ブラックリスト勇者を殺してくれ〜俺たちはシリアルキラーに堕ちた集団転移高校の勇者たちを始末する〜

@7j543

1章 バックインブラック

第1話 アウルムとシルバ


「お願いやめて……」


「少し前に、とある勇者様にあってよお? 俺みたいな人殺しは『シリアルキラー』って言うんだとさ。よく意味は分からんが凄い殺人犯って意味らしい。とにかく響きが気に入った」


 ナイフを手にする男は震える女に向けて話しかける。


「どうしてこんな……ああ、あなた……私の可愛いウェス……」


 女の視線の先には、冷たくなった夫と5歳の息子が血まみれで倒れていた。


「シーッ! シーシーシー……あまり困らせるな?」


「うっ……うぅ……」


 男はナイフをポタポタと涙をベッドの上でこぼす女に突きつけて、子供に言い聞かせるように優しく語りかけた。


「お前文字は読めるか?」


「よ、読めますっ……!」


「そうか、それは良かったなあ……これを読め。読めば悪いようにしないからな」


 男は女に紙を手渡した。グシャグシャになった薄汚れた紙で、変な匂いさえするが女はそれが気になるほどの平常心はなかった。


 男は紳士的とも思えるような丁寧な手つきで女の頭を撫でる。


「えっ? これ……」


「読めっ!」


「は、はいっ読みます! 読むから殺さないで……!」


 女の躊躇する様子を見るや否や、男は顔を真っ赤にして怒鳴り、怒りをあらわにした。この切り替わりの早さに女は一層怯える。


 女は震えて締まりきった喉のせいで、声が上手く出なかった。何か喋ろうとするだけで喉が痛い。だが、今は生き延びることだけを考えて声を絞り出した。


「わ、私は……うぅ……私は、ジェリーあなたに酷いことをしたわ……母親なのにあなたを守らなかったわ……本当にどれだけ謝っても済むことじゃないのは分かってる……でも、ごめんなさい……その気持ちに嘘は……ないわ」


 チラと女は男の顔色を窺う。


「続けろ」


 低い感情のこもってない冷淡な声で男はそう言った。


「罪を認めて……ハアハア……私は…………死をもって償……!?」


「続けろと言ってるんだ!」


「ごめんなさい……殴らないで!言うっ! 言うからぁ!

 し……死をもって償うわ……」


 ここまで言って、女は気がつく。もう助からないのだと。言い終わると男による滅多刺しが始まった。


「ああああっ! いやああああっ! あなたあああああ! ウェスぅうう……!」


 街より少し離れた民家から響く女の叫び声はむなしく幸せに満ちた家に響く。その声を聞いて助けに来るものはいなかった。


 ***


「これは酷いな……過剰殺傷だ」


 金髪で、青い目をした細身の女のような出立ちのアウルムは惨たらしい殺人現場に立ち入った。


「子供まで……ゲスが! 何が楽しいねんこんなこと!」


 訛りのある口調で話す相棒の銀髪赤目の大男、シルバは吐き捨てるように声を上げた。


 二人は国に脅威をもたらす存在を排除することを使命とする職業、国家治安調査官である。


 通報を受けて、足を運んでいた。


「どう思うアウルム」


「見ろ、男と子供はいたぶられてない。女だけ異様に傷つけてる……死んだ後にもしつこく刺してるな。やはり母親が狙いだ」


「でも普通、この夫の方が家族を守る為に必死の抵抗を見せるはずや。寝室に音もなく侵入して夫と子供を殺す。それは難しいんちゃうかな?」


 通常、激しく揉み合えば防御創と呼ばれるキズが腕などに見られるがそれがない。

 シルバはそこに疑問を持った。


「別々に殺して敢えて、ここに運んだか?」


 アウルムは入り口の方に振り返った。


「いや……違うな……子供の部屋に布団があったから子供は自分の部屋で寝てた。となると、まずは家に入り子供の部屋へ行く。次に子供に凶器を突きつけて寝室へ行く……こうやって……」


 シルバはナイフを取り出して子供の背後に立ち、寝室に行くシミュレーションをしてみせる。


「こうしたら、一番邪魔な父親は無力化出来る。子供を人質に取られたら親は動けん。で、母親に父親を縄で縛るように命令する。子供には母親を縛るように言う。

 そしたら、まず父親を簡単に制圧出来る。次に子供……やろうな。子供の腕には縄の跡がないが、父親と母親にはある。そういうことやろうな」


「だが、父親は縛られたままなのに対して母親は跡は残っているが縛られてはいない……縄を解いた後何をさせたんだ? 性的な乱暴をされた形跡はない……」


「それは……分からんお前の領分やろ?」


「俺の能力は目に見える情報が人より詳しいだけで死ぬ前の行動を完全に読み取れるわけじゃないからな」


「その為の『プロファイリング』やん?」


 シルバは犯人の犯行前までの動きは推理しトレース出来たが、肝心の『何故』こんなことをしたのかについては検討がついていなかった。


「恐らくだが、『母親』が犯人にとっては大事なんだ。女ではなく、母親として見てる。ここまでの傷つけ方は普通は私怨。それも本当に殺したい相手の身代わりだな」


「で、一番大事なところやけど……?」


「ああ、この犯人は『日本人の勇者』ではないな」


 この世界に転生したアウルムとシルバは勇者を追っていた。

 同じ国の出身の日本人の勇者と呼ばれる存在。

 とある高校にいた全校生徒及び教職員たちが異世界からの勇者として召喚され、その後世界を救った。


 だが、一部の勇者は特別な力を与えられた結果暴走してしまい、連続殺人犯シリアルキラーとなってしまった。


 そんな者たちを殺すことが二人を転生させた神との契約だった。


「行くぞ、類似の事件が起こってなかったか調べるぞ」


「待て、これは惨すぎる……死者を生き返らせることは出来んが、遺族に出来るだけ苦痛を与えたくないから修復だけでもさせてくれ」


「分かった……」


「ありがとうな──『非常識な速さマイペース


 シルバのユニークスキルのうちの一つ、『非常識な速さ』は触れたものの時間を早めたり、巻き戻すことが出来る。


 死んだ者を生き返らせることは出来なくとも、尊厳を保った姿にすることは出来る。こんなことしかやれなくて済まないと悲痛な顔をしながら、安らかに眠っているように遺体を修復した。


「行こか……ケジメつけさせたるわ」


「当然だ。俺たちにしか出来ない仕事だ」


 アウルムとシルバは振り返らずに家を出た。


 このような人生が始まったのは今から2年の前の話である。

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