第3話 転生者

3 転生者



「兄貴、売り払う前に俺らで味見をしましょうぜ。」


「馬鹿!生娘だと、倍値で売れる。味見は後で出来るだろ・・・」


「そうですね。これから、ガッポリ稼がせますか。」


男の人が、こんなに怖いなんて知らなかった。お父様もレオンハルト様も優しかった。

・・・怖い、怖い、・・・誰か助けて・・・レオンハルト様・・・



   ***



「アーネスト、気が付いたか。」

レオンハルトは、目覚めるまでアーネストの側に付いて居た。


「深い緑色の艶やかな髪に、深い緑色の瞳!!」

「あれっ?レオンハルトルートに入った?あぁ美形だ~。」

「ってここ何処?」

「違う違う・・・私、乙女ゲームしてて・・・事故に遭ったんだ。」

「って事は・・・これって、今流行の転生ってやつ?」




   ***


話を要約すると、彼女の名前は『クルミ嬢』と言うらしい。

異世界からの転生者で、乙女ゲームとやらを攻略する事が目的だと言う。

卒業一ヶ月前に、私が開催するお茶会まででエンディングが決まるのだとか。


理解し難い話ではあるが、設定とキャストを知っているから安心しろと・・・

取り敢えずは、アーネストらしからぬ少し歯をみせた笑顔に違和感を覚え

外に出るときは、扇で口元を隠すように言った。


それ以来、学園では・・・



「シャルマン様、お勉強を教えて下さい。」

「ヘンリー様、棚の上の本を取って下さいませんか?」

「エリオット様、花壇のお手入れを手伝います。」

等と、次々へと攻略を重ねていった。



その様子を横目で見ていたシャルロット嬢が

「はぁ・・・レオンハルト様が・・・」と呟た。


「そうですわ。レオンハルト様がお可哀想です。」


「レオンハルト様も、我慢なっさってるのですわ。」


「レオンハルト様から、婚約を解消なされば良いんですよ。」


シャルロット達は、アーネストから少し距離を置く様になった。

シャルロットの派閥には、貴族令息達もいた。


先の戦争で、貴族達の中には大財を失った者もいて

地位、財産、美貌、知性、品位、シャルロットは全てを兼ね備えた稀な貴族令嬢だ。

この学園で一番の優良物件であることは、間違いない。

令息達はシャルロットを射止め様と、頑張る者も沢山いた。


そんな令息達から、アーネストはカメレオン伯爵令嬢と呼ばれていた。

騎士団長子息、司祭子息、宰相子息と相手に会わせてコロコロと態度を変える

アーネストへの批判の意味を込めて。



レオンハルトは今日もアーネストを迎えに行った。毎日の学園の行き帰りは、約束していた。


「おはよう、アーネスト。」


「・・・・」


「クルミ嬢?」


「初めまして、レオンハルト様。『レイカ』と申します。」


「???」



   ***


転生者がもう1人現れた。


レイカ嬢の話によると、『クルミ嬢』が遭った事故の現場に『レイカ嬢』も居たらしい。

突然車が歩道に突っ込んで来た為、5人の死亡者。8人の重軽傷者が出た悲惨な事故だったそうで

その2人の令嬢が、時を同じくして、同じ人に転生をしてしまったのだ。


幸いにしてレイカ嬢は、慎重な性格らしい。

クルミ嬢が、キャッキャ・ウフフと攻略を重ねている間

アーネストの中で色々と観察をしていた様だ。

「私も乙女ゲームのプレイヤーですが、私はレオンハルト様一筋ですので。」


レイカ嬢はそう言って、クルミ嬢の暴走を止める手助けをしてくれると言う。

乙女ゲームとは、攻略相手の好感度を高め、イベントで手応えを確認する。

それを卒業前のお茶会まで繰り返し、卒業パーティでエンディングを迎えるらしい。


「私は空手の有段者です。いざとなったら、殴ってでもクルミさんを止めます。」


空手?・・・何やら武術らしいが、精神世界に暴力が通用するのか?

そもそも、アーネストの中で暴力が繰り広げられるのは、如何なものか。


前途多難の予感が・・・

それでもレイカ嬢の協力を得て、卒業まで乗り切るしか方法が無かった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る