第4話 共立魔法大学校(後編)

 ファティマは無造作に教授の方へ歩み寄り、一旦立ち止まって構える。教授程ではないにしろ、彼女もなかなかの体格なので、二人が向かい合うとかなりの迫力がある。構えたところで彼女は大きく息を吸った。


「ファティマ行かせて頂きます!!」そう言うと大鎌を大きく振りかぶって、数歩前に進みながら教授に切りかかった。


『バシッ!!』音を立てて大鎌は見事に教授の体にヒットした。不思議な事に教授はその攻撃に、盾を使うどころか一切の回避行動をとらなかった。木製の武器なので、教授の鍛えられた体はさほどダメージを受けていないが、教授は驚いている。


「一体どんな魔法を付与したのかしら?全然分かりませんでした」教授にそう聞かれてファティマは答える。

「認識阻害魔法を付与しました」


「ああ、それで攻撃そのものを認識できなかったんですね。面白い考え方ですね。でも認識阻害魔法は相手にかけるものであって、武器に付与が可能だなんて私も知りませんでした。隠密系魔法は使える人が少ないと思いますが、ファティマさんはどこでその魔法を学ばれたんですか?」


「それは…」母がと言いかけてファティマは言葉を止めた。魔王である母は、よく街歩きの際に自分の正体を隠すために隠密魔法を使っていたのだ。なにか面倒くさい事に巻き込まれそうなときにも便利だと言っていた。


「本で読みました」もちろんそれは嘘である。彼女は大の本嫌いである。母の行動を見よう見まねで覚えただけだった。


「自己研鑽は大切ですね。どんな魔法であっても使い方次第で色々と可能性は広がるものです。それでは最後にノルンさん」教授にそう言われてノルンも前に進み出る。

 自慢ではないがノルンは戦士を名乗るくらいで、剣技には相当な自信がある。しかし今は付与魔法の授業である。自分の特性を一番引き出す戦い方を先ほどから考えていた。


 ノルンは教授の方へと進み出るが、かなり遠くに間合いをとったところで晴眼に構えた。そうしておもむろに剣を両手で持ったまま頭上で八の字に振り回し始めた。段々と振り回す速度は上がって行く。その速度が充分に早まったところで、教授との距離を一気に詰めて切りかかった。教授は盾でそれを受けようとするが、不規則な剣の軌道はそれをすり抜けて教授の体にヒットした。先ほどのファティマの攻撃に比べてそれは重くて速かった。


「ううっ」教授はたまらずうなり声をあげた。自分の剣は投げ捨てて、ノルンの剣が当たった脇腹を抑えている。


 しばらくすると、教授は呼吸を取り戻してからノルンに聞いた。

「これは一体何をしたんですか?」

 「感知魔法と自動追尾魔法を付与して、とにかく力いっぱい剣を振り回しました」


「なるほど私の隙を武器自身に感知させながら、自動的に攻撃をそこに誘導したわけですね。あとは力任せに適当に剣を振り回しただけと…しかし先ほどのファティマと言い、武器へのそんな魔法付与は聞いたことが無いですね。そもそも同時に二つの魔法を付与するなんて…あなた詠唱もしていなかったでしょう?」教授のその言葉を聞いて、ファティマはノルンの方を見てニヤニヤしている。


「自分の方が悪目立ちじゃん」二人には聞こえないように、そう小さな声で呟いた。


 全員の実技が終わったところで昼休みとなった。ゾロゾロと生徒たちが闘技場を出て行く中でアカツキ教授はファティマとノルンに声をかける。


「あなた達まだ一年生だけど、今度の競技会に出てみない?そういう新しい発想は上級生たちにもいい刺激になると思うのよね」その言葉に二人は顔を見合わせる。共立魔法大学の魔法格闘競技会と言えば有名だ。血気盛んな年齢の若者としては是非とも出てみたいところだが、普段から目立つなというのが口癖の母親達に聞いたら絶対にうんとは言わないだろう。『考えてみます』とだけ答えて二人は闘技場を後にした。


「空間魔法はともかく、隠密魔法を使えるなんて知らなかった。今度私にも教えてよ」ノルンが言う。

「あれはただの精神魔法で、武器に付与したところで効果は対象者に限定されるから、相手の見ている場所の時間を止めて同じ像を見せるとかした方が使い手があるんじゃないか?」

「軽く言うけど時間なんか普通止められないでしょ?ん?まさかあなた止められるの?」


 ノルンの問いかけにファティマは答えることなく、逆にノルンに聞き返した。

「ノルンこそ付与の二重掛けとか凄いじゃん。そんな器用な事私には絶対できないぞ。あれって同じ属性を二度掛けする事も出来るんだろ?そんなことしたらえげつない威力になるよな」

「同属性の重ね掛けなら5回くらいできるよきっと。やったことないけど」

「ゲロゲロ、魔王と勇者が戦う時代じゃなくて良かった」

そう言って二人は大笑いをした。

 

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