第2話 悪夢

 突然だが皆は物語のジャンルの一つとして寝取られ《NTR》、僕が最初に好きだったのに《BSS》、というものがあるのを御存知だろうか?前者は書いて字の如く自身のパートナーが第三者に奪われるというものである。

 

 BSSに関してもこれまた字面の通りで、違うのはヒロインとされる異性とどういう関係にあったか、という点だ。後者はとりわけ「これ、両思いだよな?」と思っていた異性と他者との痴態を見せつけられてしまうという展開が多い。

 

 誤解を恐れずに言うと俺はどちらのジャンルも死ぬほど嫌いである。なんかエロいというのは理解できるし、不意にそういった展開が来ると心臓がバクバクと鳴りだすのに先が気になり結局見てしまう。悔しいがここは共感出来る。

 

 しかし俺が何よりも許せないのは、このジャンルの主人公は99.9%と言っても良いほど碌すっぽ戦いもせず、ヒロインが奪われていく様を只見ているだけというパターンが多い。単なるフィクションだと言われればそれまでだが...せめて何かしら抵抗はしろよと思ってしまう俺はおかしいのだろうか。


「はぁ...はぁ...!」


 またしても突然だが俺の高校生活3年間の内、1年の終わり辺りから卒業迄のあだ名は『NTR君』である。何故俺がいきなり激しめに語りだしたのかもこのあだ名を聞けばある程度は察して貰えるだろう。


「兄さん、朝ごはん作っておいたので冷める前に...うなされていたのですか?」


「へ?あ、いや、ちょっと足をっただけだ」


「そうですか。朝ごはん、冷める前に食べてくれると嬉しいです」


「ああ、ありがたく貰うよ。もうちょっとしたら降りる」


 妹の牡丹ぼたん...女子高生。元々控えめな性格で大人しい性格だったのだが、俺がこっちに帰って来てから少し様子がおかしい。


「ああそれと...。昨日の夜ですけど、どちらへ?まだ、あの品性の欠片も無い金の雌豚と関わっておられるのですか?」


 金の雌豚とは他でもないアイラの事である。元々真逆のタイプである為かあまり仲良くは無かったが、帰って来てからはとうとう雌豚と呼び出した。


「振られたって前にも言っただろ?友達と駄弁ってただけだって」


「へぇ...、まぁいいです。でも、あまり私に嘘を吐かないで下さいね?」


 妹は不穏なセリフを放ってからリビングへ戻っていった。まるで俺の嘘なんて簡単に見抜けるぞ、とでも言いたげな態度である。

 

 数分してからリビングで朝食を食べた俺は、軽くシャワーを浴びてから大学へ行く為の支度をする。

 

 大学へは幾つか電車を乗り継いで大体40分程である。しかし異世界で死ぬほど魔法を仕込まれた俺にはその程度の距離等無いに等しいので、大学近くの手頃な路地裏へ『転移』。試したことは無いけどその気になれば世界中どこへでも行けると思う。

 

 路地を抜けた俺はまっすぐ大学へは行かず、近くのド〇ールで時間を潰す事にした。アイスココアを注文してテラス席で寛いでると隣の席に一組の男女が座ってきた。


「なあ、俺やっぱ真尋まひろと付き合いたいんだけど、どうしてもダメ?お試しでもいいからさ」


「ダメ。遊びに行ったり、エッチするのは好きだから良いけど、あきらと付き合うとかは考えられないかな」


 真尋...聞き覚えのある名前とその声に、今朝見た悪夢がフラッシュバックされ鼓動が早くなる。


「何だよそれー、てか真尋今何人の男と遊んでんの?イブとか年末年始は俺に空けといて欲しいんだけど」


「ごめんね。イブはもう先約が入ってるけど年末なら空いてたかなー」


 スポーティで少々露出の多い服装に男好きしそうなスタイルをしたこの女。学内でも男をとっかえひっかえするビッチとして有名なのだが、他でもないこの女こそ俺が『NTR君』と呼ばれる事になったである。

 

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