第33話 浮気はダメです
二日間のリハビリと町の修復を手伝い、さらに目標であった1000体の魔物も食べ終えたことで種族進化の条件を満たした俺とエレナは、ポルトールの町を出るために二人で入り口の方へと来ていた。
そこで俺は、最後に改めて自身のステータスを確認するため、ステータスプレートを開いてみる。
※※※※※
【名前】ノア
【年齢】12歳
【種族】人族
【職業】魔法剣士
【レベル】66
【スキル】
〈剣術(レベル1)〉〈刀術(レベル6)〉〈弓術(レベル2)〉〈短剣術(レベル3)〉〈体術(レベル5)〉〈気配感知(レベル5)〉〈魔力感知(レベル4)〉〈身体強化(レベル8)〉〈毒耐性(レベル7)〉〈疲労回復(レベル5)〉〈疲労軽減(レベル5)〉〈縮地(レベル7)〉〈魔力操作(レベル5)〉〈詠唱無効〉〈隠密(レベル4)〉〈遠見(レベル3)〉〈暗視(レベル2)〉〈悪喰(レベル2)〉〈毒の王(レベル1)〉
【特殊スキル】
〈影法師(レベル1)〉〈吸収〉〈剛力〉〈三虎爪〉〈咆哮〉〈呪術(レベル2)〉〈威圧〉
【魔法】
〈火魔法〈レベル4〉〉〈水魔法(レベル2)〉〈風魔法(レベル3)〉〈土魔法(レベル2)〉〈雷魔法(レベル5)〉〈氷魔法(レベル1)〉
〈光魔法(レベル1)〉〈闇魔法(レベル2)〉
〈付与魔法(レベル3)〉
【加護】
〈ミシェンヌの加護〉
【ギフト】(隠蔽状態)
〈
【称号】
世界を救いし者
元主人公
母に愛されし者
※※※※※
レベルは64から66に上がっており、さらにスキルや魔法もかなり増やすことができた。
特にゲイシルとの戦闘では、彼の動きを模倣して体術を使って戦っていたからか、体術のスキルレベルがかなり上がっていた。
ギフトの方は成長速度上昇とスキル獲得制限無効のレベルが上がっており、獲得経験値が1.7倍に上昇したのと、スキルの獲得率が10%まで上がった。
特殊スキルについては、どうやら魔物から獲得したスキルをまとめたもののようで、以前魔物たちから獲得したスキルがこの欄には記載されていた。
そして、一番大きいのが〈毒の王〉と〈ミシェンヌの加護〉を手に入れたことで、特に母の名を冠した〈ミシェンヌの加護〉は、個人的にも嬉しいものだった。
※※※※※
〈
・ユニークスキル
・あらゆる毒を生成することができる。また、毒の組み合わせ次第では薬も作ることができ、自身が生成した毒は、スキル所持者には効果を発揮しない。
〈ミシェンヌの加護〉
・一日に一度だけ幸運なことが起こる。発動条件は基本的にランダムだが、命の危機に瀕した時、または所持者が強く望んだ時に限り、任意で発動することができる。
※※※※※
母上の名前が付けられたこの加護は、俺が彼女から愛されていた証拠であり、今後も俺を助けてくれる必要な加護のような気がした。
「さて、そろそろ……」
「よぉ、ノア。もう行くのか?」
「ん?あぁ、オールドか。約束通り町の修復も手伝ったし、ここでやる事はもう無いからな。今出ようとしていたところだ。」
ステータスの確認も終えたので町を出ようとした時、そこにゲイシルとの戦闘で吹き飛ばされた際、破壊した建物の店主であるオールドという男が話しかけてくる。
「手伝ったとは言うが、元々壊したのはお前たちだからな。直すのは当たり前だろう。それに、ほとんど直したのは俺たちで、お前は最後に少し手伝っただけじゃないか」
「仕方ないだろう。死にそうだったんだから。それに、最初から手伝えとは言われてなかったし、例え少しでも手伝ったんだから約束は果たしたことになるさ」
「全く。屁理屈ばかり言いやがって。まぁいいさ。ほら、これ持ってけ」
「これは?」
オールドは呆れたとでも言わんばかりに大きく溜め息を吐くと、右手に持っていた大きな包みを渡してくる。
「餞別だ。中に日持ちする食いもん入れといたから、旅の途中にでも食べろ。いらなきゃ捨てても構わねぇ」
包みの中を見てみると、確かに干し肉や干し芋と言った日持ちの良い食べ物がいくつか入っており、二人で食べるにしても十分すぎる量が入っていた。
「どうしたんだよ。店を壊したお礼か?」
「んなわけあるか!はぁ、実はな。お前らに会う時間がなくて伝えることはできなかったが、この町の連中はみんながお前らに感謝してるんだ」
「そうなのか?」
「あぁ。お前らは知らないだろうが、そろそろ周期的に双子の森から魔物が溢れ出る時期が近くてな。全員がそれを警戒しながら気の休まらない生活をしていたんだ。そんな時、お前たちが来て双子の森で魔物を刈りまくってくれたおかげで魔物が減り、その心配も無くなったんだよ」
「全然知らなかったな」
俺たちはただ強くなるために魔物と戦っていただけなのだが、どうやらそれがこの町を救うことに繋がっていたらしく、知らないうちに町の住民たちに感謝されていたようだ。
「まぁそんな訳で、今もみんなは最後の片付けや他に直すところがないかの確認で忙しいから、今回は俺が代表で見送りに来たってわけだ」
「そうだったのか」
別に俺たちのことなんて無視することも出来たはずなのに、こうして見送りに来てくれるあたり、オールドの人の良さが現れているような気がした。
「なら、これは有り難く貰っておくよ」
「そうしてくれ。それと、気が向いたらまた来いよ。そん時は飯を出してやるからよ。もちろん、金は取るがな」
「そこは取らないって言うところじゃないのか?」
「ははは。うちはボランティアで店をやってるわけじゃないからな。金がないと俺が死んじまうよ」
「確かにな。わかったよ、気が向いたらあんたの店に寄らせてもらうよ」
「おう!そん時は、ちゃんと入り口から頼むぜ?壁をぶち抜くんじゃなくてな」
「はは、わかってるよ」
これまでは屋敷から出ることができなかったので分からなかったが、こうして冗談を言い合える知り合いがいるというのはなんとも楽しいもので、次に彼に会えるのがいつになるのか分からないことを思うと、少しだけ残念な気がした。
「エレナの嬢ちゃんも、こいつが嫌になったらいつでもこの町に来な。嬢ちゃんなら、うちの店で雇ってもいいぞ。看板娘ってやつだ」
「ふふ。ありがとうございます。ですが、私はノア様についていくと決めましたから、離れるつもりはありません。もし捨てられそうになっても、逃すつもりもありませんから」
「そ、そうか。まぁ…なんだ、うん。頑張れよ」
「ありがとうございます」
エレナは笑顔でオールドに礼を言うが、彼女の笑顔を見たオールドの顔は何故か若干引き攣っているような気がした。
「ノア。この子大丈夫なのか?なんか色々とやばそうなんだが」
「俺もやばいとは思うけど、まぁ大丈夫だろ。俺、あいつにやられるほど弱くないし」
「いやそう言う意味じゃ…はぁ、まぁいいか。お前がどうなろうと俺には関係ないしな。んじゃ、俺もそろそろ仕事に戻るからな。死なないように頑張れよ」
「お互いにな」
俺たちは最後にそう言って握手を交わすと、オールドは仕事をするために町へと戻っていき、俺たちはファルメノ公爵領へと向かうため走り出す。
(待っていてください、師匠。今会いに行きますから)
その後、ポルトールの町を出た俺たちは、身体強化を使って来た道を以前よりも速く駆けて行く。
その間、俺は愛しい師匠にようやく会えることが嬉しくて、自然と胸が高鳴るのであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
時は遡り、ノアがファルメノ公爵領を出てから半月が経った頃。
大好きなイチゴの乗ったケーキを食べている少女の元に、一通の知らせが届く。
その少女は綺麗なピンク色の髪に蜂蜜を溶かしたような甘い黄色の瞳、そして小柄な体に似合わない大きな胸を持つ美少女で、彼女は『幻想世界オフサルティ』のヒロインの一人であり、ノアの婚約者でもあるイリア・ドルニーチェであった。
「イリア様。今よろしいでしょうか」
「どうしたのナーシャ?急に改まって」
ナーシャと呼ばれた30代くらいのメイドの女性は、イリアの乳母で彼女が生まれたばかりの頃から面倒を見て来た母親のような存在である。
「ノア様のことについて報告が届きました」
「わかった。そのまま続けて」
「はい」
ノアの報告と聞いた瞬間、先ほどまでのおっとりとしたものから獲物を狙う蛇のような雰囲気へと変わった彼女は、それでもケーキを食べながら話を続けるよう促す。
「公爵家に忍ばせている密偵の話によると、今から約半月ほど前、ノア様の職業選定の儀が行われたそうです。そこでノア様が授かった職業についてですが、魔法剣士とのことでした。
その後、屋敷に帰って来たノア様はすぐに地下牢へと入れられ、それから一週間、ロイド様による暴行を受けていたとのことです。しかし、ノア様のお世話をしていたメイドがノア様を連れ出し貧民街へと逃走。密偵が到着した頃には暗殺者たちの死体だけが転がっており、ノア様とそのメイドの死体は確認されませんでした。そして、ノア様はその後行方不明とのことです。
しかし、ノア様が行方不明となったことで、公爵家はノア様が貧民街にて殺害され死亡したという嘘を公表。犯人として、貧民街の男が処刑されたと書かれております」
「なるほどね」
公爵家にはイリアが忍び込ませた密偵が何人かおり、彼らは執事やメイドとして活動しながら常にノアの監視を行いイリアに報告していた。
その理由は簡単で、イリアがノアの全てを把握し、そして彼を守るためだった。
彼女はノアの母親が生きていた頃から、彼らの扱いが酷いものであったことは知っており、母親が死んだ場合、ノアの扱いが更に酷くなることは簡単に予想することができた。
そのため、ノアを守るために彼女は個人で雇ったメイドや執事を公爵家へと忍び込ませると、それからはノアの行動や扱いなどを全て報告させていたのである。
「あまり驚かれないのですね」
「うん。こうなる事は予想できてたからね。流石に職業までは予想できなかったけど、パターンごとにいくつか予想はしてたんだ。そのうちの一つが当たっただけだから、そこまで驚くこともないでしょ?」
「ですが、ノア様が行方不明というのは些か心配と言いますか……それに、手紙の最後には公爵家がノア様の死亡を公表したとあります。もしかしたら……っ!」
ナーシャがノアが死んだ可能性について口にしようとした瞬間、彼女の顔の横を何かが掠めると、後ろの壁にはイリアが先ほどまで使っていたフォークが刺さっていた。
「ナーシャ。それ以上言ったら、いくらナーシャでも許さないよ?」
「失言致しました。お許しください」
「わかってくれればいいよ。それに、ノアが死ぬなんてあり得ないよ」
「その理由をお伺いしても?」
「お義母様が死に際に言ってたんだ。ノアには自分の祝福を与えたから大丈夫って。命が危なくなった時、自分が助けるから安心してって」
「お義母様というと、前公爵夫人がでしょうか」
「当たり前でしょ?それ以外にノアにはお母さんなんていないよね?あ、結婚したらあたしのお母さんもノアのお義母さんになるのか。でもそれはまだだからやっぱり間違ってないよね」
イリアはノアとの将来のことを考えたのか、しばらく幸せそうに笑った後、ナーシャが新しく渡したフォークで残りのケーキを口に入れて行く。
「では、ノア様の捜索をいたしますか?」
「うーん。今はいいかな。探すなら自分で探したいし、何よりノアのことだから、そのうち公爵領に戻ると思うよ」
「戻る?さすがに危険すぎるのでは?」
「今すぐにって事じゃないよ。力を付けて強くなったら、きっと自分から戻ってくる。探しても見つからなければ、最悪公爵領にいればノアには会えるよ」
「何故、そう思われるのですか?」
「だってノア、負けず嫌いだもん」
「負けず……嫌い?」
「そう。ノアは自分では気づいてないみたいだけど、彼の心には黒い感情がたくさん詰まってる。嫉妬、怒り、破壊衝動……とにかく色んな感情が溜まりに溜まって、ぐちゃぐちゃになって、そんな自分に気づかないように蓋をしている。それは、今はまだ自分に自信がないからで、力がないと思ってるから。でも、力を手にして自信がついたら?感情が爆発して復讐しちゃうかもね」
「あのノア様が復讐を?想像がつきませんね」
「当然だよ。それに気づいているのは、あたしとお義母様だけなんだから。あぁ、ノア。優しいノアも好きだけど、そんな醜いノアも大好きだよ。復讐しようとした時にあたしが捕まえて監禁したら、その大好きなノアをずっと見ていられるかな。でも、あたしは綺麗で優しいノアも大好きだから、どうしたらいいのか迷っちゃうよ。早く会いたいなぁ、ノア。いつか絶対に見つけてあげるからね。小さい頃、ノアがあたしを見つけてくれた時みたいに。だってあたしたちは、結ばれる運命にあるんだから。はは…ははははは……」
そう言って楽しそうに笑うイリアの瞳は光が消え暗く濁っており、その姿はゲーム時のイリアとは似ても似つかないほどに独占欲と狂愛に染まっていた。
この世界がゲームでは無くなったということは、ノア以外のキャラたちも本来の性格へと戻り強制されなくなったということであり、プレイヤーウケをするための強制力が無くなったということでもある。
つまり、純粋な愛情を向けていたゲームのイリアは世界が強制していた作られた人格であり、本来の彼女はノアを狂気的なまでに愛するヤンデレだったのである。
「ノア…ずっと、ずっとずっとずっと大好きだよ。だから……浮気なんてしたらどうなるか覚えててね」
イリアは最後に残して置いた大好きな真っ赤なイチゴにフォークを突き刺すと、それを口へと入れゆっくりと咀嚼するのであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
これにて一章完結となります。
最後にノアの婚約者であるイリアさんが出てきましたが、かなりヤバい子になってしまいましたね。
ノアは別に好きな人がいると言ってますし、はたしてイリアに見つかった時、彼はどうなってしまうのでしょうか。
次は第二章、『師弟の再会編』に入ります。
ここまで読んでいただき、面白い、続きが気になる、作者ファイトと応援してくださる方は、作品のフォロー、☆や♡、コメントやレビューなど頂けると今後の励みになります!
どうぞ今後も応援のほど、よろしくお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます