第3話 伊藤真尋という女
俺と真尋は趣味嗜好が似通っているだとか、同じ目標があったりだとか、特段何かがあった訳でもなく、ただ家が近いからという理由で幼い頃から良くお互いの家を行き来しては遊ぶような仲だった。
真尋はどちらかというと外で遊ぶのが好きな活発なタイプであり、一方で俺は家で遊ぶ方が好きなインドア派。一見真逆に見える俺達がそれでも仲良くやってこれたのは、
そんな関係性を続けてきた俺達は、中学も後半から高校生活へと突入する中で、互いの間にある空気感が徐々に変わりつつあることを感じ取っていた。しかしそんな関係性も、ある事を切っ掛けにして全てが壊れてしまった。
高校生活一年目の夏休み前、真尋といつも通りだらだらと帰宅し家で駄弁っていた時の事。珍しく真尋から相談があると切り出された俺は二つ返事で相談を受けてしまった。
この頃になるとデリケートな質問が増えた為か、俺よりも同性の友達と良く話しているのを知っていた俺は、友達関係か何かで悩んでいるのだろうと高をくくっていた。
「私この前告白されちゃってさ、三年の
「告白!?真尋が...?てか三年の先輩って、絡み無いだろ」
「うん、まあ普通はそうなんだけど、私陸上部じゃん?それで卓先輩はサッカー部なんだけど、練習してる私を見て一目惚れしたんだって」
「そ、そうなんだ...それで?何て言ったんだ?」
「まだ何も、ちょっといきなりすぎて分からないから考えさせて下さいって。でも先輩すっごい人気があってさ?確かに部活中の姿とか見てたらカッコいいなーって思う」
そこから先の会話は曖昧にしか覚えていない。たかだか出会って数週間も無い相手を褒め、まるで告白を受ける後押しを望んでいるかのような真尋の言葉は俺の中に嫉妬と怒りだけを生まれさせた。年頃の男が持つであろうありったけの感情を内で爆発させた俺は、イライラが募り投げやりな言葉を吐き捨てた。
「真尋が先輩の事好きなら付き合っちゃえよ」
「...っ!..そう...そっか、わかった。変な相談してごめんね!私昨日寝不足だったからそろそろ帰るね!」
夏休みまで後一週間を切っていたこの日以降、真尋と校内はおろかお互いの部屋で話す時間も無くなった。結局、真尋がその先輩と付き合っていると知ったのは、夏休み中にクラス内LIN◯に送られてきた真尋と先輩らしき男、それと複数の陽キャクラスメイトが写った海での写真を見たのが切っ掛けだった。
彼女が写真の中で見せた屈託のないその笑顔は、一緒の高校に通えるね。と満面の笑みを浮かべていた瞬間を思い出させた。
夏休みが終わり、登校日も過ぎて暫くの頃。真尋は今までの雰囲気から一変し学内で付き合う人間もキラキラとした、所謂リア充グループと会話している事が多かった。たまたますれ違っても互いに挨拶もしない、出来ない。そんな関係が暫く続いた時、一つの事件が起きた。
週末であるその日の放課後、週明けに提出しなくてはいけないプリントを忘れた俺は面倒に思いながらも一度教室へと引き返していた。しかしプリントが見当たらない。そもそも忘れないようにと鞄へ直行させていたのだがどこへ行ったのかと探す事数分、5限の体育の際鞄ごと更衣室へ持っていった事を思い出した俺は、すぐに確認しに更衣室へと向かった。ここに無ければ教師へ頭を下げようと考えつつ、扉を開け放った俺の目には予想だにしていなかった何かが映りこんできた。
「へっ?大地...?なんで......?」
余りの事態に一瞬で脳がオーバーヒートした俺は、思考が一回転して『こういう事って本当にあるのか』等とくだらない事を考えつつも、体はその場から一ミリでさえも動かせなかった。
「おい、お前何じろじろ見て...」
「いやああああぁぁぁ!!!」
先輩が何かを言おうとしていたがその声は真尋の悲鳴に搔き消され、金縛りが解けた様にハッとした俺はいつの間にか自室のベッドに倒れこんでいた。
そんな事件があってから1ヵ月後の事、クラス内で交わされていた話から真尋と先輩の破局を知る事になる。何故か真尋はその頃から俺と会う度に挨拶を交わし、時々家に押しかけてきては以前の様にだらだら過ごしたりする。
俺は俺で真尋の行動の理由が全く分からず、冷めた態度で接しているうちに校内ではまたしても真尋の噂がまことしやか囁かれていた。
曰く、伊藤真尋は頼めばすぐヤれる尻軽女だと...。この噂が広まった直後、俺は嫌でもそれが真実だったとされる光景を何度も見せられたのだが、それは割愛させてもらおう。
兎にも角にも、今俺の真横に居る女と俺はどうしようもなく腐れ縁でありコイツはどうしようもない〇ッチなのだ。
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