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目覚めたのは学校では全く聞こえないような、聞こえてはいけないような音を聞いた時だ。耳を劈く程の悲鳴や怒号が聞こえた。秋田含め教室中の生徒が何事かと廊下や窓を覗こうと立ち上がる。他の教室でも同様に教師や生徒が廊下を覗いていたが悲鳴が聞こえるだけで廊下に何ら異常はない。そのおかしな状況に、他教室から教師だけが出てくる。
そんな中でも鶴下は狂っているのか、気だるげな表情を浮かべていた。
「授業中だぞ。座れ。点Mのx座標を求める」
秋田のクラスは三年一組なので階段に一番近いところにある。そのため、他の教師が鶴下も見回りに加わるように提案してきた。
「鶴下先生、下の階で何かあったのではないでしょうか。生徒も混乱しているようですし、一度降りてみましょう」
鶴下は教師の押しには弱いようで二つ返事で了承した。あまりの変わりように秋田は口をあんぐりと開けたまま動かない。怒りより呆れが勝っていた。
「安全確保のため、先生は見回りをしてくる。全員席から一歩も動かないように」
三年の教室は全て三階にあって同じフロアに職員室、美術室、美術準備室があるはずだが、どこからも人が出てこない。
三階が異様な静けさを保ったまま五分が経過した。そろそろ帰ってきてもいいはずの鶴下たちが帰ってこない。三年全員が不思議に思っていると、突然階段から白い煙が上がってきた。「なんだ、なんだ」と戸惑うのもつかの間、爆発音が鳴った。
秋田は爆音のせいで耳が一切聞こえないため、教室が煙に包まれているのを見ているしかなかった。
しかし、秋田の中では長い間感じることができなかった楽しさが心を満たしていた。これからどういう展開があるのだろうか。知りたい、知りたい。何かの事故か、それともテロなのか。どちらにしても秋田の探求心をそそった。
煙が消えかかると同時に目出し帽を被った武装集団が教室になだれ込んでいる。
「なんだ、ただのテロかよ」
秋田は欠伸をしながら言った。
それでも、彼は笑っていた。この上なく幸せそうに。
高山含めクラス中が銃口を向けられて怯える中、足を組んで覆面の男をじっと見つめる。見つめられた相手は秋田の顔の前にライフルを向ける。それでも、秋田は笑っていた。新しいおもちゃを買ってもらった子供のような無邪気さで。
恐怖で誰もが固まっているためか場違いなほど教室は静かだった。見かねた秋田が口を開こうとしたとき放送が入った。放送しているのは校長で、声は震えていて頼りない。
「せ、生徒の皆さん。現在、わが校はテロ集団によってせ、占拠されています。彼らは、私以外の教職員が全員別棟の図書館に集められているので抵抗は無駄だと言っています。か、彼らにはわが校の生徒全員を殺す計画があるそうです」
教室中がざわつく。何人かは顔が青ざめていた。
「し、しかし助かるチャンスを与えるとのことです。全員が助かる道も。そのためには『すべてが白日の下に晒される』必要があると」
「バンッ」
急な銃声に秋田も驚く。
「お、おっと失礼。マイク切り忘れちゃった。血、ベットベトじゃん。んま、いっか。えーっと、校長殺しました……たぶん。後で運動場に飾っときまーす」
快活な男の声が放送される。声からして四、五十代のようだが口調は若者にそっくりだ。先ほどまで満面の笑みだった秋田が青ざめている。
「あ、そうそう。この学校にお邪魔してる目的を言っとかないとね。目的はー……」
全員がその先の言葉を聞き逃すまいと耳を澄ます。
「秘密でーす。でも、やってもらうことは教えとくか。突然だけどみんな得意なことってある? 趣味とかでもいいんだけど。ピアノ、絵を描く、バイオリン。ボードゲームでもいいね。囲碁、将棋、チェス、オセロ。マニアックなので言えば、けん玉とか? 何でもいいけど、その特技を使ってゲームをプレイしてもらいます。
ここでヒント。
あなたたちは今からポーカーをすると思っていてください。チップはあなた自身。勝てば、解放してあげまーす。どう? おもしろいでしょ」
いったい何が行われるのか。全く想像の付かない説明にざわつきが増す。秋田の顔は青いまま変化しない。彼に銃口を向けていた覆面の男は必要なしと判断したのかライフルを下ろした。
すると、再び快活な声が聞こえる。
「そういえば、どうしても趣味、特技がないよーって人は僕が作ったゲームに参加してね。あ、心配しないでよ。僕のゲームは公正だから」
ぷつりと放送が切れたと同時に、武装集団がはがきサイズの用紙を一枚ずつ配り始めた。
「今配った用紙に名前と、自分の特技か趣味を一つ書け。我々は書かれたものに沿ってゲームを準備する。書く特技、趣味がない者は名前だけを書いて提出すること」
それだけを言って覆面の男は十分のタイマーをかける。男はなにも言わなかったが十分以内に決めろということなのだろう。
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