第42話 嫉妬の化け物
「ひょえー......でっかいビルだなぁ」
聳え立つガラス張りの巨大な高層ビルに俺達は到着した。
「ここが芸能事務所シーフィールドのビルよ」
「へぇ......あらゆるオタク達から吸い取った金がこのデススターに集結してるってワケか。ル○クかジェ○イが居たら真っ先にぶっ壊してくれるのにな」
「くだらない事言わないの! アイラは今ホストざむ○いなんだからクールキャラに徹してよ?」
「はいはい、それじゃ皇帝パル○ティーンに挨拶しに行きますか」
「おにーちゃんのたとえ話つまらないしダサぁ〜い♡」
「いいかチンチクリン、今度そんな口聞いたらライトセーバーを喉奥まで突き刺すから覚悟しとけ」
「冗談はこれくらいにして行きましょう」
俺達がビルの中へ入るといかにも顔採用されてそうな美人なお姉さんが受付に座っていた。
「お世話になっております。18:00より社長様にアポをお願いしております月野と申します」
「お世話になっております月野様ですね、すぐお通し致します━━」
* * *
社長室にて━━。
「失礼します」
ガチャリ......。
「待っていましたよ月野社長、そこに掛けて下さい」
扉を開けた先には小太りでメガネを掛けた後頭部が少し長い髪の薄いおっさんが座って待っていた。
「お世話になっております。では失礼します」
俺達4人は応接用のソファーに腰掛けるとおっさんも対面のソファーに腰を掛けた。
「月野社長は何度か会ってるが君達とは初対面だな。私はシーフィールド代表取締役を務める 《
海原智博......俺を虐めていた海原清史楼の父親か━━。
「初めまして、多田井由美です」
「初めまして明星亜依羅です」
「つきのさくやれす」
俺達はそれぞれ挨拶を交わした後、話し合いが始まった━━。
「月野社長、妹さんの消息はその後見つかりましたか?」
「いえ......今もまだ......」
「そうですか......我々もウチの元所属アイドルとして彼女の行方を探してますが残念だ。では話を戻して......早速ですが事務所統合の件は御承知頂けましたか?」
「申し訳ありません。メールでも何度もお話ししておりますが......私共にそのつもりはありません」
月野社長の反応に海原父は眉を顰める━━。
「何故? かなり良い条件を提示しているはずですよ。我々も今はiTubeなどのネット配信にも力を入れている......今人気のある多田井君、明星君も我々の業界への影響力をもってすれば更に人気になれる。悪い話じゃないと思うんだが......」
「確かに御社の業界への影響力は圧倒的です。ですが我々にもプライドがありますし、今ここにいる由美や娘の咲耶、月村きんせいや明星も私にとっては家族も同じです。なのでありがたいお話ではございますが遠慮させて頂きます」
断固とした姿勢に海原父は薄い頭を掻きむしりながらイラつかせていた。
「社長は頑固者だ......この先この業界で生きていけなくても知りませんよ? 今まで小さな事務所を散々見てきだが我々に逆らう者達は皆一様に消えていった......中には借金が嵩んで高飛びしたり所属タレントを堕としたり━━。君もそういう性を背負う、もしくは彼らに背負わせたいのか?」
「そういう訳では......ですが私は私のしたいように彼らをプロデュースしていきたいのです。それに恐らく統合されたら私は即日クビになると思いますし━━」
「ふん......若くしてそこまで上り詰めた人だからどんなもんかと思えばエゴで凝り固まった小さな人間ですな。まあ次にタレント本人達に聞いてみましょうか、多田井さんは我々の事務所で働く気はあるかな?」
ゆーちんは海原父に敵意剥き出しのまま口を開く。
「私はゆり社長と共に助け合ってここまで来た身なので社長以外の事務所への所属はあり得ません━━」
「......我々の所に来ればiTube以外にも活躍の場を広げられるんだぞ? それが惜しくないのか?」
「別に何とも思いません。私にもその夢はありますがそれはゆり社長と叶えたいと思っているので━━」
ゆーちんの固い意志に海原はまたもイラつきこめかみの辺りを指で齧りながら下を向く。
「......そうか、君も社長に似て頑固者だな。だがこれを断れば恐らくそんな仕事は2度と回ってこないだろう━━。その時に後悔しても遅い上に他にも辛い事が待っているぞ? まあいい......では最後に明星君、君は事務所に入って日が浅いだろ、どれくらいだ?」
「まだ所属して1週間経ってないですね」
「1週間か......そんなちっぽけな弱小事務所より我々の方が君を生かせるし、私も心底嫉妬するそのルックスが有れば今活躍している俳優やモデルなんかすぐ追い抜いてスターになれるぞ」
ゆーちんが崩れないから今度は俺におはちが回ってきたか......。
しかし言われっぱなしでムカつくな、ほんの少しこの狸ジジイを揶揄って俺に全てのヘイトを集めるか━━。
「ははは......僕は美人にしか従わないルッキズムの塊なので移籍は無理ですね。貴方はどう頑張って見てもエマ・ワト○ンには見えないし━━」
「おい小僧......その口の聞き方はなんだ?」
食いついてきた......眉をピクつかせて必死に怒りを抑えてやがる。
俺の目的は月野社長やゆーちんを手籠にするよりも前に俺に固執させて隙を作る事だからな、存分にイラついてくれよ━━?
「すみません、僕は不破ちゃんみたいな失礼キャラで売り出してるんでつい癖が出ちゃって......。貴方みたいなオブジェクトは消しゴムマジックですぐ脳内から除去したくなっちゃうんですよ......」
「ふん、口だけは達者みたいだな......舐めた口聞くのは良いがお前みたいなクズの三流タレントなんざ幾らでも潰せるんだぞ?」
「なるほど......貴方はそういう脅しで今まで他のタレント達を
「ふんっ......だったらなんだって言うんだ。所詮この業界はコネと力だ、それがあればなんだって出来るんだよ小僧。アイドルの1人や2人モノにすることなんざ簡単だ━━」
「おー怖い......なら余計に移籍は嫌ですね。そのうち『僕のソーセージ食え!』とか脅されてそれを訴えても記憶が無いとか有耶無耶にされそうですもん」
「ふっ......それで済めば良いがな━━」
「そうですか、まぁデカい事務所も創業者の名前が放送禁止用語になるくらいのレベルで潰されてましたからなんとも言えませんよね。貴方も油断してるといつか名前が放送禁止用語になるかもしれませんよ
「ぶっ......!」
俺の言葉にゆーちんと社長が少し笑ってしまった。
その反応に遂に海原も冷静さを失い声を荒げる。
「なんだと!? 貴様らも何がおかしい! あとさっきから思ってたがそのスーツとネクタイはなんだ! 明らかにマナー違反だぞ!」
「すみませーん、僕だけこの会社を葬場と勘違いしてまして......でもいざ入ったらお通夜以上の雰囲気でびっくりしましたよ。ある意味この服で来て正解だ、速やかにその希望の薄い頭にお焼香させて下さい━━」
「小僧......これから夜道には気をつけろよ。今のご時世いつ何が襲って来るかわからないぞ? 私には幾らでもそういった手があるからな━━」
「ははっ、貴方も言葉には気をつけた方が良い。誰にいつ録音されてどんな週刊誌が襲って来るか分かりませんからね。ほらコレ━━」
俺はスマホを取り出してボイスメモを再生する━━。
『これから夜道には気をつけろよ。今のご時世いつ何が襲って来るかわからないぞ? 私には幾らでも━━』
「っ......!」
「ね? 僕を頭の中がハッピー○ットなバカだと勘違いするからですよ。さて交渉を続けましょうか社長さん、僕の雇い主にこれ以上脅し掛けるなら知り合いの暴露系iTuberや気合の入った記者にコレを垂れ流しますけどどうしますか......?」
「っ......! 覚えてろよ小僧! 帰れ! 話はおしまいだ!」
「自分から呼んどいてチェンジとかデリ○ルかよ......コレだからEDな老害は困る。そのうち郵便局に立てこもって捕まりそうですね」
「うるさい帰れ帰れ! お前らも全員だ! さっさと消えろ!」
「おーおー怖い怖い......では失礼しまーす」
俺達は怒り狂う海原父を横目に部屋を出て会社の外に出た。
「アイラ君、私達の為に色々言ってくれたのは嬉しいけど大丈夫? あの調子だと貴方今後何されるかわからないよ?」
「良いんですよ別に、僕は2人と違って芸能界で失うものが無いんで。あの社長は今事務所の統合やゆーちんの事よりも僕にヘイトが向いてる......恐らく息子の清史楼もゆーちんよりまず先に僕に何かして来るでしょう。脅しのデータも持ってますしね」
「アイラ......にしてもあのジジイマジムカつく! 社長を良いように言ってくれちゃってさ!!」
「良いのよ、私としてはそんな事より2人があの場で即答で断ってくれた事が嬉しくて何も思わなかったよ。本当にありがとう」
「......おにーちゃん普段はよわよわなのに今日はかっこいいじゃん......♡」
「お前分からせられるの早くね......?」
「咲耶は全く素直じゃ無いんだから━━」
月野社長はニッコリとした笑顔で俺達にお辞儀をした。
「それじゃ僕はこの格好で美人なお姉さんでもナンパしてくるんで別方向に帰りますね! お先に失礼しまーす」
「アイラ! ナンパなんて絶対ダメだからね! 一応有名人なんだから身の振り方考えてよ!」
「分かってるよ、ドンキでアルコールジェルでも買ってファンの握手に備えるさ。じゃあまた」
俺は2人と別れて1人街の方へ歩き出した━━。
* * *
「あの女社長め......俺が苦労して駆け上がってきた階段をいとも簡単に登りやがって! ああいう若くて有能な人間を見てると俺はムカついて仕方ないんだ! それにあの小僧.......音声データを回収次第アイツには死んでもらう......大人の怖さを思い知らせてやるさ!」
プルルルル......ガチャ......。
「もしもし......俺だ。今日来たガキの写真を転送するからコイツを事故に見せかけて始末してくれ━━」
『了解です。ただ前回の人間が謎の消息不明になったので今回はそれを防ぐ為に複数人で行きます。その分費用は嵩みますが良いですか━━?』
「金なら大丈夫だそうしてくれ。だか事を大きくするなよ? いくら警察の上の連中が目を瞑っているとしてもな」
『大丈夫ですよ、今回は侠道会きっての戦闘と後処理に特化した
ピッ.......。
「また1人この街からガキが消える......7年前の時と同じか。あのガキは今でも夢に見るくらい死ぬ寸前の顔ですら涎が出るほど可愛かったな━━」
* * *
ゆーちんと別れた俺はいつもと違う帰り道を歩いていると━━。
「っ......!」
パリーンッ!
「おっと早速おいでなすったか......しかし普通の人なら死んでるぞコレ━━」
俺が歩いていた歩道のそばのビルから植木鉢が物凄い勢いで落下してきた。
それをきっかけに殺気を感じ取った俺はビルとビルの隙間を走り抜けて街外れの林のような場所へと抜けた。
そこで立ち止まると背後から複数人の気配が迫り振り返ると黒い戦闘服のようなものを着て、顔には黒い仮面を付けた5人の人間が月明かりに照らされて立っていた━━。
「わざわざ人気の無いところに逃げてくれた事、感謝する......」
「こちらこそ。だけど僕は敢えて人気の無いところに逃げたんだよ」
「そうか......その自信は結構だが一般人の子供がプロの我々相手に一体何を考えているんだ?」
「プロね......最近幼女になったヤツも同じこと言ってたっな。そいつは今人をイラつかせるプロになったよ」
「......なんの話だ? 戯言は仕舞いにしてお前を始末する。こっちも仕事なんでな......子供相手だろうが手加減無しだ━━」
「そうかい、じゃあお前ら全員殺して100点取ったらZガンにでも交換するか。家帰ったら大阪編でも読もうっと━━」
俺はネクタイを緩めて手の平から真っ黒な日本刀を一振り生成してその刃を奴らに向けた━━。
「ほう、どういったマジックか知らんが威勢だけは良いな小僧......その度胸に免じて苦しまずに殺してやる」
「来なよ......1人20点の殺し屋星人共━━」
5人はそれぞれの武器を手に一斉に俺に襲いかかった━━。
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