第8話 学校生活再び
俺はいつも通り電車に乗るため駅へ向かっていた。
遅刻するかもしれないので人がいない裏道から走ろうと力強く一歩踏み出すが━━。
フワッ......。
「うおっ......なんだこれっ！」
俺の身体は羽が生えたように軽く、信じられない事に家よりも高く跳躍して地面に着地した。
「少し力を入れるとコレかよ......これじゃ力加減を調節しないと確実に日常生活に支障が出るな......。練習しておかないと」
俺は身体に気を遣いながら忍足で駅にたどり着いたが、変な歩き方をしている俺を見ていた人が沢山居たのは言うまでもない。
そんな人達の中、自撮り棒を片手にスマホに向かって話しかけている綺麗な女の人がこっちに向かって歩いてきた━━。
「すみません！ 今ライブ配信してるんですけど忍び足のイケメンが通ったってコメントが来てて......多分貴方のことですよね？ 良かったら一緒に撮影したいんですけど良いですか？」
「いや、遅刻しそうなんでそう言うマルチの誘いはまたの機会に」
前の自分であれば喜んで受けていたが、正直今は自分の事で精一杯なので彼女に構っている余裕は無い......。
しかし彼女は引き下がってくれなかった━━。
「そこをなんとか！ 貴方に対するコメントも凄い来てるしちょっとだけでも良いんでお願い出来ませんか......？」
「ホントそれどころじゃないんで！ 転校初日から遅刻なんてやらかしたらマジで人権失うんでっ！」
「でもそんなに急いでる人はそもそも忍び足で駅を歩きませんよね！？ ほらほらこれ見てください！ アナタ凄い人気ですよ！？」
そう言った彼女のスマホの画面を見ると俺に対するチャットが沢山来ていたのだが━━。
》なんだコイツ顔整いすぎたろ......整形か？
》仕込みじゃね？ 普通あんな歩き方せんやろ
》やばぁ！ 超イケメンじゃん！ 私もあんなイケメン制服彼氏欲しいなぁ。
》ていうかインフルエンサーゆーちんの誘いを速攻断るとか草。
》ちょっと顔が良いからって気取ってんのかコイツ？ あーあ、俺もあんな顔ならなぁ......。
》イケメン邪魔だ○ね！ ゆーちんだけ映させろ！
こんな感じでほとんどが俺を叩いているコメントだった......。
「コレ確実にサンドバッグとしての人気ですよね！？ コイツらの住所特定できますか？ 今から1人1人に内容証明送って人生台無しにしてやるっ！」
「まあまあそう言わずに！ ていうかその制服......」
「制服？ んな事よりこっちはガッツリ心傷つけられたんだ！ しっかりギャラと損害賠償払ってくださいよ！？ ゲロ以下コメントを見たせいで目が染みてるんだ！ こんな時間からコメントなんかしやがって......どうせコイツら全員ヒキニートだろ！？」
俺は嘘泣きをしながら生活費を入れている口座番号をメモに書いてその人に渡した。
すると再び画面のコメントが次々にスクロールされていく━━。
》バチくそ煽っててくるやん.......どうせヒキニートだよ！
》コイツ泣きながらもちゃっかり金請求してて草
》がめつい奴だな。でもまぁ突然強引に撮影してくれって頼まれたらそう考えてもしゃーないかもな
》ゲロ以下とか言われて草。ちょっとおもろいなコイツ
》この人モデルさんかな？ もしそうならゆーちんは事務所に許可取らないとねぇ......。
》この子が着ている制服どこの高校だ？ 特定班はよ！
》あの白髪確実に校則違反じゃねーか！ イケメン無罪ってやつか！？ 世の中クソだな！
》この子可愛いわね♡ 風景をヒントにこの子を探して口説いちゃおうかしら？
「リスナーのみんなも落ち着いて！ ギャラの件はまた後日という事で......じゃあみんな私もこの後仕事があるからまたねぇ！」
彼女は配信を停止させると謝りもせずそそくさと駅構内に入っていき、俺もなんとか電車に乗って学校に向かった━━。
＊ ＊ ＊
職員室内の個室に案内されるとそこには学年主任と
「
「担任の秋山恭子です。今日からよろしくねアイラくん」
学年主任の前だからなのか分からないが、あの日ゴミを見る目で睨み罵った態度とは正反対の満面の笑顔で俺に挨拶をしてきた。
なるほどね......まあとりあえず様子を見ようかな━━。
「よろしくお願いします松本先生、恭子先生」
「では早速教室にいきましょうか、と言いたい所ですけどその髪色は......染めてる？」
「いえ、生まれつき白いんですよ。根元を見てもらえればわかると思いますが━━」
「本当だ良い匂......じゃなくて確かに生まれつきみたいね。それじゃあ案内するね」
俺は何故かニヤニヤした秋山に案内され教室へ向かう。
その途中秋山から下らない質問を受けた━━。
「ところでアイラくんはその......どこかの事務所とかに所属してるの？」
「所属？ 僕が所属してたのはアニメ研究部くらいですね。好きなアニメは黒執痔......」
「そこまでは大丈夫よ。じゃあネットとかで何か活動とかやったりしてないの？ 今高校生のインフルエンサーとか結構多いじゃない？」
「それが......ネットとかもデジ○ル庁の職員並みに苦手なんでなんの活動もしてないです」
「そうなの？ それだけカッコよければ何かしら事務所に入ってたり世間に露出してると思ったんだけど外れたかぁ」
なんだコイツ......マジで真央の時と態度が全然違うな。
「貴方の転校前の成績を見る限りかなり優秀だし、その見た目だからここの学校でも色々な意味で苦労する事があるかもしれないわ。その時はすぐに私に相談してね？ いつでも待ってるから」
相談ね......コイツのこの態度は後々材料に使えるかもしれないな、一応種だけは撒いておくか━━。
「ありがとうございます、僕も先生みたいに優しいお姉さんみたいな方に親身になってもらえると嬉しいです。先生達の中では断然歳も近いし波長が合いそうなので頼りにしてます」
そう言うと秋山は再び振り返りニコニコの笑顔を俺に振り撒いた。
「アイラくんにそう言って貰えると嬉しいな。私は先生でもあるけど貴方が望めばいつでも優しいお姉さんにもなってあげる。さてここが教室、私が先に紹介するからその後入ってね」
誰がお前の弟になんてなるかよ......倫理イカれてんのか？
まあ良いケダモノにはケダモノだ......せいぜい子供相手にノリノリになってろ。
近いうちにお前を必ず地獄に叩き落としてやるさ━━。
先生がドアを開けて入ると教室の騒がしい声がドアの隙間から少し漏れた。
『今回の転校生どうやら男らしいぜ？』
『噂によると超イケメンだって...』
『くそッ！ 女じゃないのかよ！』
『そういえば今朝ゆーちんがライブ配信してたやつに映ってた人らしいよ？』
『私それ見たわ！ めっちゃイケメンだったけどなんか凄い怒ってたよね』
普段ならイケメンと言われれば死ぬほど嬉しいけどこの身体は俺であって俺じゃないから複雑な気持ちだな、せめて真央の時に言われたかったよ......。
「このクラスでは以前一人友達を失いましたが、今回新たな生徒が入ることになりました。じゃあ明星くん入ってー」
俺は忌々しいあの教室のドアを開ける━━。
ガシャァァンッ━━！
「あっ......」
「「「えっっっ！？」」」
俺は力を加減し忘れてドアをすっ飛ばしてしまった━━。
「あれっ......なんかドアの立て付け悪かったみたいで壊れちゃいました。ハハッ......」
俺は笑って誤魔化すが、教師を含めた全員が俺を驚愕の目で見つめる中自己紹介をするハメになった━━。
「み......みなさん初めまして明星亜依羅です。趣味は編み物と盆栽の手入れです......よろしくお願いします」
「その......随分と渋い趣味ね。じゃああそこの空いてる席に座って、ドアは先生達が治しておくから」
「......すみません」
『なぁアイツ......ちょっとやべぇ奴じゃね......？』
『でもあの見た目で趣味が編み物とかギャップで素敵かも』
『ていうかあの髪色で問題ないのかよ......？ 校則どうなってんだ？』
『イムスタやってるかな？』
「はいみんな静かに！！ 明星くんと仲良くするようにね、じゃあHR始めます」
こうして明星亜依羅としての学校生活が幕を開けた━━。
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