第4話 スッキリしました




《砂月紫陽花―視点》



 高速を走って暫く経つ。


 急にトイレに行きたくなった。車内はエアコンが効いてて少し肌寒い。話しに夢中になって水を飲みすぎた。


 うー、行きたいと思うと意識してしまう。普段はもっと我慢できるのに、なんでこんな時に……。

 でも絶対に漏らすわけにはいかない。ここで漏らすくらいなら死んだ方がましだ。トイレ行きたいって言わなきゃ。


「あの、と……」

「ん? と?」

「あ、えっと、何でもないです」


 男の人にトイレって言うの恥ずかしいよ!こんなに恥ずかしいとは思わなかった……。それにさっき家に寄って出発遅れたし、ここでトイレに寄ったら更に迷惑かけちゃう。てか、家でしてこいよ?この女ふざけてんの?って思うよね!


 

 あぁ、なんか急に凄く行きたくなってきた。波来てる!

 ヤバいヤバいヤバいヤバい!


 恥ずかしくて言えないなら我慢しないと!



《有間愁斗―視点》


 急に無口になったな。

 けど砂月さん、クールな感じではあるが話し易い。もっと塩対応されると思ったけど……、これもアプリのお陰なのだろうか?そんな効果があるとは書いていなかったが。


 チラッと横を見ると彼女は両手で肩の下、二の腕辺りを抱いている。顔は鬼の形相で進行方向を睨みつけている。


 ん?今ブルってなったな。

 寒いのか?


 いや、違う。たぶんトイレに行きたいんだ。

 俺は運転しながらさりげなくエアコンを切った。

 遠方に高速道路の標識が見え、500m先パーキングと書いてある。


「砂月さん、ちょっと悪いんだけどこの先のパーキングに寄ってもいいかな?」

「えっ!?はい!寄りましょう!」


 反応いいな。わかりやすくて可愛い。




 パーキング駐車場のトイレが近い場所に車を停めた。


「俺コーヒー買ってくるけど、よかったらトイレとか行ってきちゃいなよ」

「えっと、行ってきます」


 彼女は慌てて車から降りた。

 車内に残った俺はスマホでTRLのマップを検索する。

 行ったことないからどんな乗り物があるかわからない。まさかここに行くとは思っていなかったから調べてこなかった。


「結構広いんだな」


 乗り物がたくさんあって何が面白いのか全くわからないぞ。

 次にプレビューやハウツーサイトを探すと色々出てきたので目を通す。


 混雑するアトラクションは先に予約チケットを取るのか……。取り方が良くわからないな。


 夢中になっていると砂月さんが帰ってきた。


「お待たせしました。ふぅ〜、外、暑いですねぇ〜」


 口元が緩い。機嫌が良さそうな顔をしている。スッキリしたのだろう。




《砂月紫陽花―視点》



 私が助手席に座ると有間さんが。


「砂月さん。混む乗り物は先に予約チケットを取った方がいいみたいなんだけど、チケットの取り方知ってる?」

「えっと、はい、知ってますよ。アトラクションの近くに発券機があるので、そこで取ればいいんですよ」

「ああ、なるほど。スマホで予約するのかと思ったよ。砂月さんってTRL行ったことあるの?」

「毎年一回は行ってます。……好きなので」

「あ、好きって言ってたね!じゃぁどのアトラクションが面白いか知ってたりする?」


 そう言いながら隣に座る有間さんがスマホの画面を見せてきた。そこにはTRLの地図が映っている。


「俺さ、初めて行くんだよ。前から行ってみたいとは思ってたんだけど……」

「そうなんですか……、関東に住んでる人は皆行ったことあると思っていました」

「出身東北で就職してこっちに来たから……でももう4年目か……、すみません一緒に行ってくれる相手がいませんでした」


 まぁ普通、男子だけではあまり行かないよね。

 私はスマホ画面を指差す。


「えっと、これと、これと、これと、あとこれも結構人気で並びますね。ルートは右回りとか左回りがあって、初めてならこっちから行った方がいいかな……、予約チケットもルート次第でどれ取るか決めた方がいいですね。うーん、これだと地図が小さくて見辛いです。向こうで大きな地図貰えるのでそれてを見て決めますか?」


「砂月さん凄い!めっちゃ詳しい!今ちょっとかっこよかったよ!」


 瞳を輝かせた有間さんが私を見詰めてくる。私は恥ずかしくて視線をそらした。

 え?いや、そんな誉めることじゃないでしょ?


「ふ、普通ですよ」

「いやいや、詳しくてビビった。取り敢えず現地に行って地図をゲットですね?隊長? 地図って売ってるのかな?」

「……隊長って。地図はパンフレットになっていて無料で貰えますよ」

「なるほど……、ごめん、未経験だから色々聞いちゃうかも」

「全然聞いてください」

「ありがとう。今日は気楽に楽しむよ。じゃ出発するね」

 と彼は微笑んだ。



 車を走らせてから、ふと気付いた。


「あれ?コーヒーは?」

「あっ、買うの忘れた。調べものに夢中になって……」

「飲みたかったんじゃないんですか?」

「ん?ああ、まぁいつでもいいから向こうで買うよ」

「そうですか」


 え?じゃあ、なんでわざわざパーキングに寄ったの?意味わからない。


「あの、もしかして私がトイレにいきたそうにしていたからパーキングに寄ったんですか?」

「えっ!えー、んーんとね。どうだったかなぁー」

「さっきエアコン切ってましたよね?」

「…………す、すみません。嘘付きました。トイレって言い難いのかなぁと思って。ぁははは……」


 この人は嘘つきだ。優しい嘘をつく人。


「有間さんは副隊長をお願いします」

「え?」

「えっと、私が隊長なんですよね?」

「うん。俺、見習い兵以下の知識しかないけど、でも頑張らせてもらいます」


 この人のこと半信半疑だったけど、実はかなり性格良いのかも。




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