第23話 夢の狭間

目を覚ました時には、白い部屋の中だった。

床には白い絨毯が引いてあり、ふかふかな感触を感じる。

顔を横に向けると、私の隣にいた人物が、その赤い瞳を私に向かって向ける。


「カミュスヤーナ・・。」

「私はカミュスヤーナじゃないよ。」

即座に否定の言葉をかけられ、私は目を瞬かせた。相手をじっと見つめる。

水色の髪に赤い瞳。齢は8くらい?整った面をした男の子だった。そして、その容姿は何となくカミュスヤーナに似ていた。その赤い瞳のせいかもしれない。


私はゆっくりと上半身を起こし、辺りを見回した。

一面だけ黒い壁があるが、それ以外は白い壁。扉はない。窓もないのに、辺りは普通に明るい。

私はこの空間を知っている。

ここは以前、私が魔王(エンダーン)に襲われた時に、意識が退避したカミュスヤーナの夢の中に似ている。


先ほど、カミュスヤーナの夢に入って、彼の目を覚まそうと、夢の中の私と対峙した。カミュスヤーナは、私がテラスティーネ本人だと分かってくれ、謝罪を口にしてくれた。

その後、カミュスヤーナが暴走しそうになって、私を胸に抱え込んで、私達以外の全てを壊すと言った。夢の中のテラスティーネが懇願するのを聞いた後の記憶がない。

次に目を覚ましたら、ここにいた。


カミュスヤーナは無事目が覚めたのだろうか?

そして、私はどこにいるのか。

そして、目の前の彼は一体誰なのか。


口を開いて目の前の彼に問いかけようとしたら、左側から服を引っ張られた。

服が引っ張られた方に目を向けると、そこにいたのは、5歳くらいの女の子だった。プラチナブロンドの髪に、青い瞳。彼女は私をじっと見つめた後、目の前にいた彼に向かって声をかけた。

「だめだよ。お兄様。ちゃんと名乗らないと。」


男の子はその場に両膝をついた。女の子が男の子の元に駆けていく。そして、そのまま兄である彼に抱き着いた。

「私はオクタヴィアン。」「私はエルネスティーネ。」

男の子、女の子の順番に、名前を名乗った。でもその名に聞き覚えはなかった。


「ここは夢の狭間だよ。」

男の子はそう言って笑う。

「夢とは違うの?」

「誰かが見ている夢ではないから。普通は死なないと来れない。」

「え、死ぬ?」

私は、顔が青ざめるのを感じた。私は夢に入ったまま、目が覚めずに死んでしまったのだろうか?


「大丈夫。まだ死んでいないよ。それに死なれると私たちも困るんだ。」

オクタヴィアンの言葉に、エルネスティーネがぶんぶんと音が鳴りそうなくらい、頭を縦に振っている。

「貴方たちは・・死んでしまったの?」

「・・生きてはいないけど、死んでもいない。今は待っている状態。」

「待っている?何を?」

「呼ばれるのを。」


質問をしても、返ってくる答えがすべて抽象的でわからない。具体的に答えるつもりがないのか、答えられないのか。ニコニコ笑っていて、悪い子にはとても見えないのだけれど。


「私と貴方たちは、何か関係があるの?私は・・貴方たちにあった覚えはないのだけど。先ほど、私が死んだら困るって言っていたでしょう?」

そう聞くと、2人はまた顔を見合わせて笑い合う。

「関係は大有りだけど、今はまだつながってない。」


「いつつながるの?」

「呼ばれたらだね。でも先に呼ばれるのは、私だから、その間エルを一人にするのが、心配だな。」

オクタヴィアンは目の前のエルネスティーネの頭を優しくなでる。

エルネスティーネは気持ちよさそうに目を伏せて、それに応えている。

なんとなく2人の様子が、ずっと昔の私とカミュスヤーナの姿に重なった。


2人が私の方を見て、ぎょっとしたように目を見開く。

「どうしたの?どこか痛い?」

「具合が悪くなっちゃったのかな?」

2人は、私の側に来ると、私の顔を覗き込んでおろおろしている。自分で頬に手をやると、手先が濡れた。私は泣いているらしい。2人は私が突然泣き出したので、困っているのだろう。早く泣き止まないと、と思うのだけど、一度あふれた涙がなかなか止まらなかった。2人の様子を見て、私はたまらなく彼に会いたくなってしまった。

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