第16話 最強と最弱

第16話


浦島side


「おう、その為に来たんだからな。」


さて、どんな奴等が溢れてくるのやら。


まぁ、中層の超雑魚共と下層の奴等が少し程度だろうな………


「────来たか。」


俺の眼前に少しずつモンスターが溢れ出してくる。


遠くからは奴等が迫る騒音も聞こえてきた。


『月ちゃんが折角配信してるんだ。派手なのを期待してるよ、浦島君。』

「頑張ってください、浦島さん!」

「おう、やってみるわ。」


全く、無茶な注文をする。


あの雑魚共に派手な演出なんて難しいと思うんだけどなぁ………


まぁ、頼まれたんだ………


精一杯、やれるだけやってみるとするか!!


「────〘3重火力トリプル・ファイア〙。」


身体強化魔法を拳一点に浸透させ、狙いを定める。


避ける事すら出来ない相手に打つのは久し振りだが、折角の異常発生スタンピードだ。


多分、ケチを付ける奴は居ないだろう。


「来るなら来いよ、モンスター共。但し、気を付けろ?此処から先は、俺の独壇場セカイだ!!」


死にもの狂いで、全ての生き物を蹂躙するかの様な勢いで、モンスター共はやって来る。


そうだ、早く近付いて来い!!


「────全てを貫け、不死鳥の一突きフェニックス・スピア!!」


☆☆☆☆☆


月side


「大丈夫でしょうか………」

『浦島君がかい?』

「はい………」


ああ言ってしまっちゃったけど、やっぱり少し心配だ。


浦島さんはかなり強いけど、100匹から1000匹位のモンスターが迫るのが異常発生スタンピードだ。


正直、ちゃんと無事で住むのだろうか?


『そこら辺は大丈夫だよ、月ちゃん。下層や深層で起きたのなら兎も角、こんな所で怪我をする様な奴じゃない。それは何度か倒された僕が身を持って知ってるからね。』

「えっ、何度も倒されてるんです?」

『僕は不死属性を持っててね。勿論、一度死ねば当分の間は無力化されるけど。』


不死属性のモンスターなんて、図鑑以外で初めて見たなぁ………


曾祖母ちゃんは、「殺し続ければ死ぬから、何処が不死身なんだろうね?」とか言ってた気がするけど………


『怖っ………おっと、話が逸れたね。まぁ、心配は無用だよ。それよりも………」

「それよりも?」


人間ジンカンさんは浦島さんを見ながら少し嬉しそうに、それでいて悲しそうな顔でこう告げた。


『これから映る光景は、君達に革新を起こす物になると思うよ。』

「革新?」

『ああ。月ちゃん、此処の深層最高到達地点は何層目だい?』

「えっと、確か5階層目です。」

『成る程、30年前と変わってないみたいだね。』

「それがどうかしたのですか?」


私がそう聞くと、彼女は少し悪い顔をしながら答えてくれた。


『少しネタバレをするけど、此処の深層は第20階層まである。』

「え?」

『そして、彼はその第20階層までたった1人で辿り着き、勝利した男だ。』

「ええ?」


じょ、情報量が多過ぎますよ!?


そ、それが本当なら………本当だったら!!??


「人類初の深層踏破者って事ですか!?浦島さんが!!??」

『そうなるね。』

「す、凄い………」


もう、そんな言葉しか出てこない。


他にどんな言葉で彼を表せば良いのだろう?


『さぁ、視聴者達もぜひ見届けたまえ!アレが僕達深層モンスターさえも超えた、最強の男の力の一片だ!!』


その宣言が響いた瞬間、何百匹ものモンスターの軍勢が浦島さんへ迫り始める。


だが、浦島さんはちょっとした身体強化魔法をかけて構えたまま、停止している。


浦島さんは一体、何を………


「────全てを貫け、不死鳥の一突きフェニックス・スピア!!」


────爆発が起きた。


そう錯覚する程の爆音と衝撃波が私達目掛けて飛んでくる。


人間ジンカンさんやカラスさん達が居なければ、私達も消し飛んでたかもしれない。


そう直感してしまう程の、凄いパンチだった。


こんな威力のパンチ、最早パンチと呼んで良いのかも疑っちゃうけどね………


『どうだい、凄いだろう?』

「はい、想像以上でした。」


あれだけ居た筈のモンスター達は全て消え去っていた。


もう、気配すら感じない。


本当に全部倒しちゃったんだ、あの一撃だけで………


『彼はアレを弱パンチ程度の感覚で打ってくるんだよ、ボスモンスター相手には。酷くない?』

「ちょっと同情しちゃいます………」


私ならクソゲーって叫んじゃうよ………


『────なら、もっと衝撃的なネタバレをしてあげよう。』

「ま、まだあるんですか!?」


もうお腹一杯ですよ、私!?


『日本にある深層持ちのダンジョンが八つなのは知ってるよね?』

「はい、基本知識です。」

『………言われてるぞ、浦島君。おっと、また話が逸れた。で、その中で僕達が住む新宿ダンジョンはね………だ。』

「────はい?」

『第20階層が他の深層持ちダンジョンと比べて一番浅くて、出てくるモンスターも一番弱いんだよね、酷くない?』


私は完全に絶句してしまった………


もう何も考えられない。


脳のキャパシティを完全にオーバーしちゃったよ、もう………


『さぁ、人類諸君。ギリギリまで頑張って、ギリギリまで踏ん張って、僕達のステージへと辿り着いてみせたまえ。僕達は座して深層で君達を待ち続けるよ。』


続く

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