第9話


 少女は大男の最後を見る素振りさえなく、振り返る。


 スタスタと歩きながら、彼女の目は、ただ一点を見つめていた。



 ——僕を


 僕を、見ている…?



 返り血を浴びた制服。


 冷たい表情。



 その光景は異様だった。


 背後には肉塊と化した大男の体が、地面に倒れ込んでいた。



 アスファルトに染み込んでいく、真っ赤な液体。


 何事もなく流れ着いてくる、鳥の囀り。



 長い髪を靡かせながら、少女は悠然と街の上を歩いていた。


 空は青かった。


 ただひたすらに。



 呆然と口を開けたままの僕に、少女は言った。




 「あなたが、今回のターゲットね」




 それが、少女と僕との最初の出会いだった。


 世界の運命を変えるために動き出した、——梅雨明けの季節との。

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