三峰

 被害者が自殺をした。これを聞いた時、三峰は悔しかった。この事件の担当は自分で、彼女は何も悪くないのに自ら命を絶った。自分は何もできなかった。正義感の強い三峰にはそれが許せなかった。


「落ち込んでんのか?」


 志田は助手席から見える、遠くの山々を眺めながら言った。その表情は三峰には到底理解できるものではなかった。


「‥‥どうして、彼女が亡くならなければいけなかったんですか?」


 三峰自身、訳のわからないことを聞いているのは自覚している。それでも、この理不尽を看過できるほど彼女はまだ大人ではなかった。


「さぁな。それはこれだけの歳を重ねても俺には分からない」


 冷たい答えだと思った。この志田という人間が心のそこから冷たい人間だと、三峰は改めて思った。


 しかし、捜査の方は進展を迎えていた。あの日の夜、塾へと向かう生徒が少女が攫われると思われる現場周辺に、怪しい黒いミニバンが止まっているのを見たとの証言を入手したのだ。


「とにかく、感傷に浸るのはやめておけ。俺たちは事件の真相を探すだけだ。余計な感情は判断を鈍らせる」


「‥‥善処します」


 そうは言ったものの、黒いミニバンの置いてある家なんてこの辺には沢山ある。これだけのヒントでは犯人を見つけるのは時間がかかりそうだった。捜査の基本は足から。この言葉を信じて三峰は手当たり次第に車を走らせた。



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