再会(4)

「私は決して不幸ではありません。この地で生きていっていいのだと、私が一番欲しかった許しを、安心感を与えてくれたのはエイナードです」


 言い切った私とケースを、エイナードが交互に見てくる。

 それから彼は「あなたがそこまで仰るのなら」と、ようやく強張っていた表情を緩めた。

 次いで、「そういえば」と彼が今度は難しい顔になる。


「ユマ様。私が言うのもおかしいのですが、何故あのとき、私の話を信じて下さったのでしょう? 今思えば、どう考えても自分は不審者だったのですが……」


 そこに来て、彼が至極真面目な口調で言うものだから、私はうっかり笑いそうになってしまった。

 けれど彼のその疑問に関しては、ちゃんとした理由がある。もっとも、その時点では直感に従っていたので、後付けの理由にはなるが。


「悪い人なら、あんな寧ろ助けが必要そうな人に『助けて欲しい』とは言いません。甘い言葉で釣ろうとします。だから逆にあなたは安全そうだと判断しました」


 ケースを胸に抱え直してそう答えれば、エイナードがぽかんとして私を見てくる。

 そして彼の頬に、みるみるうちに赤みが差した。


「それは……そうとも言えますね……」


 決まり悪そうに小声で言ったエイナードが、咳払いする。


「言われて初めて気が付きました。確かにあの状況は、どう考えても助けが必要なのはユマ様の方でした。それなのに私はどうにかあなたを陛下の元へ連れて行こうと、こちらの事情ばかりを述べてしまって……。私がユマ様なら、私には絶対に付いて行きません」


 エイナードが本気で自分に駄目出ししたのがわかって、私は今度こそ笑いが零れてしまった。


「きっと私でなくとも、エイナードの陛下を思う気持ちにほだされて付いていったと思いますよ」

「それが聖女たる所以ゆえんなら、伝説と呼ばれるくらい聖女が現れないことにも納得が行きます」

「あら」


 お互いに笑って、やはりお互いに私たちは少し温くなった紅茶を飲んだ。

 エイナードが先にカップをソーサーに戻して、やや遅れて私がそうする。

 それから私は、膝の上に置いていたケースをまた手に取った。


「それではそろそろ、エイナードのリクエストを聞かせていただけますか?」


 そして私はケースを開けながら、彼に最初に希望する『奇跡』を尋ねた。

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