第2話 初デートすることになりました



《砂月紫陽花―視点》



【 催 眠 発 動 】



 思わずしっかり見てしまった。

 催眠発動ってなに?私を催眠に掛けるつもりってこと?

 えっと、つまりこの人……、ヤバいヤツじゃん!


 彼は不安そうな顔でこっちを見ていた。


「ど、どうですか?」


 どうですか?と言われても……。え?もしかして、催眠効いてるう?って意味?いや効くわけないないでしょ!

 ルックスは私好みだけど、……この人、ヤバい。


「うーんと、どうでしょうねぇ……えへへへ」


 私は営業スマイルで何となく曖昧に答えてしまった。

 すると彼はスマホをしまった。


「あの、もしよかったらなんですが、俺と遊んでくれませんか?その、彼氏がいるとか、そもそも嫌だったら無理にってわけじゃないんですけど……、ほんとよかったらでいいので」


 これはもしや……、ナンパ??


 でも、いきなり遊びに行くのはどうなの?危ない人だったら私危険じゃない?てか催眠に頼ってる時点で危険だよね。


 黙っていると彼が――。


「ほ、ほんとごめんなさい、突然で。その、もうこの店には来ないので、……忘れてください」


 声は震え、表情は申し訳なさそうだ。

 凄く謙虚っていうか……、無害そうな感じ。


「べ、別に、いいですよ」


「え!まじですか……、じゃぁ明日って予定ありますか?」


 明日ぁ!?明日は早くないですか!?流石に!

 普通、LINE交換して少しやり取りしてから距離を縮めて……。ああ……、何その目、期待してるの?瞳のハイライトがキラキラしてる!

 まぁ明日は土曜で特に予定はないけど!


「予定ないです」


 そんなやり取りをしていると次のお客さんが彼の後ろに並んだ。彼もそれに気付いたようで、焦って口を開く。


「明日10時、駅前で待ち合わせしましょ。あ、支払い!」


「え、あ、はい」


 次のお客さん、おばちゃんが彼と私を交互に見ている。これ以上、話す時間はない。

 彼が再びスマホを出す。モニターにはpaipaiのバーコードが映っていた。私はそれをリーダーで読み込む。


「えっと、ありがとうございました」


 私がそう言うと彼は軽く会釈し振り返る。

 そして急ぎ足で店から出て行った。




 えええええええええええええ!?

 どどどどどどどどどうしよう!?


 それからは色々と考えてしまいバイト中の記憶がない。気付いたら仕事が終わって家にいた。


 友達に催眠アプリのことは伏せてLINEで相談したら「面白そう!結果教えてねw」と言われた。他人事だよなぁ。


 襲われたらどうしよう?でも悪そうな人ではなかった。……雰囲気は。

 うーん。でも、やっぱり二人で遊ぶのは危険かもしれないし、もう少し仲良くなってから……。

 って私、彼の連絡先知らないんだよね!どうすんのよこれ!?





《有間愁斗―視点》


 食事を終えた俺はベットに転がり催眠アプリを開く。


 成功した。いや、成功したのか?遊びに誘うことは成功したが、催眠アプリの効果はあったのだろうか?

 俺はスマホのアプリ画面を見詰める。

 普通こんなの見せられて遊びに誘われれば、頭おかしいヤツだと思う。遊びなんて断るよな。俺ならそうする。てことは一定の効果があった可能性がある。


 説明文にも「相手の人格を変えることはできないが、相手はアプリ使用者の命令に従う」みたいなことが書いてあった。


 まぁ、明日待ち合わせ場所に来ない可能性もあるよな。断れなくてOKしちゃった、みたいな。

 もし来なかったらアプリは出鱈目だと証明できる。そして俺は、今後二度とあの店に行くのはやめよう。


「あ!」


 明日どこに行くか考えてなかったぞ。

 このアプリが本物で彼女が来てしまった場合……、ラブホ?

 いやいや待て。催眠かけて無理矢理犯すとか良心痛むし普通に犯罪。それに俺はそうことがしたくて彼女に声を掛けたわけではない。

 性的なことではなくて……、なんと表現したら良いのだろか……。

 俺は……寂しかったのかもしれない。



 明日は普通に遊ぼう。

 ドライブ、映画、外は暑いから水族館なんてのもいいな。

 あ、そう言えば去年会社のイベントで当たった、あのテーマパークのペアチケットもあったな。

 明日もし彼女が来たら色々提案して、相手が望む場所に行こう。あの子がつまらなそうにしていたら、一緒にいる俺もつまらない。


 それから俺はネットで色々なデートスポットやそこまでのルートなんかを調べた。





――――――――


 翌朝


《砂月紫陽花―視点》



 うあああああああああああ!

 きききききき来ちゃったよ!

 何故来ちゃった私っ!?


 しかも、朝6時に起きて……気合い入れて準備して……。何やってんのよ私……。だって!男の人と二人で出掛けるの初めてだし……。いやそういうことじゃないでしょ!じゃあどういうことなのよ!?

 

 少し早く着いた私は駅前ロータリーの隅に立ちスマホを見ているが――。

 足は震え、顔は引きつっている。滅茶苦茶緊張している。スマホを見ているけど色んな感情で頭が爆発しそうで何を見ているか分からない。


 ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!

 あと5分で時間だ!そろそろあの人来るよ!


 取り敢えず、アイツが変なこと言い出したら全力で逃げよう!

 そう決心した時、横から声が聞こえた。


「ご、ごめん、待たせたね」


 顔を上げると彼の姿が視界に入る。キレイ目なコーデで大人っぽいファッションだ。お店に来る時はいつも作業着だから新鮮、というか私服結構似合っている。


「わ、私も今来ました」


「そっか、ならよかった」


 と彼は恥ずかしそうに微笑む。

 ふ、普通の人だ、普通の好青年、笑うと普通よりちょっとイケメン?見た目も雰囲気も悪くないよね……。大丈夫よね?


「それで、今日の行き先なんだけど……」


 そうそう!それよお兄さん!

 ま、まさかラブホ……とは言わないよねぇ?私そういうの絶対に無理だから!あやしい所に連れて行こうとしたら全力で走って逃げるから!


 彼はバックから取り出したコピー用紙を開いて私に見せてきた。

 そこにはいくつかのデートプランが書かれていて、ドライブなら行先の観光スポット、映画なら今上映している作品のタイトル等、事細かに書いてある。

 今日は車で出掛けるのかな?


「あの、これは?」


「ど、どうせなら楽しんで欲しくて色々調べたから、君の反応を見て行先決めようかなって、ははは……」


 几帳面か!真面目だなぁ。


「私は別にどこでもいいですよ」

 コピー用紙を見ながら素っ気ない返事をする。


「そっか」


 コピー用紙の一番下にTRL《トウキョウラットランド》って書いてあった。

 私の大好きなテーマパークだ。去年は忙しくて行けなかったら今年は絶対に行きたいって思ってた。

 チケットがないと入れないし、それに結構高いから金欠の私にはハードルが高い。


「TRL《トウキョウラットランド》って予約チケットないと入れませんよね?」

「ん?そうだね。去年会社のイベントでペアチケットを貰ったんだけど、行く人がいなくて……、今月で期限が切れちゃうから持ってきたんだよ」

 と言いながら彼はチケットを取り出した。


 そのチケット……

「……欲しい」


 無意識に呟いてしまった。

 彼が私を見る。うう、恥ずかしい。


「よかったらあげるよ」

 と笑顔で言われた。


「え、でも……」


 くれるの?神なの?ペアチケットなら友達かお母さんと……。


「そ、それは流石に悪いので……、私TRL好きなですよ」

「じゃあ今日ここに行こうか?」


 ふえええええ!?名前も知らない人なのに、普通一緒にTRL行く!?、どどどうしよう、どうしよう……。でも変な人じゃなさそうだし……、TRLは凄く行きたい!


「べ、別にいいですけど……あのっ!彼女っていますか?」

「彼女は今までいたことないです。女性経験少ないから、あまり面白いことは言えないと思いう……ははは」

 彼は眉を顰めバツが悪そうに苦笑した。

 いや別に面白いことは言わなくていいけどね。


「いないなら、いいんですけど……」

「暑いのは大丈夫?俺は暑さに強いから問題ないけど」

「私も部活やってたので大丈夫です」

「おっけー」

 と彼は微笑む。


「じゃ俺の車あれだから行こっか」


 彼が指差す先には青いコンパクトカーが停まっていた。車も普通だ。


「あの、出来れば家に寄ってもいいですか?」

「ん?大丈夫だよ。車で送ろうか?」

「えっと……はい」


 家の場所知られて大丈夫かな?まぁマンションだし問題ないか……。



 彼について行って車の助手席に乗ると車内は綺麗で清潔感があった。


「家ってどこなの?」

「あの、バイト先のスーパーの近くのミニストップ横のマンションです」

「ああ、すぐ近くだね。わかった」


 これからTRLに行くのよね。


「TRL、何時くらいに着きますか?」

「多少混んでても11時には着くかな」

「そうですか……」


 11時かぁ、けっこう遊べるなぁ。

 ヒールじゃ辛いからスニーカーに履き替えて、あと他にも色々持っていこう。この人が変な人だったらと思うと不安はあるけど……。




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