エレベーター

みにぱぷる

エレベーター

 エレベーターが来た。私は仕事の疲れのせいでぼんやりしたまま乗り込む。早く家に帰って眠りたかったので、エレベーターに乗ってすぐ「17」の階数ボタンと「閉」ボタンを同時に押す。反応して「17」のボタンが点灯し、エレベーターの扉は閉まっていった。エレベーターの扉が完全に閉まりきり、私が脱力してネクタイを緩めたとき、再びエレベーターが開いた。私は動揺しつつ誰か乗ってくると考え、ネクタイを締め直す。

 だが、結局誰かが乗ってくることはなく、エレベーターは閉まった。

 私は若干の違和感を覚えたものの、機械の不具合だろうと特に気に留めることはなかった。 

 だが突然、エレベーターの「9」の階数ボタンが点灯した。流石に、私は急な出来事に驚かざるを得なかった。これも機械の不具合か、或いは心霊的な類のものなのか?

 階数ボタンを二度押しすれば、取り消しは可能だが、恐怖でそんな事はできない。私はじわじわとエレベーターの隅の方に後退りしていく。

「9階でございます」

 震える私など関係なく、エレベーターは9階についたことを告げる。そして、ゆっくりと開いていく。

 居心地の悪い間。

 突然、私の背中を誰かが強く押した。私は勢いよくエレベーターから転げ追い出される。私は不格好にエレベーターホールに大の字で倒れた。妙に好奇心が湧いてきて、私は誰かがエレベーターにいたのかと恐る恐る振り向いたが、そこには誰もいなかった。

 私は困惑と恐怖で頭が真っ白になりながらエレベーターに再び乗り込む。エレベーターから出された際に擦りむいたせいで腕がひりひりする。

「ドアが閉まります」

 エレベーターはゆっくりと閉まっていった。

 その後は何の違和感もなく、エレベーターは17階に着き、私は逃げるように自宅に帰ると顔面蒼白のまま眠ってしまった。

 翌朝、昨晩のことは嘘だったかのように私は元気に目を覚ました。だが、腕には擦り傷がまだ残っていた。


 結局、私になにか変化が起きるわけでもなく、この不思議な出来事などすぐに忘れて今日も私は普通の毎日を送る。

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エレベーター みにぱぷる @mistery-ramune

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