13:襲撃


 ライナスの指示で、スキルを止めると、馬車が動き出した。程なくして、スピードを落として停止する。


 ライナスとエルシーはじっと息を潜めて、様子を見つめる。暗い中でも、かろうじて馬車と護衛の二人を確認できた。


 カーティスは、矢を取り出し弓に番え、フィルは、腰にさしてあった剣を引き抜き構える。


「二時の方向。やや右上」


 フィルが呟くと同時、シュッと弓がカーティスを目掛け飛んできた。瞬間、カーティスが目に止まらぬ速さで弓を引いて放ち、撃ち落とす。


「そこか!」


 カーティスの弓は彼のスキルによって、絶対に外れることはない。放たれた弓は、木の上にいた襲撃者に命中した。同じくスキルを使用して、人の動く音を聞き分けるフィルの指示で、さらにもう一人、射手が倒れる。


「今日も絶好調だ!」

「……六時。若干上」


 振り向き様にまた一発。呻き声が聞こえて、木から人が落ちた。カーティスは、ひゅうと口笛を吹き、微笑む。フィルは、表情も変えず、引き続き周りに意識を向けた。


 すると、周辺の茂みから、今度は刃物を持った男たちが現れる。


「援護を」

「おう!」


 フィルが馬から降り、身を屈めて懐に潜り込み、男に向かい一閃した。そのまま他の男たちも接近戦に持ち込み、一人、また一人と倒していく。さらに、後ろからは、カーティスが男たちの足を狙って矢を撃ち、動きを鈍くさせる。


 五分もしない内に、立っているのはフィルとカーティスだけになった。


 エルシーは、ライナスの隣で、呆気に取られてただその光景を見ていた。あの二人、あまりにも強い。


「私たちが馬車の中にいないと分かっているから、いつもよりやりやすかったようだね」

「すごいです……ほんとに……」

「エルシー、いいと言うまで頭を下げていて」

「え? はい……」


 ライナスの言葉にエルシーは頭を下げる。ライナスは立ち上がりながら後ろを振り向き、すばやく胸元からナイフを取り出し投げる。


 ナイフが風を切る音、男の悲鳴が辺りに響き渡り、ついで転ぶ音が聞こえた。エルシーは、頭を下げているため周りを確認できない。何が起きているのかまるで分からないが、ライナスの言いつけだけはしっかり守った。


 すぐにフィルが音に気付き、こちらに向かってくる。


「殿下! 無事ですか?」

「ああ。大丈夫だ」


 ライナスは、先ほど男の声が聞こえた方へ視線を向ける。フィルは意図を理解し、声の聞こえた方へ走る。

 

「エルシー、もういいよ」


 恐る恐る顔を上げると、ライナスが手を引いて立たせてくれた。エルシーを安心させるように、微笑む。そこに劈くような男の声が聞こえた。

 

「降参だ! 助けてくれ!」


 びくりと思わず体を跳ねさせたエルシーを、ライナスは軽く引き寄せ、腰に片手を回して支えた。


 すぐにフィルに連れられた男が二人の前に現れた。どこにあったのか、紐で両手は縛られており、足にはナイフが刺さったままで引きずっている。


「当たっていたか」

「お見事です、殿下」

 

 ライナスとフィルのやり取りに、ナイフが先ほど投げられたものと理解して、エルシーは少し高いところにあるライナスの横顔を見上げた。この王子様も十分強いじゃないか。


「さて、お前が頭か?」

「……」

「答えろ、殿下のご質問だ」


 フィルが男に向け、剣を突きつける。


「……ちっ! ああ! そうだ!」

「誰の命令で動いた?」

「依頼者については……」

「話せ。今ここで切り伏せるぞ?」


 突きつけていた剣を、フィルが男の喉元に当てる。男は悲鳴をあげた。エルシーはその光景を見ていられず、目を背ける。


 すると、ぐっと先ほどよりも強く腰を引き寄せられ、半ばライナスに抱きつくような形になった。おかげで、視界から男の姿は消える。


「ダルネル・ラブキンだ!」

「間違いないな!?」

「間違いない! この耳で聞いた! 言ったんだから、殺さないでくれ!」

「カーティス!」


 ライナスが後ろに呼びかけると、カーティスはいつの間にかすぐそばまで来ていた。


「殿下、近くの騎士団の待機所まで馬を走らせます?」

「あぁ。ここをこのままにはできない。最後の質問だ。襲撃はお前たちで終わりか?」


 男は、ライナスの質問に答えるかどうか一瞬悩み、フィルの冷たい瞳を一瞥して、諦めて話し始める。

 

「あー、終わりだ! 仲間、全員倒されちまった! 終わったところで出ていって、死んだと報告に行くつもりだったんだ!」

「報告?」

「あぁ、依頼者のところにな!」

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