第44話 二人目の娘
第44話
「クソアマエルフ!?誰に向かってそんな事を言っているんだい、君!!!」
あ、やべ………
「す、すまん、つい何時も思ってる事が口から滑ってしまって………」
「それは謝ってないのと同じじゃないか!一体、私の母上様の何処が………えっ、クソアマエルフ?」
おや?
急に怒りが冷えてきて………
「ちょ、ちょっと、待ってくれよ………」
「お、おう………」
「も、もしかして、こ、こんな指輪を持っていないかい?」
何故か急に慌てた様にマジックバックを漁るユン。
そして、震えた手で取り出した指輪を見せてくる。
おお、この指輪は………
「おう、有るぞ。えっと………コレだろ?」
俺も自分のマジックバックを漁り、彼女が見せてきた指輪と同じ物を差し出す。
いやぁ、懐かしいな………
「────ほ、本物だ。」
今度は何か固まり始めたな、ユン………
大丈夫か、コイツ?
「こ、この指輪はどんな物か
「そりゃ身を持って知ってるしな。GPSみたいな物だろ?」
「────へ?」
いやぁ、懐かしいな…
初めて出会ってから一ヶ月位経った頃に、いきなりプレゼントされたんだよな………
で、喜んだのも束の間、直ぐにどんなに離れても君を見つけられる道具だとか言われた時の気持ちよ………
しかも、「君は僕のモルモットさ。絶対に逃さないよ、勇者君。」とまで言いやがったからな、あのクソアマエルフ。
胸なんか永遠の0の癖に、胸を張ってたのは少し滑稽だったが………
アレのせいで、1人で何処かに行きたい時も邪魔されまくったからな………
騙されて娼館に連れて行かされそうになった時は、逆に助かったけどさ………
「ちょ、ちょっと、その指輪を着けてくれるかい?」
「ん?まぁ、良いけど………」
コレを着けるのは久し振りだな………
異世界から帰って来て、着ける理由も止める相手も居なくなったからな………
確か、薬指に着けて………
「ほら、着けたぞ?」
「じゃ、じゃあ、私の手を着けた手で握ってくれる?」
「良いけど………」
「ありがとう。でも、もうちょっと指を絡めてくれると………」
「こうか?」
何か恋人繋ぎみたいだな………
しかし、コレになんの意味が………
「ん?何か光ったな………」
「母上様が言ってた通りだ………」
あのクソアマエルフが何か言ってたのか?
そういや、昔光るとか言ってた様な………
確か、個人の判別が出来る様になるとか、コレを全員が使える様になればとかだったか?
「────浦島君、いえ浦島様。」
何かを確信した様に、彼女は真剣な顔を見せる。
そして、遂に核心的な事を口に出す。
「貴方はもしかして、勇者様なのですか?」
「────ああ、そうだ。」
真っ直ぐに彼女を見て、俺はそうちゃんと答える。
やはり、彼女は俺と────
「────会いたかった。」
「ユン………」
「会いたかったです、父上様!!」
「グハッ────」
泣き出したユンが、俺に思いっきり抱きついてくる。
そのせいで派手にぶっ飛んでダメージを受けたが、これ位なら些事なダメージだ。
「ああ、俺も会いたかった。俺に娘が居るのを知ったのは最近だが、お前達には会えないと思ってたから………」
異世界に戻る術は無かったし、戻るつもりも無かった。
故に、アリスから色々と仲間がやらかしてたのを知った時、それを後悔した。
アイツ等がやった事が身勝手な物だとしても、俺は父親になったのだ。
家族を支え、見守る義務があった筈なのだ。
それを出来ない上に、こんなに育つまで放置したのだ。
俺は父親失格としか言い様が無い。
キツいな、色々と………
「私達はこの世界に500年もかけて、勇者様の世界に安定した状態で移動できる様に頑張ってたの。」
アイツ、そんな事を………
「でも、完成する前に私達の世界の一部と勇者様の世界が現実世界でいう60年前に繋がっちゃう謎の事件が起きて………」
もしかして、それでダンジョンが現実世界に発生したのか?
「怪我の功名だって私達はこの世界の人達と交流を始めたけど、父上様の影も形もなくて私達は絶望したわ………」
「それはまぁ、そうだろうな…」
俺が帰って来たのは、10年前の話だ。
時間のズレは確かに酷かったが、此処にまで弊害が出てたのか………
「アリス様は直ぐに見つけたけど、母上様は父上様を見つけてから再会したかったらしくて、結局会えないままでしたし………」
「アリスの事はちゃんと知ってたのか。ん?なら、父親云々はどういう………」
「普通に娘の事を思って再婚的な話だと思ってました………」
「まぁ、そういう受け取り方も出来るか。」
普通に考えたら、有り得ん状態だもんな。
まだJSだった子を孕ませるなんて、とんだ鬼畜野郎の所業やし………
「それで、母上様も寿命で10年前に死んじゃったの。父上様に会う事も出来ずに、死んじゃったの………」
「────すまない。」
恐らく、入れ違いになってしまったのだろう。
────俺には謝る事しか出来なかった。
死んだ存在には、どんな言葉も届かないのだから………
「会いたかった、会いたかったよ、父親様!母上様と一緒に、会いたかったよ………」
今の俺は、彼女の慟哭に耳を傾ける事しか出来なかった。
────何が勇者だ。
俺は、身内の悲しみすら、晴らす事が出来ないクソ野郎だと………
────嫌な程、思い知らされた。
続く
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