君がいたから〜二人の闘病記
akko
第1話 序章〜まさか私が・・・
ずっと私の闘病生活を支えてくれていた夫が突然この世を去った後、彼が私にくれた命、愛、勇気を残しておきたくてfacebookに書いていた闘病記をまとめることにしました。なるべく当時書いた文章のままに書いていきたいと思います。
もう15年も経ってしまった日々、本当に色々なことがありましたが、今でも鮮明に色鮮やかに心に残っているのは、生きる喜びを、命の輝きを感じていたからだと思います。
三度の手術と抗がん剤治療、それを経て、今もここにいる私。
だけど、私を支えて生かしてくれた、夫は、いない・・・
複雑な気持ちはずっと続いています。
この闘病記は天国にいる夫に捧げます。
若い頃から病気とは無縁。体力も自信満々だった。
小学生の頃、風疹やおたふくかぜが流行って、仲良しの友達も席の隣の子も、みんな感染しても、なぜか私だけは無事。インフルエンザにも罹ったことはなく、風邪すらもほとんど無縁だった。
2人の娘たちの妊娠出産でも何も問題なく、安産。
自営業ということもあり、健康診断なんて受けた事はなかった。
夫のデザイン業の手伝いをしながら、
趣味は40歳から始めたクラシックバレエとジム通い。
そして若い頃に夫とやっていたバンド活動の再開。
二人の娘たちも育ち上がり、悠々自適の第二の人生を満喫していた。
ところが47歳半ば頃から、体に異変が起こり始めた。
疲れる。
駅の階段を上るだけで100メートル走を疾走したように心臓がバクバクする。
足がむくむ、ふくらはぎを指で押すと皮膚が戻ってこないほどだ。
心臓が悪いんだろうかと救心という動悸息切れに効く薬を飲んでみたりもした・・・
当然、バレエもヨガも運動は全て出来なくなってジムも休会することにし、
夫にも娘達にも「おかしいよ、病院へ行って検査してみなよ」と言われ、
しぶしぶ、事務所近くのクリニックへ行ってみる事にした。
2008年2月某日
初日は問診で瞼の裏側を見た医師が貧血があるようなのでとりあえず採血し、来週の検査の結果が出たら今後どんな検査をすればいいか相談しましょうとのことで、予約を取って帰宅した。
しかし、2~3日過ぎたころに、突然クリニックから電話がかかってきた。
「今すぐクリニックへ来て下さい」とのことだ。
今でも覚えているが、撮影に使う小道具「作業着」を探しに新宿萬年屋にいた時だった。
なんだろうと思いつつも、とりあえずクリニックへ直行した。
「今すぐ入院してもらいたい。ひどい貧血状態です。普通の半分以下の数値です。
いままでよく普通に生活してましたね」
貧血?そんなバカな、ありえない、びっくりして、しかし急に恐怖心が広がった。
入院なんてそんなに急にはできないので、絶対無理しないことを条件に鉄剤を飲みながら、とにかくどこから出血してるのか早急に調べるため検査予約をした。
夫には「なんだか大変なことになった・・・ごめん・・」と電話をした。
電話の向こうの夫は言葉に詰まっていた。
その沈黙は、深い夜の森で道に迷った子供のような、
真っ暗な大海原に放り出された小舟のような、
そんな心細い恐怖心につながっていく。
そのときから、夫にはどんなに心配をかけたのだろうか・・・
最初の検査は胃カメラ。
人生初の胃カメラには苦しんだ。小型になったとはいえ、細い食道を突き進むカメラは喉をえぐるように刺激して、吐き気と闘い涙を流しながら終えるも、異常なし、ということでとりあえずほっとした。
胃がんや食道がんではないのだ。
もしも胃を切除してしまったら、かなり長い期間今までのように食事が取れないのだろうなと危惧していたのだ。食べることが大好きな私たち夫婦はよく食べよく飲んだ。夫婦二人で晩酌をしていろんな話をして、そして笑って・・・
それが当たり前の日常だったのだから。
より正確な血液検査も受けたが血液の病気の可能性もなく、この貧血は生理のせいで、案外なんでもなかったりして、と楽天的にすらなっていた。
生理も閉経に向かうと重い日が多くなり、そんな日は少し動いただけで夜用のナプキンでも間に合わないほどの出血量だったので、きっと婦人科系の症状の一部なのかもなどと思い込もうとしていた。
そして、大腸内視鏡。
胃カメラもかなり抵抗があったが、大腸内視鏡は肛門からカメラを入れられるという未知の体験なので躊躇してしまい、恥ずかしながら、レントゲンやエコーでわかりませんかと医師に駄々をこねてしまった。
肚を括り、検査のため前夜に下剤を服用しクリニック近くの事務所に一人で泊まった。
と、その夜、異変がおきる。
ひどい腹痛が襲ってきたのだ。
冷や汗が出るほどの激痛でほぼ一睡もできず、翌朝クリニックが開くのを待ち駆け込んだ。なんだかちょっとこれは大変な事になったのかもしれないと、その時初めて不安がよぎったのだった。
痛みに耐えながらポカリスエットの味がする下剤を飲み、排便を繰り返し、なんとか検査が出来る状態(腸が空っぽの状態)になっても腹痛が激しいので、麻酔をして検査をする事になった。
検査服に着替えてベットに横たわり、点滴を始めるとすぐに意識が遠のいていった。
そして、次に麻酔から目覚めたとき先生が
「すぐにご主人を呼んでください」と深刻な面持ちで静かに言った。
夫を待つ間、CTも撮る事になった。
あぁ、これは大変な事になってしまったんだ、どうしようどうしよう・・・
なんとかこの状況から逃れたくて、何かいい言い訳はないものか、この状況が嘘だったことにならないものなのか、心の中が揺れ動いていた。
大慌てで駆けつけた夫と私を前に、先生の口から、
「下行結腸に大きな腫瘍があります。大腸がんに間違いないと思われます。
カメラが入って行かないほど大きなものでした。
すぐに大きな病院で検査してください。」
私達二人は目の前が真っ暗になった・・・
なんで?私が大腸がん???
問診でも便秘はしていないとのことで大腸は大丈夫かなと言ってたのに・・・
お腹がいつもゆるいから気がつかなかったのか・・・
絶望、という状態を二人して初めて味わった。
そして、その日から、「がん」との長い付き合いが始まったのだ。
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