この世界は階層型にできている

ツカサレイ

第1話 鏡のワタシ

 かがみにうつるのはいつも自分の汚い部分。縁の世界は色を帯び、様々な風景を見せる。自分の映る像は真っ黒。きたないところばかり。

 他をけなして、じぶんを良く見せたい自分。

 誰よりも徳があるふりをして、実は陰で誰かを操作しようとしている道化師としての自分。

 母親を幼くしてなくして、実際はそうではないのにかわいそうな悲劇の少女を演じている自分。

 そして、だれよりも男の子にもてて、コマっちゃいます★とか、こんなこと、あんなことしてヤることやっちゃってますアピールをしている自分。

 ほんとにこんな自分をみていると腹の奥底から何かが込みあがってくるほどの不快感を感じる。いっそなにもかも、汚いところもきれいなところもすべてを吐き出して、一度中身をカラにしてしまいたい。

 そうしたら今度はキレイないいところだけを食べて生きていく。

 こんな叶いもしない神話を思い描いて今日も私は横になる。


「ふふっ…面白いのね、あなた。変われるのなら変わってみなさい。私は応援してるよ⁇」

 

 鏡面の自分がそう言った。やはり真っ黒な姿で。


―私の名前は知らなくたっていい。仲良くなっていったら自然とわかると思うよ。

 

 この人はほんとに私のことを幸せにしてくれるのかな


―LINE?もう少し仲良くなってからでもいいですか(^_-)-☆


 きっといろんな人にそう言ってるんだろうな。わたしだけにしてほしい


―こんにちは!仲良くしてください!


 見えない人とどうやって仲良くすればいいの?

 液晶パネルにふっと現れる文字の羅列は嘘ばかりをついて、まるで詐欺師。最近の巷では統一教会がうんぬかんぬ話にあがっているけれども、韓鶴子と同じぐらいやってることはひどいと思う。

 言葉には魂が宿るって聞いた。この国では言葉には言霊ってのが宿っていて嘘をついたり、余計なことを言っちゃったら、自分に祟りがくるっていう。

 でももし本当にあるとしたら私の方が誰よりも先に祟り殺されちゃっているかも。それぐらい私は悪いヤツってこと。

 これぐらいでいいかな?自分を卑下するのは。

 私はもう決めたの。絶対に二度と、人を不幸にするような作品は書かないって。

 ありもしない悲劇を作り出して誰かをその悲劇の世界に連れ込む。連れ込まれた人は悲劇に頬を濡らすかもしれない。馬鹿なものはさらにおいおいと泣いて、「ああ、なんて悲しい世界なんだ」と言って心に深い熱を宿すだろう。

 でもそれは本当に幸せに近づいたと言えるの?

 実際にあったノンフィクションのお話なら耳を傾けても全く差支えはないと思う。だって人類史は誤りの連続だから。間違えのないようにしなくちゃだめ。

 でもありもしないフィクションのくだらない悲劇のお伽に心を奪われて、あたかも自分は感情があるのかのように感じるなんてずいぶんと浅はかな人なんだろうな。

 そして涙を…

「おーい雪乃?なんか暗い顔してるけど大丈夫?」

「えっ…」

 

 気が付けばもう窓から夕陽が差し込んでいた。橙色の証明が当たる教室にはもう誰もいなかった。この男の子を除いて。


「うん、大丈夫。別にあなたが心配するほどのことでもないよ」


 画面がついた携帯を後ろめたい気持ちと共にさりげにポケットにしまい込む。

 丸い時計はもう逢魔が時を示していた。

私はまだこの男の子の名前を知らない。いつからだっただろう。あまり友達のいなかった自分にたまに話しかけてくるようになって、気が付けば私の日常の一部分みたいになっていた。

 ここにも話しかけられたいと心のどこかで思っている欲張りな自分がいる。自分からは勇気を出さないくせして、相手の勇気だけをむさぼって、ポイッて捨てる。なんてヒドイヤツ。


「ここにいたって暇でしょ?帰ろっか」


 この男の子は少しだけ優しい人。空気のような子で私には害がないから近くにおいてるだけだから。

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