第26話 烏白馬角
私はアイラから渡されたチケットで久々にお母さんと旅行に来て二日目の夕方を迎えていた。
こんなに素敵な旅館に泊まったのは生まれて初めてだったのでとても興奮していた反面、アイラは何故こんな高そうなチケットをこのタイミングで渡してくれたのか気になっていた。
ストーカーの件といい彼は勘が良すぎるように感じる━━。
「由美、もう一回一緒にお風呂行かない?」
「うん行く! 支度するからちょっと待っててね」
「はーい、アイラ君にはいろいろ感謝しないとね......。彼がしてくれた気遣いの為にも私達は今を存分に楽しまないと」
「そうだねぇ、帰ったらちゃんとお礼しようと思うんだ」
「良いわねそれ。それより由美は......彼のこと好きなの?」
「ブッッ! なななななに突然!?」
唐突な言葉に驚いて動揺する私にお母さんは全てを見透かしたように私の顔を見る。
「だってあんなにカッコよくて気配りも上手で人のために一生懸命になれる子なんて早々居ないからねぇ......おまけに背も高いし━━」
「はい!? かかカレとは......びび......ビジネスパートナーだから今は! それに多分とびきり可愛いが彼女いるでしょ、学校でもモテモテだし......」
「分かりやすいね由美は。彼、敢えて作ってない可能性高いよ? これはお母さんの予想だけど彼の含蓄ある言葉を聞いて多分昔大切なものを失った事があるように感じたの。だから敢えて周りには笑顔で誤魔化し一定の距離を置いて心に防衛線張ってる気がするわ......」
「それは私も感じてた。それと......」
「それと......どうかした?」
彼にはそれとは他に大きな秘密がある気がする━━。
「ううん、何でもない。それよりお風呂行こっ?」
こんなにお母さんと他愛もない会話を出来たはいつ以来だろうか......。
私は昔の日常が戻ってきた嬉しさを噛み締めながらお風呂に行くために部屋から出ようとした━━。
「由美! ちょっとこれ見て!」
「どうした? えっ......なにこれ......!」
私達親子がテレビ画面で見たものは木っ端微塵に破壊された
『ただいま大幸天照神宮の上空に来ています、見てください建物が一部を残して跡形もなく崩壊しています! 現在確認された死者は四人との事ですが一体この施設で何が起こったのでしょうか!?』
ピッ......。
『この動画をご覧下さい、上空に動物の顔をした人のようなものが浮いて光を━━』
ピッ......。
『あれは神がこの世に現れた証拠だ! 悪徳宗教を神自らが葬り去ったんだ! 人類の審判の日は近い!』
ピッ......。
『不自然に崩壊しなかった場所に4人の遺体が見つかったとのことですが一体どういうことでしょうか......』
『その件は今警察が捜査中とのことです。しかし信じられませんねこんな事が起きるなんて......』
『確かに、一部では北の偉い人から打ち上げられた弾道ミサイルとの情報がありますがその可能性は?』
『いえ、防衛省からそういった発表はありませんのでその可能性は無いと━━』
ピッ......。
『今回こうした形で宗教施設が壊滅した件で今後どうなっていくのでしょうか?』
『そうですねぇ......この動画を見る限り他にも神の名を語り悪いことをしている宗教があったら潰すと言っていますからね、もうハリボテのカルト教団達は終わりかも知れませんね』
ピッ......。
『テレビ桃京プレゼンツ、爽快! ショッピングスタジオサタデー!』
ピッ......。
テレビのチャンネルを一通り切り替えた私達2人は呆然と立ちつくしていた。
今見た映像がまるで映画のフィクションみたいで信じられなかったからだ......。
「私達......二つの意味で彼に救われたわね......」
「うん......でもこんなの普通あり得ないよ.......」
やっぱりアイラはタイミングが良すぎる━━。
* * *
翌日の日曜日━━。
「またまた休日出勤かよ......どこか温泉でも行って身体を休めたいよ全く」
「私も休みたいですが土曜にあんな事件起こされちゃ休むに休めないですよね。それにもう一大ニュースになってますし━━」
「ああ......あり得ないやり方でカルト宗教施設が木っ端微塵だもんな。テレビじゃ神の仕業だの外国のミサイルが飛来して来ただの、挙げ句の果てには宇宙人の仕業だとよ......適当な事ばっか言いやがって」
俺はため息をついた後タバコに火をつけてコーヒーを啜った。
「同感ですね......そう言えば鷲野さんの睨んだ通り現場からは黒羽真央の指紋と毛髪が見つかりました。それとその宇宙人よりあり得ない物が━━」
「......一体なんだ?」
「現場からライオンの毛と猛禽類と思われる羽が発見されました。ライオンの方は照合の結果本物で間違いありませんでしたが、羽の方は猛禽類と
「珍しい鳥にライオンね......まるで上野動○園だな。あの動画で見たライオンのお面はホントにホントにホントにホントにライオンの顔を被っていたって事か......」
「歌わなくて良いですよ......しかも半分は牛でしたし」
「全く訳が分からないよなあの格好は......でも今回は富田の時より少しヒントが多かった。今回の被害者の1人も殺された富田と同じ高校の生徒で同じ火傷文字に黒羽真央の痕跡、そしてケルビムみたいな顔をした天使が口にした犯行の自供、今回の事件で確信したよ。犯人は複数犯じゃない......単独犯だ」
「何故そう言い切れるのですか?」
「何故って......そりゃあんな化け物天使が複数も存在して欲しくない俺の願いだよ」
「はいぃ!? カッコつけて自分の願望を言わないでくださいよ! 何か重要な事を言うと思って期待しちゃったじゃないですか!」
「あのなぁ、あんな化け物の出現とスーパーナチュラルな殺人事件をはみだし者のおじさん刑事が分かる訳無いだろ? 今回は俺もお手上げだよ━━」
「確かに......気持ちはわかります......」
「だが単独犯なのは間違いない。黒羽真央以外の指紋や毛髪は見つからないし極め付けはあの動画だ......。普通複数犯でこんなメッセージ性のある殺人事件を起こしたらあの動画には必ず複数人で殺してますよってアピールしてくるはず、でもそうじゃないのは1人の犯行によるものだと心理的に裏付けているんだ。それに━━」
「それに?」
「2人目の被害者でハッキリ分かった。この二つの事件は被害者の高校生の
「......何故そう言えるのですか?」
「1件目にしても2件目にしても犯人は被害者が殺害予定現場に来る、もしくは居る事が確実に分かっていたとしか思えない程用意周到に殺す道具を現場に準備している......木の磔台や鉄の十字架とかな。だから犯人は殺害する人間の直前のスケジュールを怪しまれる事無く確実に知る事ができた人物━━」
「まさかそれって......」
「犯人はあの高校の生徒の誰かで間違いないだろう」
「ちょっと待ってください、それはいくらなんでも考えすぎでは?」
「何故そう思う? M.Kと腹に書かれた被害者のスマホには直前の居場所のやり取りは全く無かったんだ、もちろんGPSも動作していなかった。つまりスマホでわざわざやり取りする必要が無い場所で確実なスケジュールを知る事が出来ていたとしか思えない」
「確かに......でも高校生にこんな残虐な事━━」
「意外と子供の方が残虐な事を出来るからな。公園で笑いながらアリとか虫を殺したりしてる子供は居るが、大人は滅多に居ないだろ? それに今回も被害者にかなり恨みがある犯行だ、頭皮を引きちぎって針を体内から剥き出した後に燃やすなんてよっぽどだよ。まあ教祖やその取り巻きの殺害方法も化け物にしか出来ないくらい酷かったが......。何にしても黒羽真央と被害者2人の過去に何かあるのは間違いない━━」
「過去ですか.....」
「ああ、例えば
「わかりました。学校には月曜に私から連絡を入れておきますからその後訪ねましょう」
「ありがとう、気が利くなぁ東海林ちゃんは。そういえばあの施設の行事に参加していなかった信者が居たって話だが━━」
「はい、何人かいましたがその中でも少し気になった人物が......」
「それって多田井優子だろ━━?」
「何故それを......」
「あのばら撒かれていた資料を見て気になったんだ、あんなに教団へ金を払っている熱心な信者が今回不参加なんておかしいと思ってな。そしてあの莫大な金には何か裏があると思って色々調べたらなんと、多田井優子の娘は大人気iTuber 《ゆーちん》こと多田井由美だった。そして
「その調査力......流石です」
「しかもな......その子の顔めっっっちゃ可愛い━━」
「......は?」
「まさかこんなにあの高校が関連しているとはね、全く月曜日が待ち遠しいよ」
「アンタ何言ってるんですか!? 可愛い女子高生目当てに高校へ行くのがそんなに楽しみなんですか!? これだからめちゃオジは......変態!」
「お前......めちゃめちゃ勘違いしてるだろ? 俺はあのイケメンに会えるのが楽しみなんだよ」
「あぁ、そっちの方でしたかすみません......。鷲野さんが怪しんでるあの
「ああ......アイツには絶対に何か裏がある。今回出てきた羽根が生えたあの得体の知れない天使と同じ化物の匂いが━━」
* * *
「富田に続いて笛吹もあんな方法で殺された......奴らが殺された共通点はもうアレしか無いだろ! 次は誰だ......大葉か? 田所か? それとも俺か? 殺される......このままじゃ確実に殺される! 父さんに相談だ......父さんならなんとかしてくれるかもしれない!」
勘が良い1人の生徒はテレビで天使の映像を見た直後部屋に戻りガタガタと震えていた━━。
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