第25話 目覚める

「テラ。」

カミュスヤーナは目の前の彼女の身を起こして抱きしめる。テラスティーネは、目を瞬かせた後、気持ちよさそうにカミュスヤーナの胸にすり寄った。

「お会いしとうございました。カミュス。」

「私は君を失うのではないかと気が気でなかった。」

カミュスヤーナは押し殺した声で、彼女に応えた。そのまま彼女の長い水色の髪に、自分の顔を埋める。


「カミュス。私、あなたのお義母様とお義父様にお会いしました。」

テラスティーネはカミュスヤーナに向かって囁いた。

「君はどこにいた?」

「夢の狭間と呼ばれるところです。生者は通常来られないところだと聞きました。私は虚夢と言われる空間を漂っているところを、オクタヴィアンに助けられました。」


「オクタヴィアン?」

「貴方と私の子だそうです。他にもエルネスティーネという女の子もいました。2人ともとても可愛い子でした。」

カミュスヤーナは、テラスティーネの言葉を聞いて、その身体を強張らせた。


「子ども?君は身ごもっているのか?」

「・・違います。夢の狭間には、まだ産まれる前の子どもたちもいるのだそうです。産まれるまでそこで待っていると言っていました。」

「想像の範囲を超えた内容だな。」

そう言いつつも、カミュスヤーナに驚いた様子はない。


「でも確かにあの子たちは、私たちの色を継いでいましたよ。お義母様とお義父様の姿も、以前家系図と共に見た肖像の通りでしたし。」

カミュスヤーナとテラスティーネは、それぞれ夢の中で別れた後のことを伝えあった。

その内容の大きさに、二人は同時に息を吐き、フフッと微笑む。


「私が夢を壊したせいで、君を危険な目に合わせてしまった。」

「・・それは、カミュスが暴走しそうになるのを阻止しようとした結果ですから。あの時はそれ以外の行動はとれなかったと私も思います。」

「・・ありがとう。テラ。そして、すまない。君にはいつも心配をかけている。」

カミュスヤーナの言葉に、テラスティーネは彼の顔を見て、その頬を軽く膨らませた。


「本当です。今度からは何か行動を起こす時は、必ず相談してくださいませ。カミュス。貴方は自分で思っている以上に、他の方を魅了するのですよ。」

カミュスヤーナはその言葉に口ごもる。

「私は自分で望んで、この状況を作っているわけではないのだが・・。」

「そんなことは分かっています。私はそんなカミュスヤーナが好きですから。でも、物事には限度があるのです。」


「そうですよ。父上。あまり母上を困らせないようにとお伝えしたはずです。」

部屋の隅から聞こえてきた声に、カミュスヤーナは振り返る。

エンダーンがお茶を飲みながら、こちらを見て口の端を上げた。なぜか、隣にはアメリアが座っていて、エンダーンの手がアメリアの頭を撫でている。


「エンダーン。心配をおかけしましたね。お義父様がカミュスヤーナと貴方によろしく伝えてくれとおっしゃっていましたよ。」

テラスティーネがエンダーンに向かって声をかける。エンダーンは不思議そうにその金色の瞳を瞬かせた。


「父上もおっしゃっていましたが、本当に父上・・マクシミリアンにお会いしたのですか?」

「信じられませんよね。もう亡くなられている方ですし。」

アメリアが頬に手を当てて、首を傾げる。


「私が彼と話した限りでは、その内容にも齟齬はなかった。間違いない。」

「・・まぁ、マクシミリアンの助けがなくては、母上が目覚めたかどうかわかりませんでしたから、幸いだったとしか言えませんけれど。」

エンダーンは珍しく、大きく息を吐いた。


「最初に捕らわれたのが父上だったから、この結果になったのでしょうね。」

「なっ。それはどういう意味だ?」

「いえ、父上や母上といると、様々なことがあって退屈しないなと思ったのです。そうであろう?アメリア。」

「はい。エンダーン様。」


エンダーンとアメリアのやり取りに釈然としないものを覚えたカミュスヤーナだったが、ひとまず自分の元にテラスティーネが戻ってきた事から、それ以上考えることを放棄した。


「ところで。」

エンダーンはカミュスヤーナとテラスティーネに向き直る。

「ハンニカイネンはどうしましょうか?もう、父上も母上も戻られたのですから、これ以上手を貸す必要はないのでは?」

「いや、魔王ラーファエルを眠らせたままにしてしまっては、今後ハンニカイネンとの関係に支障が出る。私はイヴォンネに夢の中に入るための魔道具を提供する。」


「イヴォンネが、魔王ラーファエルを目覚めさせることができなかったら、どうなさるのですか?」

「・・イヴォンネも一緒に夢の中に捕らわれたなら、魔王の座を継承する者がいなくなるが、私がラーファエルを討伐したようなものになるから、私がハンニカイネンを治めることになろう?」


「で、イヴォンネがうまくいったとしても、十分にハンニカイネンには恩が売れますね。」

「そうだな。ジリンダと同じように交易対象に加えればいいだろう。ユグレイティの地もさらに潤うな。では、行動に移る。迅速かつ的確な対応を期待する。」

カミュスヤーナの側で、テラスティーネ、エンダーン、アメリアが頭を垂れ、跪いて礼を取った。

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