第37話 作中最強の情けない男


 深夜2:00 丑の刻━━


「んん......」



 俺は布団を被っているにも関わらず肌寒さと息苦しさ感じて目を覚ました。



「なんか身体冷えるな......トイレでも......っ━━!」



 何だ!? 起きあがろうとしても首から下が全くピクリともしねぇ......また金縛りか!? クソッたれ......!


 俺は首をなんとか起き上がらせて足元の方を見ると、明らかに掛け布団の盛り上がり方が異常で確実に俺の上に誰か居るような膨らみになっていた。

 そして掛け布団の入口がトンネルのように隙間が開き、その奥の暗闇から何者かがコチラを睨みつけているのがハッキリと分かった。



「......まさか......」














「やっト見テくれタ......」



 俺の布団から顔を出したのは長い髪の毛が顔を隠れ、その髪の隙間から全開に目を見開いた女がコチラを覗いていた━━。



「こ......こんばんは......」


「?」



 遂に幽霊を間近で見て思考回路が停止した俺はありきたりな挨拶しかできなかった━━。


 そして女は氷のように冷たい指で俺の胸をなぞりながら首を傾げる。

 その仕草が俺にさらなる恐怖を掻き立て俺に大声を上げさせた━━。



「だ......誰か助けてくれぇぇっ! 悪霊退散! Exorcizamus te, omnis immundus spiritus! てくまくまやこん! アブラカタブラ! スカイミラージュ! ばん解! エクスプロージョン! マザーフ○ッカー! 息の呼吸嘘の型! エクスぺクト・パトローナム!」


「???......ナニをイッてイるノ?」



 俺の知ってる限りの幽霊に効きそうなセリフを全部叫んだが全く効果が無く、俺を押さえつける力が更に強くなる━━。



「くっ......! か......カタカナの羅列が下ネタみたいになってるぞ! そそそれに身体を拘束するなんて卑怯な真似しやがって......お前は僕に一体何の用だ!」


「カレ死ノおウ血......キちゃッタ......」


「 彼氏とお家をおっかない変換させるんじゃねぇ! 《ミィリアド・ロンヒ!槍の雨》」



 ス゛ト゛ト゛ト゛ト゛ト゛ト゛ッ━━!



「《コンゲラーティオマゴー!氷結の魔女》」



 パキパキパキッ━━!



 鉄の槍が雨の様に天井から降り注ぎ、俺の身体と布団ごと幽霊を貫通し布団はただの布切れになった。

 そして氷結魔法で槍ごと凍らせて幽霊を更に拘束しようとした━━。



「ヘヘッ......これならどうだっ! 僕自身も刺したが元々お前のせいで動けないからどうってこ.......んっ!?」


 布切れになった布団から現れたその女は俺が生成した槍をすり抜けて平然と立ち上がり首を傾げた。



「??」


「なぁ......嘘だろ......?」



 そいつの見た目は目を見開いてこそ居るがとても整っていた。

 そして血に染まりビリビリに破けた薄手の白いワンピースから見えるスタイルは抜群で童貞の高校生には破壊力抜群の胸の大きさだった。

 しかしその体は少し透けていてやっぱり人間じゃないと認識せざるを得なかった━━。



「この化け物めぶっ殺してやる! いやとっくに死んでたかチクショウ......! だがこれならどうだ! 《ヴァジュラ!雷電》」


「??」



 雷魔法による雷撃を幽霊に加えたがヤツはピンピンしていた。



「あらゆる攻撃が効かないのか......作中最強は僕じゃ無くてコイツだったのかよ! 一体どうすればいいんだ......!」


「まァまァ落ち着いテ━━」


「うるせぇお前が言うな! ていうかお前数日前から居ただろ!? いい加減家から出てけよ! 頼むマジでお願いします、う○い棒とワ○カップ墓に供えるからさぁ!」



 今の俺では......というか人類ではコイツに打つ手が無いので泣き落としと媚び売り作戦に出てヤツの隙を窺う。



「......デレなイ......」


「は? お前にデレ要素求めてねーよ早く帰れ! 何もしないなら帰れ! 山口○也するぞ!」


「違ウ......ココから出レないの━━」



 幽霊は見開いた目を元に戻して少し困っている様子を俺に見せた。



「え......何で? どしたの.....?」


「......ソレのせイ......」



 幽霊が細い指で差したのは四方に盛られた塩の一つだった。



「塩......? まさか塩がバリアになって逆に出れないのか!?」


「ソウ......ココで座っテ待ってタら塩を盛られテ出られなくなっちゃっタ......」



 幽霊は悲しそうな顔をしてしゃがむと再びうつ伏せの態勢になり俺を上目遣いで見つめる。

 その顔がちょっとだけ可愛いと思ったが俺はこのチャンスに漬け込むしかないと思ったため行動に出た。



「分かった......今塩を退けるから金縛り解いてくれよ......な?」


「ウン......」



 すると俺を押さえつけていた重さは無くなりいつもの様に軽く身体を動かすことが出来るようになった。



「やっと解放された......今から退かすから絶対に何もするなよ?」



 俺は幽霊の方を警戒しながら盛り塩をゴミ箱に捨てた。

 そして動けるようになった事を活かして机の上にあったガムテープを持ち幽霊に襲いかかった。



「お前にはこれで大人しくしててもらおう! おりゃあぁぁっ!」


 スカッ......。


 やはり俺の攻撃は幽霊の身体を俺はすり抜けてしまい結局何もする事が出来なかった。



「チッ......やっぱりダメか......。どうすれば━━」



 すると幽霊は俺に近づき冷たい手で俺の頬を優しく撫でた。



「は!? 何でそっちは触れるんだよ......! こんなの勝てるわけねぇだろ!」


「フフッ......ワタシが触りたいと思っタら触れるノ。そしてワタシが触られたいと思っタらアナタはワタシに触れられル」


「待て待てそんなのずるいだろ! チートだチート! このクソチート女! 本当何しに来たんだよお前!」


「それハ......アナタに一目惚レ......」


「やめてくれ......僕は幽霊やお化けが大っ嫌いなんだよ......頼むから帰ってくれ!」


「......嫌......ワタシ帰りたくなイ......!」



 幽霊はその場でプイッと横に向ける━━。



「そのセリフは生身の女限定で言われたいセリフ第三位なんだよ......。マジでどうすれば帰ってくれる?」


「......ワタシの恨みを晴らしてくれれば多分成仏出来ル」


「恨み? その見た目.....もしかして誰かに殺されたのか?」


「ウン......ワタシ殺されタ......ある男ニ......。モシ殺してくれたラこの能力ヲアナタにあげル」


「この能力って......自分からは触れるけど向こうからは任意でしか触らせない力の事か?」


「ウン......普通の人にハ出来ないけド......特殊な身体ノ貴方にはあげれル」



 マジか......その能力が手に入れば鬼に金棒だな。

 


「その話乗った、それでソイツは一体誰なんだ?」


「その男は━━」


「━━そうか......実は次のターゲットはソイツに関連する人間なんだ、手間が省けたよ。ところで君の名前は何ていうの?」


「ワタシは月野レイ。よろしくネ」


「よろしく、僕は明星亜依羅だよ。それよりその湾岸ミッド○イトみたいなカタカナの語尾が無くなればもっと聞き取り易いのになぁ」


「仕方なイ、だってワタシは死んでるかラ」


「そこ関係あるんだ......じゃあとりあえず僕は寝るよ、布団ビリビリだけど━━」


「だよネ寒くなイ? 私が隣で寝てあげるヨ......」


「勘弁してくれ余計寒くなる! 厚着して寝るから僕の事はほっといてくれ」


「......おやスみなさイ」



 俺は幽霊に背を向け離れるようにして眠りについた。

 だが寝ている間レイの冷たい手がずっと俺の頭を優しく撫でているような気がした━━。



*      *      *



 翌朝を迎えた俺はベッドから起き上がる。

 すると昨日の可愛い顔とは打って変わって鬼のような形相で俺に迫るレイを見てやっぱり昨日のことは夢じゃないと悟った━━。


「ねェ! コレ見テ!」


「おはよう......悪霊みたいな顔してどうした? まさか朝日が苦手なのか? 一応幽霊だもんなそりゃ仕方ないさ!」


「違ウ! コレこの前アソコに来たオンナ? このオンナはアイラのナニ?」



 レイは怒りながら俺のスマホの画面を俺に見せてくる。

 画面にはゆーちんとのLIZEのやり取りが映っていた。



「ああ......この人は僕の同級生で雇い主だよ。人気iTuberなんた」


「ふーン......このオンナ呪い殺してイイ? 私のアイラに近づくオンナは許さなイ......!」


「ダメダメダメ! そんな罪も無い人呪い殺したら速攻で地獄行きになるぞ! それにそもそも僕はレイのモノじゃないからな!」



 コイツそういう女のメンヘラちゃんタイプだったのか.......!



「ダッテ! 他のオンナとアイラが楽しそうニ話してるのヲ想像すると辛いんだもン。そうダ......ワタシが死んだらアイラはワタシを忘れないデずっと気にかけてくれるよネ━━?」


「いやアンタとっくに死んでるだろ!? 頼むから幽霊ジョークをいちいち挟むのやめてくれリアクションに困る」


「フフフッ......冗談だヨ、学校気をつけてネ。夕飯は作っておくかラ。あと帰る時はテレパシー入れてネ♪」


「その『LIZE入れてね♪』みたいなテンションで『テレパシー入れてね♪』って言われても普通の人間には出来ねーから! それに今夜はゆーちんの社長と会わなきゃ行けないから夕飯は大丈夫だよ。気を遣ってくれたのにごめんね......」


「いいヨいいヨ、ワタシアイラの帰りのんびリ待ってるかラ。でも放課後迎えたら2分おきにテレパシーしてネ、しないとそのオンナ殺ス━━」


「コイツメンヘラちゃんの皮被ったヤンデレちゃんじゃねーか! 本当にやりかねないからちゃんとテレグ○ム入れるわ」


「テレパシーでショ? じゃあ行ってきますのチューしよッ」



 幽霊はわざとらしく胸を押し当てて俺に抱きついてくるが俺はその冷たさに一気に背筋が凍った......。



「するかボケぇっ!! コッチはまだ幽霊もお化けもおっかないんだよ! 昨日の残ったココナツチ○コレートの粉掛けるぞ! それが嫌なら身体から離れろ! お前だけムーン○イトノベルズに送り込むぞ!」



 俺がレイの体を掴もうにも触れないため一方試合なのだが精一杯の抵抗を見せて身体を離そうとした━━。



「ムダだヨ......でも確かニこれ以上迫るとそうナリそうダカラやめておくネ」


「そうだぞ!? この作者が描写すると恐らく妙に生々しくなるから絶対にナシだ! じゃあ行ってくる!」



 俺は逃げるように制服に素早く着替えて家を出た。



「しかしレイの身体と服を見る限り酷い殺され方だったな......俺が復讐する連中はやはり揃いも揃ってクズばかりだ。逆にやる気を漲らせてくれてありがたいよ━━」

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