第16話 大好きって10回言えますか?


《有間愁斗―視点》



 あれから俺達はゲーセンのメダルゲームやユーフォーキャッチャーなんかで遊び、18時頃帰宅しようと車へ向かった。

 その途中、砂月さんの友達に合った。よく名前を聞く麻莉ちゃんって子で、キリッっとした砂月さんとは対照的でおっとりフワフワした感じの子だった。麻莉さんは「この人が彼氏か~」とか言ってたから俺の話も聞いてるのだろう。

 砂月さんと麻莉さんは一言二言話して別れた。


 因みにこのショッピングモールは地元民御用達の施設で、俺も日用品や服なんかを買いに来る。砂月さんも親の車やバスでよく来ていたそうだ。



 車を走らせてると砂月さんが、


「この後、有間さんの家に行ってもいいですか?」


「ん?いいけど、19時半には家出ちゃうよ?」


 この後、20時から会社の飲み会に行く。俺が務めている工場はアパートの近くにあって、会場は駅前の居酒屋。砂月さんには昨日洋食屋で今夜飲み会があることは伝えてある。


 うちに来るなら帰りは駅まで歩いて送るか……。

 うちから見て駅の反対側に砂月さんのマンションはある。


「大丈夫です。ギリギリまで一緒にいたいので……迷惑でなければ」


「俺も一緒にいたいから、迷惑じゃないよ」


 もしかして俺が飲み会行くの不安なのかな?スナックとかキャバクラは先輩に誘われても行かないって言ったんだけど……。うちの職場は男ばかりで、飲み会の後は有志を募ってそういう店に行く。

 俺も昔、行ったことはあるが、女の子と話すのが苦手で気楽に一人で飲む方が好きだから行かなくなった。



 アパート前の駐車場に車を停めて。


「あっ、家の鍵開けてみる?」


 この前渡した合鍵を使ってもらいたくて何気なく言ってみた。


「別にいいですよ」


 砂月さんはバックのポケットに手を入れてハッとした。

 それからバックの中を探すが、どうやら鍵が無いようだ。


「家に置いてきたんじゃない?」


「……そんな筈は」


「俺が開けるから大丈夫だよ」



 部屋に入って電気、エアコン、テレビをつけた。


 外はもう暗くて、バックの中が見辛かったのか、ソファーに座ってからも砂月さんはバックの中身を出して鍵を探していた。


「砂月さん、コーヒー飲める?」


「飲めます……、鍵、ないです」


「家は?」


「家ではこのバックから出してないので、絶対ここに入っている筈なんです。……昨日このポケットに定期入れたから駅で出した時に落としたのかな……どうしよう」


「まぁ、失くしても大丈夫だよ」


 俺はキッチンでコーヒー淹れながら返事をした。


「どうしよう……ごめんない」


「全然大丈夫だから気にしないで」


「でも……私ほんとバカだ……。大切にしてたのに……ずっ」


 コーヒーをテーブルに置くと、砂月さんは目に薄っすら涙が浮べ鼻を鳴らした。


「ごめんさい……」


 今にも泣き出しそうだ。まぁ逆の立場なら……、恋人からもらった家の鍵を速攻失くしたら俺だってショックだろうから気持ちは分かる。


 ソファーの隣に座った俺は砂月さんを優しく抱き寄せた。それから彼女の頭を軽くナデナデする。すると砂月さんは俺の胸にストンと頭を落とした。


「大丈夫、大丈夫、何も心配ないよ。気にすることじゃない」


「でも……泥棒とか入ったら」


「んー、鍵で住所特定するのは100パーセント不可能だから心配ないよ」


「有間さん……優しいですね」


 まぁここで泣かれても困るしな。うちの合鍵なんて500円くらいで作れるから大した物じゃない。


「美少女無罪適用でしょ」


「私、美少女じゃないですよ。トイレも我慢できないですし……、鍵無くすし、最悪ですよ」


 抱き寄せられた砂月さんは、俺の胸におでこを当ているから顔は見えない。でも声が暗い様子から落ち込んでいるのが分かる。


 俺は頭を撫でながら。


「俺にとっては些細なことで、全く気にしてない……。つか砂月さん美少女だよ。俺にとってはね……」


「私……可愛いですか?」


「うん。可愛いよ」


「じゃあ、可愛いって10回言ってください」


 いやこれなんの羞恥プレイ?


「可愛い、可愛い、可愛い、可愛い、可愛い、可愛い、可愛い、可愛い、可愛い、可愛い」


「じゃあ……好き…ですか?」


「え……うん、まぁ……大好きかな」


「だ、大好き……、じゃあ大好きって10回……、言えますか?」


 言えるけども!いやだからなんの羞恥プレイっ!?


「大好き、大好き、大好き、大好き、大好き、大好き、大好き、大好き、大好き、大好きだぁー!」


「ぷ、ふふ、ふふふ」


 砂月さんが笑っている。


「では問題です。私のお父さんの名前は何でしょう?」


「え?いや……全然わかりません」


「答えは大輔だいすけです」


 大好きからの大輔!なんと覚えやすい!

 ま、またさこの子、大輔って10回言わせる気なんじゃ!?


「……嬉しいです」


 そんなことはなかった。


「砂月さんは、どうなの?俺のこと好き?」


「…………、ひ、秘密です」


「ず、ずるい」


 そう言うと砂月さんは顔を上げて俺にキスをした。

 つまり大輔ってことか、いや違う違う!大好きってことか!


 唇を放した砂月さんと目が合う。瞳は潤み彼女らしくないトロットロにとろけ切った表情。


 そんな彼女を見て衝動に駆られた俺は無意識に動く。両手を彼女の背中と頭に回し、今度は俺からキスをした。


 強引に舌を突っ込むと、彼女も遠慮気味に舌を絡めてくる……。舌と唾液が絡み合い、鼻を抜ける甘い香りにくらくらする。ヤバい滅茶苦茶興奮する。頭がどうにかなってしまいそうだ。


 暫く濃厚なキスをして顔を放すと、砂月さんの顔はだらしなく崩れ、ズレたタンクトップの胸元に白いブラと胸の谷間が見えた。


 俺は服の上から胸を揉む。


「ん……」


 砂月さんが吐息を漏らし、更にキスをした。

 俺の股間はメラメラバーニングで今にも噴火しそうだ。このまま「俺だけ好きって言わせて、この卑怯者め!お仕置きしてやるうー!」とか言って押し倒せばヤらせてくれそうなのに……、俺の頭には例のアプリが過った。


 万が一、砂月さんの記憶が全て消えてしまった場合。心の傷は消えても体の傷は残ってしまう。そんな酷いこと俺にはできない……。


 俺は砂月さんからゆっくり離れた。


「そろそろ出掛ける時間になっちゃうな」


「え?ああ、そそそそうですね!」


 砂月さんは恥ずかしそうに乱れた服を正す。




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