デウス・エクス・ダンジョン〜不幸な荷物持ちの少年に憑依したのはまさかのゼウスでした〜

@marumarumarumori

ゼウス、追放される

ゼウス。

それは、ギリシャ神話における最高神であり、神々の中で最も性に奔放な神である。

現に、ギリシャ神話の英雄の中には、ゼウスとの浮気・不倫の末に生まれた子もおり、まさに、ギリシャ神話の中心人物と言っても過言ではない。

しかし..........そんな彼は、今現在ピンチに陥っていた。

その理由は簡単。

ゼウス本人が、神話の時代以来となる浮気をしたからである。

しかも、隠し子がいるというオマケ付き。


「ぜ、ゼウス様が.....浮気..........?」


なので、ゼウスの妻であるヘラは、これ以上ない程に混乱していた。

一方の、ゼウスは昔のように何とかなると思っているのか、ヘラヘラと笑っていた。


「分かってくれ、ヘラ。これが我なのだ」


ヘラに向けて、諭すようにそう言うゼウス。

すると、それを聞いたヘラは


「ゼウス様.......」


ゼウスの目を見つめながら、そう呟いた。


「でも..........その子が成長し、神の力に覚醒した時はどうするのですか?」

「その時は、ディオニュソスのように、オリュンポス十二神に加えるつもりだ」


ヘラが理解してくれたと思ったのか、思わず、そんなことを口走るゼウス。

............それが、地獄の片道切符とも知らずに。


「ハ、ハハハ.....アハハハ、アハハハハハ!!」


ゼウスの言葉を聞き、突然、笑い始まるヘラ。

そして.....ニッコリと笑うと、ゼウスに向けてこう言った。


「そうですか....そうですよね!!ゼウス様は、そういう神なのですよね!!」

「へ、ヘラ?」

「ご安心を!!既に手は打っておりますから!!」


ゼウスがそんな声を漏らすと、その場に現れたのは..........彼の兄である、ハデスとポセイドンであった。


「ハデス!?ポセイドン!?」


目を見開きながら、そう叫ぶハデス。


「ゼウスぅ、君は本当に変わらないよねぇ〜」

「いくら、アンタがワシらの兄弟とはいえ..........限度があるやろ」


ゼウスに対し、呆れながらそう言うハデスとポセイドン。


「ふ、二人とも、何を言って」

「あのなゼウス、ワシらはいつもいつもアンタの尻拭いをしてきたんやで。それなのに、アンタは懲りもせずに浮気ばかりして...........少しはこっちのことも考えてくれや」

「そうそう。頭を下げているのはぁ、僕達の方なんだからねぇ」


二人がそう言った瞬間...........ようやく、自身が立場を理解したのか、顔色はドンドン悪くなっていった。

そして、それをハデスは、ニッコリと微笑み...........ゼウスに対し、こう言った。


「と言うわけでぇ、兄妹会議をした結果ぁ、ゼウスを追放することが決まったんだよねぇ」


ゼウスを追放する。

それは、彼を最高神という立場から引き摺り下ろす...........ということを意味していた。

だが、そのことを聞いてゼウスが黙っているはずもなく


「わ、我はオリュンポスの最高神、ゼウスなのだぞ!!そんなこと、出来るはずがないだろう!!」


と、すぐさま抗議をした。


「忘れたんか?アンタはワシらの末っ子で、ワシらはアンタの兄やで?それぐらい、どうってことはないで」

「人間達はぁ、僕達のことを忘れてるからぁ、最高神が変わったところでぇ、何の影響もないんだよねぇ」


ゼウスに向けて、淡々とそう言う兄二人に対し、当のゼウスはワナワナと震え出し.....自分の兄弟に向け、ギリシャ神話最強の武器にして、ゼウスの神器でもあるケラウノスを使おうとした瞬間、突然、ゼウスの足元から鎖が現れ、ゼウスを拘束した。


「なっ!?これは..........まさか!?」

「そう。お察しの通り、グレイプニルや」


グレイプニル。

それは、北欧神話に登場する神器の一つで、フェンリルを拘束していた拘束具として使用されていたため、ギリシャ神話の最高神であるゼウスでさえ、その拘束を解くのは難しく


「ヘパイストスめ、余計なことを.........」


鎖をガチャガチャと動かしながら、そう呟くのも無理はなかった。


「ヘラ!!ハデス!!ポセイドン!!我に何をするつもりだ!!」

「何って.....私はゼウス様のことが大好きだから、こういうことをしているんです♡」


ヘラはそう言うと.......ゼウスの足元に、魔法陣のようなものが現れた。

それと同時に、ゼウスは力を失う感覚に襲われ、魔法陣の上に膝をつくのだった。


「クソッ!?力が..........抜けていく.......な、何故だ!?どうなっている!?」

「私が好きだったのは、神としてのゼウス様ただ一人。でも.......私達のことを忘れて、世界の支配者だと思い込んでいる猿と愛し合い、子を成したゼウス様ではありません。ですから、ゼウス様を神の座から追い出すことにしたんです♡」

「な、何だと....!?」


ゼウスは、目にハートマークを浮かべながら、うっとりとした様子で、そう言うヘラの言葉を信じようとはしなかったが...........ヘラの言葉を証明するのかのように、手に持っていたはずのケラウノスは、光の粒子となって消滅した。


「馬鹿な!?ありえん.....ありえん!!」


最強の武器であるケラウノスを失ったからか、ゼウスの表情は絶望一色に染まり..........


「お、おい..........本気なのか?我はお前達の弟なのだぞ?我はお前達を父の腹の中から出してやったのだぞ?そ、それでもいいのか?」


と、やや上から目線ながらも懇願し始めた。

しかし、兄達の反応は冷ややかなもので...........


「別に僕らは構わないよぉ」

「確かに、ワシらを助けてくれたアンタには感謝してるわ。まぁ、放置していたワシらも悪いけど...........最高神という立場を利用して、好き勝手してたのはアンタやろ?だから、ワシらから言えることはただ一つ。自業自得や」


と、冷たい目をしながら、そう言った。

兄二人に見捨てられ、呆然としているゼウスに向け、追撃をするかのように、ヘラはこう言った。


「ゼウス様。どうして、ヘパイストスを殺そうとしたのですか?そんなにあの子が私に似たことが憎いのですか?」


狂気じみた笑顔を見せながら、ゼウスに向けてそう尋ねるヘラ。


「ち、違う!!あの時は、ムシャクシャしてしまって、つい.......」


ヘラの質問に対し、慌てながら答えるゼウス。

しかし、ヘラの質問はそれだけではなかった。


「ゼウス様。どうして、他の女との間に出来た子をオリュンポス十二神に迎え入れたのですか?そんなに私が嫌いなのですか?」

「そ、そんなわけ」

「ゼウス様。どうして、ヘスティアお姉様のオリュンポス十二神としての座を、ディオニュソスに渡すように要求したのですか?そんなにヘスティアお姉様のことが嫌いなのですか?」


ヘラは止まることなく、ゼウスに対してそう質問し続けた後..........ゼウスは、ヘラに向けてこう叫んだ。


「わ、我は悪くない!!我は悪くないのだ!!」


その言葉を聞いた瞬間、ヘラの顔が笑顔が、瞳から光が消えた。


「..........やっぱり、今のゼウス様は私の好きだったゼウス様とは違うのですね。なら、消えてください♡」


ヘラがそう言ったのが引き金となったのか、ゼウスから奪った神の力をエネルギーに、魔法陣が光り輝き始めた。

その時、自身がヘラに捨てられたと自覚したのか..........ゼウスは、グレイプニルの鎖を引きちぎろうと暴れ始めた。


「おのれ...........我は神なのだぞ!!我は最高神なのだぞ!!なのに.....なのに....何故、何故、何故なのだぁぁぁ!?」


しかし..........無情にも、ゼウスはグレイプニルの拘束から解放されることはなかった。


「あ。言っとくけどぉ..........神の力を失った今のゼウスはぁ、自分自身の存在を保つことが不可能なんだぁ」

「..........え?」

「だからぁ、人間界に追放されたところでぇ、今のゼウスはぁ、魂として彷徨うことになるんだよねぇ」


ニチャアと笑いながら、自身の弟に向けて、そう伝えるハデス。

それは、彼なりの愛だったのかもしれないが...........今のゼウスにとっては、その言葉は絶望以外の何でもなく


「嫌だ!!嫌だ!!ヘスティア!!デナメル!!ヘラ!!ハデス!!ポセイドン!!今までのことは謝るから.......だから、だから」


必死になって、ヘラ達に謝るゼウスだったが、時に既に遅く..........魔法陣の光は、ゼウスを包み込むのだった。


「この我を.....助けてくれぇぇぇぇぇぇ!!」


こうして、ギリシャ神話の最高神ゼウスは、兄弟と妻の手によって、神の座から追放され...........とある悪戯好きな神によって、作り替えられてしまった人間界に堕とされるのだった。

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