだけです。今のところ」
「ですよね」
「というかこういうやり取りしてみたかったので、山田さんと仲良くなれて嬉しいです」
アカンて。
好きになりそう。いやもう好きだわ俺。
勘違いでもいいかもしれな…………いやいや待て。花の女子高生で高嶺の花のはずの一之宮杏香がネット掲示板大好き人間なんだぞ? そこいらの地雷よりやばいだろ……
危ねぇ。うっかり結婚生活とか真面目に妄想する所だったわ。いやまじ危ない。
婚姻届を今からでもと検索掛けてたけど大丈夫だまだ戻れる……
くそ……
一之宮さんとデートの待ち合わせとか妄想しちまった。妄想の中の一之宮さんが「今北産業っ」って言ってた……なんか違うんだよ、違うんだって。
「うん、まあその、
「ダメなんですか?! 「大草原」とか「うp」とか「日本語でおk」とか「画像ハラデイ」とか使いたかったのに!!」
「一之宮さん、「日本語でおk」は悪口だからね?」
せめて意識高い系みたいな横文字使いたがりくらいならまだ良かったのに……
どんどん一之宮さんがダメになっていく。
いやもうほんとこの子心配。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます