エピローグ
高倉は笠木の乗った車椅子を押して病院の中庭の花壇の前を歩いていた。
白い壁に囲まれた病院の中庭は広く、真ん中には大きな木を囲むように木製の椅子が複数設置されており、その周囲の幅の広い歩道を花壇が囲っている。今日は晴れており雲一つなく天候が良い。秋晴れだ。
笠木は下半身が麻痺状態で今はリハビリをしており、最初は手に握力もなくスプーンを握る事すら困難なようだった。出血多量のせいで一時的に脳に酸素が回らなくなり、いつまで続くか分からない記憶障害が残っているとの事だった。医者に聞いても治るかどうかすら分からないという。
笠木は自分の事を覚えていないようだった。何度話を聞いても何も覚えていないらしい。高倉は仕事の合間を見ては毎日のように病院へ見舞いに通った。
今の自分は笠木の録音のお陰で無罪の身だ。自分の持っていたボイスレコーダーは壊れてしまったので、笠木には感謝している。包丁の件は笠木が何かを思い出してもパニックになった笠木の勘違いだと伝えたら良いだけだと思考をしているが、万が一何かあれば笠木の口封じは弟にした事と同じ事をすれば良いと思考をした。
ふと、鼻をすする音が聞こえたので高倉は押していた車椅子を止め、笠木を見下ろした。笠木は俯いて震えていた。
「どうかした?」高倉は笠木の前へ行きしゃがみ、笠木の顔を見た。
笠木は涙を流してこちらから視線を外していた。高倉は笠木が急に涙を流した事が理解が出来なかったが、ふと思考をすると笑顔を作り笠木に聞いた。
「何か思い出した?」
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