第6話 ビビりな2人
天音香織とは中学2年生の時に初めて接触した。彼女から話しかけてきたのは意外だったが、その時は俺にお礼が言いたかったらしい。
「・・・・・・山下くん。あ、あの・・・・・・・・・」
「いや、無理しなくていいから」
2年に上がると同じクラスになったため分かっていたが、彼女は普段虚勢を張っている。だが、男子生徒と話す時はいつも1歩だけ足を後ろに引いていることがよくあるので、やはり男性恐怖症になってしまっているのかも。
「なんで話しかけてきたんだよ。もしここを誰かに見られたらお前終わるぞ」
「大丈夫。もう・・・・・・終わってますから」
そう言うと腕を組み始める。何をとは言わないが、それを強調したいんだろう。触れない方が良いと思って俺は話を逸らそうとした。
俺たちがいるのは、地元で一番大きな公園だ。放課後彼女に誘われて仕方なく来たのだが、少し後悔している。事件から1年近く経過していたので、もうどうでもよかったのだ。
「それじゃ、俺は帰るよ」
「ま、待ってください!!!」
「・・・・・・まだ何か用?」
「あ、ありがとうございます!!!」
俺の正面に立って、美しい所作で頭を下げてくる。俺はそれを見た時に、非常に困っていた。今更どうしようもない。なら、俺の事を忘れて生きて欲しかったのに。
だが、ここまでさせといて無視を貫き通すのは俺のメンタルでは無理だったので、一応何かを言うことにした。
「そう。まあ良かったよ。生きてて良かったよ」
「・・・・・・・・・どうして私を助けたんですか?貴方はそのせいで全て失ってしまったのに」
「え、どうしてって言われても」
「あの事件の次の日。警察が学校に来ましたよね?!もしかして・・・自分で自首したんですか?一体なんで・・・・・・」
彼女の目は、真剣そのものだった。一語一句聞き逃すものかという意志が顕著に分かる。ただ目以外の表情は異様に冷めていた。それを聞いてくれるなら、俺もちゃんと話さないといけなくなる。
そうだ。俺は自分で警察を呼んで自首していた。そして次の日、警察は学校に来ていたそうだ。俺は次の日は自宅待機を警察から告げられて、一日中ベッドの上で天井を見ながら過ごしていた。
怖かったんだと思う。ほとんど無意識に俺は自分で事を終わらせていた。やってしまった後悔を拭うように、誰かに助けを求めてしまっていた。
最初から、そうすれば良かったのに。
「別に、俺は暴力は怖いということを身をもって知ってるから、身体が勝手に動いてた。だから助けを求めていたお前を助けた。それだけ」
「それだけ・・・・・・なんですか?」
「ああ。てか敬語辞めてくれない?変だよ?」
「変・・・・・・・・・私に変と言ったことのある人はあなたが初めてです」
先ほどの冷たい表情から一転。少しやさぐれていて柔らかい顔になる。俺はそれを素直に可愛いと思ってしまった。嫌われて人が嫌いになっていなかったら、普通に恋に落ちてたくらいに。
「それは、そうだろうな。じゃあ、もう話すことは無い。俺はこれで」
「ま、待ってください!」
「・・・・・・なんだよ」
制服の袖を掴まれて、俺は帰るのを阻止される。誰かに見られると面倒なので早く帰りたい俺は少しイラついてしまった。
しかし、それを絶対に見せまいと平静を装った。
「お礼がしたいです・・・・・・ダメですか?」
「ダメです。帰らせてもらいたい」
「じゃあ・・・・・・私の家に来ませんか?」
「・・・・・・・・・は?」
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