第20話 ギフト

 夜の双子の森に入り始めてから早くも二週間が経った。


 最初の一週間は、森の浅いところでトレントやナイトウルフの群れを相手に俺とエレナのレベル上げを行い、次の一週間は森の中域あたりに入り、Aランクのオーク・ジェネラルやブラックタイガーとの戦闘で戦闘技術とレベル上げに力を入れた。


 おかげで俺のレベルは59まで上がり、エレナは50まで上がった。


 ただ、やはり森の中域まで入ると、ほとんどの魔物が単体でしか行動しておらず、食べた魔物の数は583体とあまり増えていない状況だ。


 その代わりと言ってはなんだが、スキル悪喰の効果で魔物たちのスキルを獲得することができ、トレントの〈吸収〉、オーク・ジェネラルの〈剛力〉、ブラックタイガーの〈三虎爪〉を獲得した。


 また、同じ魔物からスキルを獲得して分かったことだが、同じスキルを獲得した場合、そのスキルのレベルが上がることが分かった。


 そのおかげでナイトウルフから獲得した影移動のスキルがレベル2に上がり、移動できる範囲を広げることができた。


「ノア様、ブラックスパイダーが来ます」


「りょーかい」


 Bランクのトレントを五体倒して解体をしていると、周囲の警戒をさせていたエレナが次の獲物が来たことを知らせてくれる。


「キシャャャ!!」


「これはまた大きくてキモいなぁ」


 トレントがいなくなったことで開けたこの場所に現れたのは、黒い体に複数の赤い目、そして鎌のように鋭い牙と槍のように尖った足を持つ巨大な蜘蛛型の魔物だった。


「ブラックスパイダーは動きが速いのと牙の猛毒、それと獲物を捕まえるために使用する糸が厄介だな」


「そうですね。私が奴の気を引きますので、ノア様がとどめをお願いします」


「はいよ」


 エレナはそう言って身体強化を使うと、まずは短剣をブラックスパイダーの目に向けて投擲し、意識を自身へと集中させる。


(蜘蛛型の魔物は目があまり良くない。だが、その分体毛での察知能力が高いからな。一瞬で決めないと)


 蜘蛛系の魔物は目が八つあるにも関わらず、あまり視力が良くない。


 しかし、その分体から生えている毛がかなり敏感に反応するため、僅かな風の動きや気配の動きを察知して動くことができる。


 そのため、例え死角からの攻撃であろうと勘づかれてしまえば避けられるので、倒すのであれば気づかれる前に素早く倒さなければならない。


 エレナが気を引いているうちに隠密スキルで気配を消した俺は、静かに魔力を練って刀に込めると、縮地を使ってブラックスパイダーとの距離を詰める。


「刀術スキル雷霆之章『蒼虎爪雷』」


 蒼虎爪雷。刀に雷魔法を付与し、さらにブラックタイガーのスキルである三虎爪を複合した俺のオリジナル技で、一振りで雷を纏った三本の斬撃が、まるで虎の爪のように広がり攻撃することができる。


「キシャャャ!!?」


 雷魔法は光魔法に次ぐ速さをもつ属性魔法であり、さらにその威力は属性魔法の中でも一番高い。


 そんな一撃をブラックスパイダーが避けられるはずもなく、奴は体毛で雷を感じ取ったようだが、気づいた時にはすでに遅く、ブラックスパイダーは縦に四つに分かれて息絶えた。


「お疲れ様です。ノア様」


「あぁ。お疲れ」


 ブラックスパイダーの気を引いていたエレナは魔物が死んだのを確認すると、短剣を鞘に納めながら戻ってくる。


「怪我は?」


「ありません。気を引くだけでしたので、攻撃を避けるのも楽でしたから」


「そうか」


 確かにエレナの言う通り、彼女の体には擦り傷一つなく、服が破けたりした様子も無かった。


「んじゃ、食べますか」


「ですよね。虫…蜘蛛…虫…うぅー、虫は食べたくないですね。でも食べないといけませんもんね。あぁ、私の乙女としての大切な何かが消えていく気がします」


 エレナは一人でぶつぶつと何かを言いながら俺が切り分けたブラックスパイダーの肉片を食べると、目を瞑ったままぷるぷると震える。


「くっそマズ。味も悪いし何より体液が気持ち悪い」


「一々感想を口にしないでください。吐きそうになります」


「何かを喋ってないと、それこそ味をしっかりと味わうことになりそうで嫌だ」


 俺たちはその後も、互いに文句を言い合いながらなんとかブラックスパイダーの肉片を食べ終える。


『レベルアップしました。現在のノアのレベルは60です』


『レベルが60に到達しました。ギフト神眼のレベルが2に上がりました』


『レベルが60に到達しました。ギフト完全記憶のレベルが2に上がりました』


(ん?ギフトのレベルが上がったな)


 どうやらレベルが60に上がったことで、神眼の完全記憶のレベルが上がったらしく、俺はさっそくステータスを開いて鑑定をしてみる。


※※※※※


〈神眼(レベル2/10)〉

・スキルの鑑定が可能。対象のステータスの詳細鑑定が可能

・アイテムの鑑定が可能


〈完全記憶(レベル2/3)〉

・一度見た動きや本などの知識を記憶することができる

・自身のコピー体に記憶を分けることが可能。また、コピー体を消した時、コピー体の記憶が本体の記憶に保存される。

 但し、コピー体の活動時間および得た記憶量に応じて頭痛が酷くなる。


※※※※※


(おぉ。神眼はステータスの詳細鑑定が出来るようになったのか。それと、完全記憶はコピー体に記憶を分かられるし、コピー体の記憶を保存することもできるのか)


 神眼はレベルが上がったことで自分以外の相手のステータスがより詳しく見れるようになり、さらに魔道具や薬草などのアイテムも鑑定ができるようになったようだ。


 そして、完全記憶のコピー体というのはおそらく闇魔法の像影体視ドッペルゲンガーと影分身のスキルのことで、二つの魔法は自身のコピーまたは分身体を作り操作することができる。


 しかし、生憎と俺はまだ闇魔法も影分身のスキルも覚えていないため、便利そうな効果ではあるが、直近で使用することはなさそうだった。


そのため、すぐに試すことがあるとすれば、それはやはり神眼のギフトの効果だろう。


(試しにエレナの鑑定でもしてみるか……神眼)


※※※※※


【名前】エレナ・マルシェ

【年齢】13歳

【種族】人族

【職業】平民・暗殺者

【レベル】51


【スキル】

〈短剣術〉〈隠密〉〈気配感知〉〈罠感知〉〈投擲〉〈暗視〉


※※※※※


 レベル2に上がった神眼でエレナを鑑定してみると、前には見ることのできなかった彼女の所持スキルまで確認することができるようになっていた。


「な、なんですか?じっと見つめて」


「いや。ちょっとお前のこと鑑定してた」


「鑑定?そんなこともできるんですね。あ、だから目が金色に変わってるのですか?」


「は?目の色が変わってる?」


「はい。綺麗な金色の瞳に変わっています。とても神秘的ですよ」


 俺はエレナに言われたことが本当なのか確認するため氷魔法で鏡を作ると、そこにはいつもの薄水色の瞳ではなく、まるで神のような神聖さすら感じさせる金色の瞳に変わっていた。


「これは…」


『神眼を使用している際の変化です。神眼は読んで字の如く神の目。その力を使うのであれば、人間の目でその力に耐えることはできません。よって、このように使用に適した色へと変化しているのです』


 レシアの話によると、神眼とは本来神が持つ特殊な目のことをいうらしく、俺のような普通の人間がこの力を使った時、あまりの情報量と力の影響で失明もしくは脳が処理しきれず死に至るらしい。


 しかし、レシアが神眼のギフトを無理の無いよう調整し、さらに神眼を使う時は擬似的に目を神格化させることで対処してくれているらしく、その影響で瞳の色が変わっているとのことだった。


(まぁ。変わってしまうものは仕方ないし、神眼は便利だから使うのをやめることもできない。我慢するしかないか)


 鑑定を使うたびに瞳の色が変われば、俺が何かをしていると相手に教えるようなものだが、神眼を使う方がメリットも多いため妥協することにした。


 その後もしばらくの間は蜘蛛系の魔物やオーガの群れを相手にし、食べた魔物の数が600体になったところで宿屋へと帰った。






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