第7話 抗がん剤、やめてもいいですか
4クール目が終わりかなりぐったりしてたころ診察があった。
そのとき診察には、いつもは来ない夫が一緒に来てくれた。
この病院は重度の病状の方が多いせいか、付き添いの人と一緒に診察を待っている人が多い。しかし、夫が忙しいこともあるし、長時間待たされる事もあるので、今まで診察には一人で来ていた。
3クール目が終わったあたりから副作用がひどくなりベッドで寝ている私を見て夫が「死んでしまったのかと思った・・」と言った事があるほど、ひどい顔色、ひどい状態だったので心配していたのだと思う。本当に抗がん剤を続けて大丈夫なのかと。
これまでの副作用は
・手足の痺れ、というのか冷たいものを触った時のびりびりした激痛。
・指先が黒ずんでしまった(ちょうど第二関節より上)
・味覚異常。何を食べても合成甘味料の味がする。
・吐き気と食欲不振。
・めまい、立ちくらみ、怠さ。
・異常な血圧上昇(通常上は100前後だったのにひどい時は150越え、160に跳ね上がったら飲む薬も処方されていた)
・脱毛(半分ぐらい抜けた)
夫には「今度の診察の時に抗がん剤をやめると言いたい」と話していたのだけど、夫も6クールで一区切りなんだから、あと2回がんばった方がいいんじゃないか、と言っていて意見が合わなかったのだ。意見の違いから私の状態などわからないくせにと、不調の私は夫に八つ当たりしてたなぁ・・・とりあえず先生の話を聞きながら決めようという事になり、付き添ってもらったのだった。
「抗がん剤をやめてもいいですか」
勇気を出して言ってみたら、担当のO先生が困惑してしまった。沈黙の後、先生は一旦退出され、別の医師を連れてやってきて、
「なんで辞めるんですか?!」
「あと2クールなんとかがんばってみないか?」
「6クールやらないと意味がない」
などと高圧的に言われ、後2クールの抗がん剤を強要しようとしてる感じがしてしまった。
私も感情的になってしまい。
「とにかく、辞めたいんです。いつやめても良いって言ってたじゃないですか」と、ダダをこねるように言った。
「抗がん剤より手術でまた患部を取ってください」と懇願した。
すると後からやってきた医師が、
「抗がん剤治療を続けないということであればうちでは面倒みきれませんね」
と、冷たい口調で出て行ってしまった。しかし担当のO先生は見捨てずに
「とりあえず中断してみましょう、CTを撮って患部を確認してみましょうね」と優しく言ってくれたのだ。夫もそれで納得してくれて、CTの予約を割り込みするように早く取ってくれた。
抗がん剤は二度とやらない!
自分の中では硬く決心していた。
あのまま続けていったら本当に抗がん剤で死んでしまうのではないかと思うほど、がん細胞を叩き殺すという劇薬は辛かった。
私は抗がん剤を否定するつもりはない。それによって助かる命もあるのだから。ただ自分はその治療を選択したくない、と思っただけだ。病後、抗がん剤をやった方がいいと思いますか、とか聞かれたことが何度もあったけど、それは自分が決めることだし、私にはわかりませんとしか言えない。
数日後のCT検査の結果、左肺下葉にある2センチほどのがんは真ん中が空洞になり少し小さくなっているのが確認された。
「やはり抗がん剤は効果が出ていますね。どうしますか?このままあと2クール続けたら消えるかもしれませんよ」
そう言われたのだけれど、私の決意は固かった。
「肺に転移したがんを切除する手術を検討しましょう。この先は呼吸器外科の先生の診察になりますがいつでも何か困った事があったら電話してくださいね」
この時のO先生の笑顔が忘れられない。私の命の恩人である。
夫も「お前は体力があるから手術も耐えられるし、その方が合ってるかもな」と笑っていた。
2009年、この年の夏に始まった抗がん剤療法は秋に終わり、冬の初めに2回目の手術を受けることになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます