第84話 北条氏政②
ふと見回すと、部屋の中には確かに何人か、顔のよく分からない人々がいた。
年の頃は12、13から二十代の前半ほどだろうか。それくらいの少年少女が氏政の近くや襖の前に座していた。
その面差しや立ち居振る舞いからして、氏邦の言っていた通り、彼らは氏政の侍従に違いない。
思っていたより年若く、人数も2、3人ほどと多くはない。
けれど、その眼差しには確かに頼もしそうであった。
控えめに立ちながらも、周囲の空気を敏感に読み取っている。
声をかければ、的確な助言を返すか、なにか役立ちそうなことをしてくれそうな、そんな頼もしさを感じた。
でも、同時に思う。
頼もしさの裏返しは、脅威でもある。
もしこの者たちが敵に回れば、たとえ彼らが年若くとも、わたしのような幼子などひとたまりもないだろう。
そう考えると、あまり長くこの状況に身を置くのは得策ではない気がした。
北条家に過度な警戒を抱かせるつもりはない。だが、警戒を強められるのも困る。
多分、北条家のことだ。
この侍従たち以外にも、天井裏に誰かを潜ませているのかもしれない。
もちろん、そんなもの見えるはずもない。
けれど、なぜだか、じっとこちらを窺う視線の気配を感じたのだ。
「虎姫どの、いかがなされましたか?」
氏政の声に、はっと我に返る。
「いえ、何でもございません。……氏政どのは、いつもこの部屋で執務を取られているのですか?」
「ええ。珍しいですか、虎姫どの」
「いえ、そういうつもりではありません」
氏政は首をわずかに傾げ、訝しげにこちらを見た。
その間にも、わたしは何気ない風を装いながら、後方に控える信綱と千代丸へと視線を送る。
二人はそれに気づいたように、静かにうなずいた。
「そういえば、今回は氏照に虎姫どのの案内を任せましたが……大丈夫でしたか?」
「ええ。特に問題はありませんでした。……大丈夫とは?」
なんだかデジャブを感じた。
たしか、天守閣のあたりでも同じようなやり取りをした気がする。
「いえ。氏照は城や建築の話となると、どうしても口が達者になりましてな。その点が問題なければよいのですが」
やっぱり。
この言葉、氏邦もさっき同じことを言っていた。
兄弟というものは、考えることが本当によく似ている。
同じ姉弟でも、景勝たちのように全く違う者もいる。
わたしは今世では兄弟を持たないからよく分からないが、それでも思い出した。
父上と伯母上は、言動も容姿もあまり似ていない。異母の姉弟というのもある。
けれど、笑い方だけはどこか似ている気がした。
優しい、心を包むような笑い方だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます