第21話 誘引


 俺はステルススキルを駆使してゆーちんの後を追い、彼女の家で現在起こっている事の大体を把握した━━。



「母親はカルト教団に両足を突っ込んでいた訳か......。ゆーちんの心情を察する鋭さは肉親が変わっていくのを間近に見てきた環境から来ているのかもな。酷い話だよ━━」



 そして笛吹がゆーちんの母親がカルト教団にご執心なのを知っていた事実......あの笛吹瑠衣子怠惰なクソ女は教団関係者か。


 もしそうならリスクはあるがヤツに近づいて探りを入れるしかない......さてどうするか━━。



「とりあえず家に帰ろう.....」



*      *      *



 俺が家に帰ると珍しく養母の瑠奈さんが俺の部屋で夕飯を作ってくれていた。



「おかえりーアイラ君。今日は早く帰れたからこっちの部屋で料理作っちゃった」


「ありがとうございます! ちょうどお腹空いてたんでめちゃめちゃ助かります」



 瑠奈さんがテーブルに置いた料理は油淋鶏、そしてご飯にお味噌汁だった。



「はいお待たせー、たくさん作ったからいっぱい食べてね」


「美味しそう! 頂きまーす!」



 俺と瑠奈さんは久々に一緒に食事をした。

 そういえばゆーちんが今度俺の部屋に来たいとか言ってたな.....その時は真央の痕跡消しておかないと━━。



「学校生活はどう? 少しは慣れた?」


「だいぶ慣れました。ただ先生にすらチヤホヤされて気持ち悪いですよ......」


「うーわ......でもそのルックスじゃそうなるかもね。そういえば通ってる高校の生徒が亡くなったのニュースでやってたけどアレって......?」


「いろいろありますよねぇ......話は変わるんですけどこの辺りで有名な新興宗教とか瑠奈さんは知ってますか?」



 瑠奈さんなら前からこの地域に住んでいるから何か知ってるかもしれない━━。



「うーん、この辺りで有名なのは最近テレビでも話題になってる《Unity of Happiness》って言う名前の教団かな?」


「ユニ○ャーム.....? なんですかそれ? 生理用品でも作ってるんですか?」


「違う違う。ユニティーオブハピネス、通称 《ユニハピ》だよ。文字通り"幸せの統一"を掲げてる宗教団体で最近ウチのマンションにも勧誘に来て結構ウザいんだよね」


「宗教あるあるですね......母と暮らしてた時もよく訪問に来てました。『あなた達は不幸だからコレに入れば幸せになれる』とか決めつけて失礼な連中でしたよ」


「幸せを主観的な物差しで測るなって話だよね。それでその宗教団体がどうしたの? まさか......」



 瑠奈さんは俺がこれからしようとしている事を察したようだ━━。

 


「いや、僕の友達が宗教の事で悩んでてちょっと助けたいと思ったんですよ。代表の名前とか知ってますか?」


「名前は知らないけどそこそこ規模がデカいからネットに情報がいっぱい載ってると思うよ」


「そうなんですね、ご飯食べ終わったら少し調べてみます。それと......もしかしたら今後瑠奈さんの所に 《鷲野》って名前の勘がいいオジサン刑事が来るかも知れないのでその時は僕のことは━━」


「大丈夫、口滑らすようなヘマはしないから安心して。それよりもしこの件で頼りたい事があったらいつでも言ってね、貴方はまだ未成年で私の子供なんだから」


「ありがとう、遠慮なく頼らせて貰います。ご馳走様でした!」



 俺は夕飯の食器を洗った後自分の部屋に戻った━━。








の立場としては本来復讐を止めるべきなんだろうけど、いざ当事者になるとそんなの綺麗事だと思い知らされるわね......」



*      *      *



「ユニティーオブハピネスか......臭いねぇ、臭くてしょうがねぇ」



 調べてみるといろんなサイトが引っかかった。

 現役信者達による教団を持ち上げる内容のブログがある一方、元信者達の悲痛な記事も見つかった。

 

 加護と称して教団から無理やり物を買わされて金を巻き上げられた結果家庭崩壊した内容や他者への強制的な勧誘と一部政治家との黒い噂、なにより最悪なのは未成年の娘が居る場合儀式と称して教祖に捧げる事になったというおぞましい内容もあった━━。



「コレがゆーちんの母親が言ってた儀式・・ってやつか......マジなら相当イカれてるな。そのイカれロリコン教祖は一体誰なんだ?」



 俺は教団のサイトに記載されていた教祖の名前を見つける。



「この苗字......やはりな」



更にサイト内をスクロールするとスケジュールの欄に近々大規模な集会が夜に行われ信者達が一同に介すると載っていた。



「集会ね......それが奴らにとって最後の晩餐になるな━━」



*      *      *



 翌日の夕方━━。



 俺はいつも通り学校から帰りの電車に乗っていたが、最近動画に映っている所為か前よりも周りがこちらを見ている気がする━━。

 今度からス○イダーメーンの格好で顔隠して下校しようかな......。



「すみませーん、一緒に写真撮ってもらっていいですかぁ?」


「あーはいはい......って君は━━」












「おつかれさま。昨日ぶりだねぇイケメン君」



 人混みをかき分けてやってきたのは例の笛吹瑠衣子クソ女だった。


 今までこの時刻この電車でコイツに会ったことなんて一度も無かったから恐らく俺を待っていたな......。



「おつかれ笛吹さん。この電車で会うなんて本当に偶然・・だね」


「偶然だねぇ、でも私は貴方に会いたいって思ってたの......。思いは必ず現実になるって改めて証明出来ちゃった」



 キモっ......。



「そうかい。なら今度学会で発表しないとな」


「ふふっ......それで昨日の件だけど彼女の秘密について何か分かった?」


「いいや何も。でも君は知ってるんだよね? だったら君の口から直接聞きたいなぁ」


「そう。それならこの後私と一緒にある場所に来てくれるかな?」


「とある場所ね、別にいいけどそれは一体......? まさか犬○村とかじゃないよね? せめて日本国憲法が通じる場所が良いなぁ」


「違うよぉ、その場所は一部の人間には《楽園》と呼ばれているちゃんとした施設。もちろん来てくれるよね?」


楽園・・ね......今朝新台入れ替えのチラシ見たから丁度行きたいと思ってたんだ」


「いやパチンコ屋じゃないから」



 俺達は電車からタクシーに乗り換えて少し山奥に入った道路を抜けて開けた場所に降りた。



「さぁ着いたよ」


「やっとか......ってなんだココは!?」


「凄いでしょ。コレがUnity of Happinessの総本山 《大幸天照神宮たいこうてんしょうじんぐう》だよ━━」



 そこに広がっていたのは車が何百台停められるんだろうと思うほどのだだっ広い駐車場と施設に繋がる道路、そしてその奥に鎮座する建物はまるで巨大な要塞だった。

 その巨大な建物は天守閣のように屋根が何段も重なっており、一体どうやって作ったんだろうと思うくらい圧倒される異様な形状だった。



「はぇぇ......こりゃ固定資産税が高そうな楽園・・だな。それでこの建物は一体なんなんだ?」


「ここは 《ユニハピ》の力の象徴だよ。信者のみんなと年に何回か此処で祝い事をしたり参拝したり儀式を行ったりするの。まぁ何もない日でもこんな風に自由に出入り出来るけどね━━」


「なるほど宗教施設か......なら基本的に税金は払わなくていいな。うらやま」


「さっきからなに難しい事言ってるの? さぁ中に行こう」



 俺は案内されるがままに施設の中へ入るとその中は施設の規模通り体育館の様に広い空間になっており、奥には金ピカの祭壇と中央には巨大な人の像が建っていた。


 そしてその像に向かって白い衣装を着た人々が座布団すら敷いていない床で土下座をしながら訳の分からない呪文を唱え続けていた。



「凄いでしょ? みんな此処に来るとあの像に向かって1時間祈りの言葉を捧げるの」


「へぇ.....よく足とが痺れないね、僕なら2秒で引き上げて家でテレビ見てるよ。それより......あの人の服は他の人と違うけどなんで?」



 俺が指差した女性は他の人と衣装が違い少し位の高そうな着物を着ていた。

 そしてその顔は確実に見覚えのある顔だった━━。



「そう......あの人こそがゆーちんの秘密。ゆーちんのお母さん《多田井優子》さんはユニハピの敬虔な信者で幹部候補生なの」


「アレがゆーちんのお母さん......。まさか此処の熱心な信者だったなんて知らなかったなー」



 もちろん嘘だが幹部候補になるほどどっぷり浸かってたとは流石に思わなかったよ━━。



「そうでしょうねぇ。この事はゆーちんと私以外あの学校では誰も知らない事だから」


「しかしゆーちん自身ではなく親に秘密があったとは.....それより幹部候補生なんて凄いね。それほど貢献してるって事?」


「うん、彼女の家が毎月沢山の御礼を納めてくれるからそれを見込まれて幹部候補生になったの」



 つまりゆーちんの稼ぎがこの宗教に殆ど吸い取られてたって訳ね......そりゃゆーちんもそんな悲惨な家の内情を公に言えないわな━━。



「なるほどね。それで君は僕にコレを見せて一体どうしろと?」


「その話は後で言うよ。その前に君に会わせたい人がいるんだぁ」



 俺は礼拝広場を抜けてその先にある豪華な装飾がされた扉の中に入った━━。



「やあ......君が明星君だね? 話は聞いているよ」



 俺の目の前に現れたのは長老の様に髭を伸ばしたハゲ頭の太った男だった。

 男はあぐらをかき、瞑想をしているのか目を瞑って手を合わせ、胡散臭いオーラをぷんぷんと漂わせている━━。



「初めまして、まぁ僕の方は何も話を聞いてないけどね。貴方はどちら様で?」


「ちょっと、教祖様の前で失礼だよイケメン君......」



 俺の言葉に教祖は口がニヤリと開き、歯が所々抜けた汚い歯並びを見せびらかしながらネチネチとした口調で喋り出した。



「私がUnity of happinessの創始者であり、君の隣にいる瑠衣子の父でもある 《笛吹修吾ふえふきしゅうご》だ。そして隣にいる2人は━━」



「岡本です」


「相模です」



「っ......!」



 紹介された2人は俺が死んだあの日に俺を犯したガタイの良い岡本とヨボヨボの相模だった━━。



「......明星です」



 コイツら笛吹の息がかかった変態だったのか......! あの日の出来事が昨日の事の様に思い出されるな......心臓を抉り出してまとめて祭壇に並べてやるよ━━。



「では君を我が宗教に招待した目的の本題に入ろうか━━」

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