結末

 三峰の放った銃弾はあの時、飯島ジュンゴの腹部をかすめた。その結果、仁を無事に救出することに成功した。背後にいた山本が飯島ジュンゴを確保してくれたのだ。手錠をかけられた後も、飯島ジュンゴは抵抗をしていた。色んな罵声を吐きながら、大声で叫んでいた。


 滑稽だった。それでも三峰は罪をしっかりと受け入れて欲しかった。自分の犯した事と、どれだけの人を傷つけたのかをちゃんと理解して欲しかった。


 志田はあの後、事件においての責任を全て背負い警察官を退職した。


 目の前にいておきながら二人の犠牲者を出してしまった事や、白石仁の関連の事。それは全て自分の責任だと言って三峰の前から姿を消した。そのおかげもあってか白石仁も犯人にこそ危害を加えたが、正当防衛に当たるといったように処理をされた。


 警察の組織としても、少年たちの暴走を止められなかったこともあり、事件のほとんどの出来事は改竄され、全容はほとんど公にされていなかった。隠蔽というのが本当にあるのだと三峰はこの時、初めて実感した。


 もっとも、真実なんて当人にしか分からないことばかりで、この世の中は嘘だらけ。実際、三峰自身も目の前の上司の気持ちすら分かってはいなかったのだ。


 三峰が発砲した事も数日の謹慎だけで、その他には何のお咎めもなかった。これも志田がきっと裏で手を回してくれたのだろう。


 三峰の中では未だ答えの分からない正義。そして、憎しみや復讐。人の感情は法では測れない事もあるのだ。きっと三峰はこれからも探し続けるんだろうなと笑った。


 ポケットから煙草を取り出し三峰はそれを咥える。そしてライターで火をつけた。


「あっ! ここにいたんですね三峰さん! 通報が入ったんです! 現場に急行して欲しいとのことです!」


 志田の代わりに新しく三峰と組む事になった、藤堂とうどう真斗まさとは息を切らしながら喫煙室までやってきた。彼は三峰よりも若く、三峰には初めてできた部下だった。


 藤堂は煙草が嫌いなのか、三峰を見て顔を歪めた。


 三峰は煙草を吹かしながら藤堂に呆れたように聞いた。「また事件? 概要は?」


「窃盗事件のようです! 詳しい事は現場で聞けとのことです!」


 三峰はまだ火をつけたばかりの煙草の火を消した。鼻の奥には懐かしい匂いが漂ってくる。


「‥‥そう。じゃあ急ぎましょうか」


「あの、三峰さん。煙草あんまり似合わないですね」


 藤堂は三峰の機嫌を損ねないようにしているのか、控えめに顔色を伺いながら言った。


「そうね。どっちかっていうと私も嫌いだったかも。‥‥でも、藤堂もきっとそのうち好きになるよ」


 藤堂は意味がわからないと言った感じで、顔を傾けた。そんな藤堂をよそに三峰は気を引き締め、準備をする。


 拳銃をホルスターに収める時、改めて誓った。この正義はもう決して迷うことはないだろうと。


 そして、これからも正義を三峰は探し続けるのだろうと。


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