わたしは婚約を破棄され、捨てられてしまった。しかし、隣国の王太子殿下に救われる。婚約を破棄した人物とわたしをいじめていた継母や異母姉は間違っていたと思っても間に合わない。わたしは殿下に溺愛されていく。
第10話 ここを立ち去れ! と言うマイセディナン殿下
第10話 ここを立ち去れ! と言うマイセディナン殿下
「殿下、何度も申し訳ありません。しかし、わたしは殿下の婚約者でいたいという気持ちは全く変わりません。この気持ち、どうかわかってください。お願いいたします」
わたしは頭を深々と下げた。
どうか今度こそ、殿下にこの思いが届きますように。
婚約者のままでいることができますように……。
もちろんその願いがかなう可能性は、ほとんどない。
いや、もう九十九パーセントないといってもよかった。
しかし、それでもわたしは願う。
願うしかなかった。
殿下はしばらくの間、黙っていた。
先程までだったら、すぐさま、
「もうわたしは決めたのだ。お前が何と言っても、わたしの決心は変わらない」
と言っただろう。
もしかして、少し思い直してくれたのだろうか?
そういう期待が芽生えていた。
このまま婚約を継続してほしい。
いや、そういう贅沢を言うつもりはない。
ほんのわずかの間、婚約を継続してもらえばいいと思っている。
その限られた時間で、今まで以上に殿下に尽くしていく。
そうすれば、殿下の心がわたしに向く可能性はあるだろう。
そして、お互いに約束していたことを思い出す可能性もある。
後、一週間は時間がほしい。
その時間を殿下にもらうことはできないのだろうか?
もし、その時間で、殿下に振り向いてもらえなかったとしても、その時はあきらめもついてくると思う。
もちろん百パーゼントあきらめることは無理だとしても、今の状態よりはずっとましだろう。
殿下は、なおも黙っている。
思い直し始めているのかもしれない。
いい方向に向かい始めたと思っていた時、
「殿下、このものの言うことを聞いてはなりません!」
と異母姉が強く言った。
「ルアンチーヌ……」
「殿下、もう婚約破棄のことは決まったのです。殿下にはわたしという婚約者がいます。このようなものの言うことは、一切聞くことはなりません」
「ルアンチーヌの言う通りです。我が娘ながら、殿下に対して失礼なことしか言わないので、恥ずかしくてしょうがありません。もう聞かなくて結構です」
殿下は、二人に力づけられている。
わずかながらわたしの方に動きかけた殿下の心。
しかし、またわたしから離れて行っている。
殿下は、
「二人の言う通りだ。わたしがどうかしていた」
と言うと、厳しい表情になった。
急激に怒りが増してきているようだ。
「お前は、わたしの決断を鈍らせることをした。わたしの婚約者はルアンチーヌ以外にありえないのだ。腹がどんどん立ってくる。今すぐここを立ち去れ!」
「わたしは殿下の婚約者なのです。立ち去りたくはありません!」
こうなったら意地だ。
殿下の婚約者のままでいることはもうできなくなったが、このままおとなしく立ち去ることはできない。
「立ち去れ!」
「立ち去りません!」
このやり取りが続いていくと、殿下はますます怒りが増してきていた。
「ことごとくわたしの意に沿わないやつだ。そこまで言うんだったら、もうわたしも腹を決めた。ルアンチーヌ、そしてイゾルレーヌ。お前たちに命じる」
殿下は一回言葉を切った。
怒りはもう頂点に達しつつあるようだ。
どうしてそこまで怒らなければいけないのだろう。
わたしは殿下の婚約者でいたいだけなのに……。
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