入学式での部活動勧誘を論破しながら進んでみる。しかしこやつ!?

 とある春のとある4月。普通高校の体育館にて、私はごく一般的な入学式という行事に仕方なく参加しており、仕方なく椅子に座っている。

 なぜこうも入学式の祝辞とは、テンプレートであるのか。

 それはすなわちパソコンで仮定するならば、キーボードに機能を割り当てたひな形のデータのようなものだ。つまりショートカット。


 前方のステージ上には、おそらくこの学校の校長であろう人物が立ち、有り難くもないし糞つまらないダラダラとした話を呪文のように唱えておる。

 頭を隠すように何かを被っているようだが、それはおそらくカツラであり、不自然に歪んだ頭皮のそのラインには、その被り物であるカツラを否定する要素はないだろう。


 それはそもそも体育館の一番前にある錆びれたパイプ椅子へと腰掛けていたならば、おそらくここにいる数十名程が気がつく現象である事に違いはないと考える。

 体育館内に掲示してある時計を眺めるも、その終了時間はいつになるのかわからないゆえ、私はしばし目を閉じ、脳を休める事にした―――。



 *



「以上を持ちまして、入学式を終えます。今日はこのまま下校して頂いてかまいませんので、明日またクラス割りをした表をご覧になり、教室へと向かってきてください」


 目を開けると、意識を覚醒させる。その周囲に座っていた生徒達は何やら席を立ち上がり、ゾロゾロと順番に体育館から退場し始めた。しかし移動速度が遅すぎて……。


「遅い、遅すぎる」


 太ももに挟んでいた白い辞典を開くと【化石かせき】の意味を調べる。


「生物の遺骸やその生活の痕跡などが、地層中に保存されたもの…とな。つまりこの化石になりそうといった心境の表現は日本語的には適切ではないといったところか……だがしかし……」

「君、めっちゃかわいいね! 朝から気になってたんだけど、なんで国語辞書持ってんの?」


 叡智えいちの書を読んでいると、隣に座っていたオスのNPC(ゲーム上でプレイヤーが操作しない、勝手に動くキャラ)のような奴が、私に向くなりポチってきたようだ。そやつに返事をする。


「これは私特製の叡智の書だ。国語辞書ではない。そもそも貴様は国語といった言葉に対し、その意味を理解して発言しておるのか? 答えてみよ」

「え……いや……その……」

「ふむ、わからないようであれば貴様と論する価値はないと判断する。もうこの場から去り、体育館を退場する程度までの人口密度となっている。それではな、NPCよ」


 私は辞書を持ちそこから立ち上がると、ゾロゾロと出ていく列の一部と一体化する事で体育館を外へと出る。酸素濃度的には問題ないのだが、人混みは嫌いなので、外に出るなり私はその列から分離した。


 何やら外では様々な服装をした普通高校の生徒達、つまりこの学校の生徒達が、グラフィック的にも見た目の悪いプラカードを手に持ち「〇〇部どうですか?」といった勧誘キャッチをしている。


 私としては部活動に興味はないので、スタスタと歩いてさっさと学校の敷地外に出ようと思っているのだが。このNPC共はやたらめったら誰それ構わず勧誘しておる。

 その対象の1人として私を認識しているようだが、ハッキリ行って不快極まりない。適当に論破しながらこの場を進むとしよう。


——まずは野球部。


「ねぇ!! 君めっちゃかわいい〜〜〜!! 野球部のマネージャーになってくれないか? どうだい!?」


「ならぬ。そもそもマネージャーの定義を知っていてその言葉を使っておるのか? 定義の一つとして、支配人、管理人といった意味も含むのだぞ? 貴様は私に支配され、管理されたい、つまりそう申すのか?」


「え……いや、要はアシスタントでしょ?」

「話にならぬ、他をあたるが良い」


 そのNPCの前を通り抜け、敷地外へと目指す。

 はて。お次は何やら両腕に黄色いボンボンを持ち、やたら露出した服装をしておる連中。はたして何部だろうかと考えるが、おそらく応援部といったところだろうか。


「キャーーすんごい可愛い娘だね!! ねぇねぇ、チアリーダー部に入部決定しちゃわない!? 男子にモテちゃうよ〜〜♪」


「なぜ入ってよと言われ、入る必要があるのだ? そもそも私は部活動に参加する気は1ミリもない。1ミリもだ。それにどこぞの馬の骨なのか魚の骨なのかも分からぬただの骨格を応援する気にもなれん。モテるだのどうだの言う前に、そもそも入部しないので、結果としてモテる事はなくとも問題ない」


「あは……あはは……君凄い個性的だね……」


 やはりこやつとも論する価値はないと判断したので、返事を返す事もなく私は歩を進める。それにしても、普通高校とは言ったものの、論する価値のないNPCが多い事であるな。やはり通う価値のない学校なのだな。

 私は結んだ長い黒髪をピョコピョコと揺らしながら、普通高校の普通じゃない感じに気だるさを感じつつ、そして残りの勧誘も論破しつつ敷地外を目指す。


 そして敷地外へと出る直前に立つ、白黒の着物のような姿をして、弓のようなものを抱えているその者の勧誘を受けた。

 おそらく弓道部。その服装は袴姿であり、手に持つそれは和弓であろうな。

 さっさとこやつを論破し、家に帰るとしよう。


「こんにちは、弓道部入りませんか〜? 武道なので心も鍛えれますよ〜初心者でも大歓迎ですよ〜?」

「初心者でも歓迎といえど、そもそも私は弓道に興味はない。弦を引っ張って矢を飛ばす事に何の生産性も感じないしな。そもそも貴様は武道がどういった意味なのか知っていて言葉を発言しているのか?」


 すると、その白黒姿の性別メスは眉をしかめた。

 やはりこやつも論するに値しない生命体と思いきや、私は度肝を抜かれた。


 ――そう、のだ。

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