第9話 配信者の女と変わらない二人


 秋山に案内されたのは俺が真央の時に座っていた場所だったが、机の上にはまだ2週間も経過していないにも関わらず花瓶を置いたり弔った痕跡が全くなかった。

 この事実と教師の反応を見る限り学校側はイジメや自殺などはとっとと無かった事したかったんだろう━━。


 そして真央の時に座っていた席に着くと俺を陥れた元凶氷川彼女万季がこっちに振り向いた。



「初めまして、私は青海万季。よろしくね」 


「よろしく」


 

 俺は少し目線を逸らして受け応える。

 まさかこうして再び万季に初めましてを言われるなんてな......。



「それにしてもドアを破壊するなんてさっきの登場は衝撃的だったね。一瞬ヤンキーかと思ったよ」


「転校初日で張り切っちゃってついね。美人先生の顔が青鬼より真っ青になってて悪いことしたと思うよ......」


「確かにあんなに焦った顔した先生見たことなかったよ。それと皆んなが噂してた通りイケメンでビックリした」


「ありがとう。お礼として今度"うめぇ棒"でも奢るよ。それよりここの席って......前まで誰か座ってた? なんか椅子の柱が少し曲がったり机がやけに傷入ってる気がするけど......」



 俺がとぼけた風に言うと万季の顔がさっきの秋山の様に一気に青ざめる━━。




「う......うん......2週間前までは男の子がそこに座ってたんだけど......」


「......何かあったの?」


「実は......その子亡くなったの......」


「......そうなんだ......それにしてはみんな平然としてるし花瓶を置いたような跡もないんだね、よっぽど嫌われてたのかな?」



 その言葉に万季は少し俯いてボソボソと話し出した━━。



「嫌われてたというより......いろいろあってね......。あと花はその子が亡くなった日から数日間は私が置いてたんだけど先生から置かなくて良いって言われてそれで......」


「そっか......教えてくれてありがとう。その子も君みたいな優しい子だけに花を置いて貰えてた事を天国で喜んでるんじゃないかな?」


「だと良いんだけどね。でも私は......優しくなんか━━」



 万季は少し涙目で後悔している様な表情を見せながら応えた━━。



「そこの二人、仲良くなるのは良いけどいつまでも喋ってないで先生の話を聞いてね」



 秋山が俺の方を指差しながら少しムスッとした顔で注意する。



「すみませーん。青海さんが親切に学校のこと教えてくれてたのでつい......」


「全く......まあでも早速仲良くなってくれて良かったわ。じゃあHRは終わるからみんな授業の準備してね」



 秋山はそう言い残し教室を後にした━━。



*      *      *



 午前の授業を終えて昼休みになったので一人で弁当を食べようとしていると、クラスの連中が一斉に俺の机に集まってきた━━。



「ねーねー、どこの高校からやってきたの?」


「後でイムスタのID教えて? DMしよっ」


「お前の朝の馬鹿力なに!? 筋トレとかやってんの?」


「ゆーちんのライブ配信になんで映ってたの? まさか芸能関係の知り合い?」


 

 他にもゴチャゴチャ言っていたが一斉に喋るので聞き取れなかった。

 コイツら俺が死んだ後はこの机に寄り付きもしなかっただろうに御苦労なこったよ━━。



「みんなたくさんの質問ありがとう。でも僕は聖徳太子じゃないから全員の声を聞き取れないんだ......だから赤スパしてくれた人から優先で良いかな?」


「赤スパて! 金取るのかよ!」


「ウケるw」


「ドア壊した時はヤベェ奴だと思ったけど意外とノリいいじゃん」


「顔はクールそうなのに。ギャップが可愛い♡」


 

 俺の冗談に皆んなが反応しているとその中から一人聞き覚えのある女の声がした━━。




「ライブ配信じゃないから赤スパなんて投げれないじゃん。君はお賽銭でもされたいの?」





「お前は......!」












「やっほー、朝はありがとう。ゆーちんだよ」



 今日の朝無理やり配信画面に俺を映して晒したそいつ・・・は自信たっぷりの笑顔で自己紹介してきた。



「げっ......! あの時の盗撮女!」


「盗撮女とは失礼な! あのライブ配信終わった後すごい反響だったからその挨拶に来てあげたのに......」


「挨拶だぁ!? 挨拶よりギャラだよギャラ! 赤スパ寄越せカネ寄越せ! 金が無いならお前は一番後ろに並んで順番待ちでもしてろ! シッシッ!」


「なんですって!? まあ良いわ......そんな事より今日の帰りに何か奢るからちょっと付き合ってよ」



 そのセリフに周りの生徒はザワつき始める━━。



「ゆーちんがデート誘ってる!」


「これスクープじゃね?」


「ゆーちんネットニュースになっちゃうよ......!」



 帰りに友達とどこか寄って食べたり遊ぶ事なんて普通なのにこんなに言われるとは......この人も大変だな━━。



「ごめん僕は今日用事あるから付き合えない。他の友達に奢ってあげて」


「そっか残念、じゃあLIZEのIDだけ交換しようよ」


「あー残念......僕スマホ持ってないんだ」


「えっ? 今時スマホも持ってないってあり得る? どんだけ昔を生きてるのよ......」



 若干引いた顔をするゆーちんの後ろから司と龍崎さんがやってきた━━。



「よおよおイケメンさん、由美となんの話してるんだ? 俺も混ぜてくれよぉ」



 司は俺と初めて出会った時と変わらないテンションで話しかけてくれた。



「ちょっと司! 今由美がアイラくんと話してるんだから横槍入れないの!」


「またコイツは俺に小言を......。相変わらずおっかないな龍崎」



 少し嫌な顔をする司に適切な叱責をする龍崎さんも健在で俺は少し安心した━━。



「僕は大丈夫だよ。二人は......?」


「初めまして龍崎ゆりです、こっちのお調子者は私の幼馴染でもある亜門司。よろしくね」


「こちらこそよろしく」


「なぁなぁアイラ、良かったら俺とLIZE交換しようぜ」


「うん、いいよ!」


「はぁ!? アンタさっきスマホ持って無いって言ったじゃん! 私に嘘ついたの!?」


「あっ......いやだってゆーち○ぽさんにID教えたらライブ配信で晒されそうだし警戒してたんだよ」


「"ぽ"をつけるな! 私そんなデリカシー無い事しないから教えてくれても良いじゃん!」


「分かったよ、じゃあ今日のギャラはLIZEPayで送ってくれよな!」


「コイツ......どこまでがめついの......!」


「まあまあ由美落ち着いて、この際だからみんなで交換しようよ。アイラくんをグループに誘いたいし」


「うん! 龍崎さんが言うなら良いよ!」


「なにそれどういう意味!?」



 俺はスマホを差し出してクラスのグループに入りそこから登録してもらった。

 但しゆーち○だけは他クラスだったので個人的に交換を完了した。



「ライン交換するだけでこの私がこんなに精神削られるとは......そうそう紹介が遅れたわね、私は最近チャンネル登録者数150万人突破した人気iTuber"ゆーちん"こと 《多田井由美ただいゆみ》、よろしくね」


「僕はたった今LIZE登録者数が31人を突破した不人気クラスメイト"アイちん"こと明星亜依羅、よろしくね」


「......私のこと馬鹿にしてるの? まあ良いわ、私はクラスに戻るからまたね。今度正式に出演の依頼するかもしれないから既読無視とかしないでよね」


「分かった。ブロック削除するから既読すらつかないよ」


「ふざけんな! 全くもう......!」



 ゆーちん○はブツブツ文句を言いながら教室から出て行った。

 あの子の登録者数を聞く限り少しは影響力持ってそうだな...何かあったら彼女に頼るのもアリかもしれない━━。


 そんな事を考えていると次の授業の予鈴が鳴り、他のクラスメイト達も俺の机から離れていった。



「しかしお前面白いな! 由美をあんな風にあしらうのお前だけだぜ?」


「確かに。あれだけ人気だと周りは遠慮して本音とか言えなくなるからアイラくんみたいな人に出会えて由美もなんだかんだ嬉しそうだもんね」


「そうなんだ......人気者も色々あるんだな」


「そうだなぁ......まあお前も多分これから同じ道のりになる気がするどな。それでも俺達は変わらないからよろしくなアイラ!」


「うん、こちらこそよろしく司! 龍崎さん!」



 二人は変わらないな......俺がいじめられてた時に庇ってくれた時と同じだ。

 このクラスで良かったと今初めて思えたよ━━。






















「アイツ......転校初日から目立ってうぜぇからちょっと焼き入れるか......?」


「だな......俺たちに挨拶も無しであんなに偉そうにしてるしな。あの整った顔をボコボコにして言うこと聞かせてやるか━━」

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