幸せな夢を壊しましょう

説那

第1話 プロローグ

「お兄様。また、魔力が尽きてしまいました。新しい贄を探さなくてはなりません。」

少女の申し出に、青紫の髪、銀の瞳の青年は、大きく息を吐く。


「またか。少々使い過ぎではないか?」

「お兄様が魔力消費の多い作業をさせるからです。あとは、贄の質が良くないのではないですか?」

白い髪に紫の瞳の少女は、青年の呆れたような言葉に、つっけんどんに返した。


「質の高い贄が簡単に手に入れられるわけがなかろう。だから、量で補っているのではないか。」

「私のおかげで、お兄様は今の地位を手に入れられたのです。私がいなくなってもよろしいのでしょうか。」

少女はニッコリと青年に向かって微笑んだ。青年はその言葉に顔をしかめる。


青年と少女は、兄妹というにはあまり容姿は似ていない。共に耳の斜め上辺りに、大きく湾曲した角が生えている。これはこの地に住む魔人の特徴であろう。


「心当たりはないでもない。」

青年は自分が座っている玉座に肘をつくと、口の端をあげる。


「以前、ユグレイティの地の魔王が行方不明になったと、通知があったであろう?」

「あぁ、魔王なのに、訪問先の魔王を襲撃から逃れさせる代わりに、傷を負って海に落ちたとかいう、あれですか?」

「そう。その魔王らしくない行いをした彼が、ユグレイティの地に戻ったらしい。」

「それが何か?」


「魔力量が魔王の中でも多いらしい。もし、手に入れられれば、この先、贄を探さなくても問題ない。質ももちろんいいであろう?」

「は?魔力量が多いということは、それだけ強いということです。手に入れられるわけありません。」

今度は、少女の方が呆れたように青年に告げる。

「他の魔王を手にかける等、お兄様はおつむが少々弱いのではないですか?」


少女の言葉に、青年は荒々しく言い返す。

「だが、魔王に成ってまだ5年もたっていないはず。経験が足りない分、手に入れる余地はあるということだ。それにそれくらいの魔力量でないと、正直そなたを満足させることができなくなっているのでな。」

「・・私としては、贄の質が良ければ、異論はありませんが。どうされるおつもりですか?」

青年は顎に手をやり考え込むしぐさを見せる。


「彼には伴侶がいるそうだ。そこを叩くべきだな。」

「伴侶に化けて、釣りますか?」

「わざわざ赴く必要はないであろう。私たちの得意な領域に持ち込めばいいのだから。贄だった者は死んではいないのだろう?その者を使おう。」


「ちなみに、その魔王の名は何というのですか?」

青年は少女に嘲るようにその魔王の名を告げた。

「カミュスヤーナ。」

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