第22話 責任取ってください♡



「居酒屋であたしが絡むところから始まるから――、じゃ、2倍速で再生するね」


 そう言うと麻莉ちゃんはボイレコの再生を始めた。


――ボイレコ――

『あれぇー、有間さんじゃないですかぁ〜?ええ〜すご〜い、偶然ですねぇ〜』

『え?だ、誰でしたっけ?』

『えぇ〜、いやだ〜、さっき〜ショッピングモールで会ったじゃないですかぁ〜?』

『ああ、砂月さんの友達の……』

『しおちゃんの親友でーす』

――――


「止めて」

「え?なんで?」


 砂月さんの指示で麻莉ちゃんはボイレコを止める。


「私達親友じゃないよね?あと声がキモい」

「え?あたし親友じゃないの?」

「うん。……知り合い?」

「と、取り敢えず再生を続けよう」俺


――ボイレコ――

『覚えてないとか、酷いですよぉ〜。麻莉ショックで泣いちゃいますぅ。そんな有間さんに麻莉がここに座って意地悪しちゃいますね〜」

『えっ?ちょっ、困るよ』

『ええ?いいじゃないですか~。今日ドタキャンされちゃって麻莉、一人なんですぅ~。寂しいなーって思ってたら知り合いいて嬉しくてぇ~。麻莉、可哀想ですよねぇ?』

『いや別に』

『は?』

『と、とにかく困るから、自分の席に戻って』

『やだな~、ちょっとくらい大丈夫ですよ~。すぐ帰りますから~』

『いやダメだよ』

――――


「ここであたしが参戦したわけ。オスども、このデカパイを見て鼻の下伸ばしてたなぁ。あはははは」

「これだけ拒否されて参加できるって……、メンタル壊れてるね。で、有間さんも伸ばしたんですか?」

「いや、俺は胸は見てないよ」

「この男、デカ乳に興味ないとかぬかしてて、こっちが引いたよ」

「会社の人達に迷惑だと思って、早く帰らせたかったんだけど……」

「オッサンどもは、メスガキが参加してあげたおかげで10歳は若返ったから問題ないでしょ」

 麻莉ちゃんは得意げに胸を手を当てる。

「強引に参加したように聞こえるけど……」


 俺達が話している間も再生は2倍速で続いている。


――ボイレコ――

『有間さんだけぇ、特別に麻莉の胸、触ってもいいですよぉ?触っちゃいますぅ?こじゃ恥ずかしいからぁ、トイレで触りますぅ?』

『いや、ごめん。……俺、全く興味ないから触らなくていいよ。せっかくだけどごめんね』

――――


「ほらね。興味ないでしょ」麻莉子

「有間さんに汚い物触らせないでよ!」紫陽花

「なにが汚いって!?」麻莉子


――ボイレコ――

『有間さんって下の名前はなんて言うの?』

愁斗しゅうとだけど……』

『じゃぁ愁斗君』

『馴れ馴れしいなぁ、いてっ』

――――


「ここで、あたしが生意気な愁斗君をどついたわけよ」


 麻莉ちゃんは「てへ」っとウインクしながら軽く舌を出した。


 パシンッ!――「いた!なにすんのよ、この暴力女!」


 そんなあざとい麻莉ちゃんの膝を砂月さんは引っ叩く。


「え? なに? 文句あるの? 次はコレいいかな?」


 砂月さんは握り締めた拳をチラつかせた。


「愁斗く~ん、こわ~い。麻莉腹パンされて、愁斗君の赤ちゃん産めない体にされちゃう~」

「俺が抑えてるから!砂月さんやっちゃって!」

「こ、こいつも敵か!?」麻莉子


――ボイレコ――

『砂月さん、Cカップなの?』

『高3のときはね。………………』

――――


「なんでバラしてるのよ!?今Dだし!はっ」


 え?D?痩せてるからそこまで大きいとは思わなかった。


「なにぃ~?自分で揉んで、成長させちゃったのかな~?紫陽花えっろ~い。どうやって揉んでるの?オジサンに見せてごらんよ」麻莉子

「揉むと大きくるって言うからね」俺

「揉んでません!殆ど……」紫陽花


 殆どってことはたまに揉んでるってことか……。


「だいたい何で、愁斗君呼びなのよ。私だって名前で呼んだことないのに」

「オスどもを呼ぶときは基本でしょ?」


――ボイレコ――

『あたしのことは麻莉ちゃんって呼んでください』

『苗字は?』

『下ネタみたいな名前だから秘密。ほら、麻莉ちゃんって呼んで』

『いや、今名前呼ぶタイミングじゃないし』

『いいから、ほら早く、ほら、言っちゃえよ。いやらしい声でさ』

『そんな声出せないって、ま、まま、麻莉ちゃん』

『いや、動揺しすぎでしょ。ザコシュート、よわ。ふふふ』

――――


「有間さんも名前呼びしてる……」紫陽花

「これは苗字わからないからで……」俺

「下ネタですよ」紫陽花

下仁田しもにただからね!あたしの苗字。うーんと、ここからはあたしの元彼と電話で話して……、店出るまでは愁斗君と話してないんだよね。ずっとオッサンどもと話してたから……、早送りしちゃうね」


 下ネタさんはスマホを操作して早送りしていく。


――ボイレコ――

『麻莉ぃ、エロ漫画けっこう読むんですけど、種付けプレスっていいですよねぇ〜。あれ何で子宮の断面図付いてるんですかね?発明した人、天才ですよねぇ〜』

『えっ、女の子がエロ漫画見て興奮するの?』東山田

『やられてる女の立場で読んでるので、めっちゃ興奮しますよぉ〜。でもジャンルとかぁ……』

――――


「もう少し先ね」麻莉子


 と下ネタは更にボイレコを進める。

 つか先輩達と盛り上がってると思ってたけど、なんの話してるんだよ!


――ボイレコ――

『えっ?NTRですか?いけますよぉ〜。寝取る男ってだいたいオラオラ系じゃないですか?麻莉ドMだから好きなんですよぉ。「彼氏と俺のどっちがいいか言っみろよ?」とか台詞にドキドキして……』

――――


「うーん、もう少し先か」

「麻莉ちゃん、よくそんな恥ずかしいこと言えるよね……」紫陽花

「ええ、普通だよ。ムラついたオスとエッチな話しするの楽しいよ?」

「普通じゃないと思うが」俺


――ボイレコ――

『麻莉ぃ、男の金玉イライラさせるの好きなんですよぉ。でぇ~怒らせてぇ〜、襲われちゃうーみたいな?基本誘い受けなので』

――――


「早送り」麻莉子


 この子、先輩になんてこと言ってんだ。


――ボイレコ――

『おしりって気持いいんですかねぇ?麻莉BL好きだからぁ〜。なんかですね。いつも『やめろ入れんな』とか『そんなでかいの入らねーって』とか言って突っ込むと、『お゛』とか『んっ』とか気持ちよさそうにするんですよねぇ?なんか男の人は前立腺が気持いいとか、本当なんですかねぇ?』

『いや、わかんねーし』井野

『最初は指でほぐして、あとは慣れかな?』

『し、下谷さん?』

――――


「早送りっと。BLの話で盛り上がったんだけどさ。男の職場だから皆経験してると思ったんですよ。でもそんなことないみたいで」

「有間さんは経験あるんですか?……おしり」紫陽花

「いや、俺も経験ないからね!」


 下谷さんはありそうな口振りだったな。これからは少し距離をおこう。


「昨日って何時まで飲んでたの?」俺

「覚えてないの?確か延長2回して12時まで居酒屋にいたかな。途中何人か帰って最後は7人くらいだった思う」麻莉子



――ボイレコ――

『有間ぁー、一人で帰れるのかぁ?』

『徒歩5分だから、らいじょうぶれすよ~』

『麻莉、愁斗君の家知ってるので送っていきますねぇ~』

『麻莉ちゃんお酒飲んでないの?』

『18歳だからぁ~ジュースしか飲んでませーん』

――――


「この辺からか……。愁斗君、隣の人とずっと飲んでてベロベロに酔っぱらってたんだよ。この後暫く駅前の地面に座ってて」

「てか酒飲まずにあのテンションってヤバいな」俺

「いつもこんな感じですよ」紫陽花

「この辺から記憶が曖昧なんだよな……。隣の巳亦みまたさんが酒豪で同じペースで飲んでたから」

「私のこと呼んでくれれば良かったのに」紫陽花

「もう12時過ぎてたからね」麻莉子


――ボイレコ――

『帰りますよ~。ほら立ってください。立つって言ってもアソコの話じゃないからね。勘違いしないでよね!』

『……砂月さんに会いたい』

『知らないよ。麻莉だって帰らなきゃいけないんだからさ。ほら立って、カッチカチになって!』

――――


「で、この後、この人が立ち上がって、事件が起きるんだけど……」


――ボイレコ――

『おっ、立てそう!頑張れ頑張れ先輩♡』

『気持ち悪、おえっ、ゲロゲロゲロゲロゲロゲロビチャビチャビチャ』

『うわ、きゃ!ふざけんな!…………うわもう最悪、ゲロであたしの服、ビチャビチャのグチュグチュになっちゃったじゃん!ちょっとー、顔にもめっちゃ付いたし、え?ちょ、待って、いや、らめっ、あっ』

『おえぇ、ゲロゲロゲロゲロゲロゲロビチャビチャビチャ』

『あー……頭から掛けられたよ。もう顔射だよ顔射。くっさ、気持ちわるっ!おえ』



『砂月さんに会いたい……』

『はぁー、わかったから……ほら、歩けますか?』

――――


「もしかして俺、かなりぶっかけた?」

「ええ。凄い量でしたよ♡ぶっ殺そうかと思いました」

「だから服、ベランダに干してたのね」

「すまん……。これは俺が悪い」

「そうだよ!責任取ってください♡ まぁ元々、昨日は彼氏とラブホお泊りする予定だったし、愁斗君を家に送って、汚れた服で帰れないからさ。お風呂借りて服と体洗ったわけよ。大変だったんだから、ネバネバした男汁が体中に絡み付いて」

「「…………」」

「えっ、引いてる?引いてるの?こんなに体張ったのに?」


 俺達が話している間もボイレコの再生は続いている。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る