第193話 黒騎士6


 聖王都、西区。かつて、“聖王国の剣”と呼ばれた騎士の名家の屋敷であり、今は多くの観光客が訪れるアークライト記念館前。私はロイド先輩、ジス先輩と共に聖王都に侵入した黒騎士を追跡し、ここにやって来た。


 ……まさか、記念館の前に黒騎士だけではなく、ライリーや留学生の皆さんが居るとは思わなかったけど。ライリーと留学生達を下がらせ、私達は黒騎士を包囲した。


 ロイド先輩が、黒騎士に問う。一体、何が目的なのか。


 墓荒らし事件の首謀者である深淵教団と共に行動をしていたにも関わらず、教団を裏切って聖王都にやって来た目的。それに対し、黒騎士は答えは――。


「記憶を、探しているのだ。私には、過去の記憶が無い」


 耳を疑うような返答だった。記憶が無い、ですって?


 この黒騎士、自分自身が何処の誰か分からないって言うの? もし、それが事実なら深淵教団側の人間ではない可能性もある。


 黒騎士は、アークライト記念館に懐かしさを感じると言う。ここを調べれば、何かを思い出せるかもしれないと。


 アークライト記念館が懐かしいって、どういう意味かしら? 以前にも、アークライト記念を訪れた事があると?


 ロイド先輩は、彼がアークライト記念館に入る事を許可しなかった。どんな理由があれ、聖王国の騎士と兵士に危害を加えた人間を放置出来ないと。


 やれやれ、ロイド先輩ってば激情家なんだから。振り回されるこっちの身にもなって欲しいもんだわぁ。


 ま、目の前に居る黒騎士は見るからに怪しさ全開だもんね。悪いけど、これも守護騎士としての務め――拘束させてもらうわ。


 私達は魔法剣を発動させる。黒騎士は微動だにしない。


 頬を汗が伝う。魔法剣の柄を握る私の手は震えていた……目の前の得体の知れない相手から感じる威圧感に押されている。


 ロイド先輩、ジス先輩に目を配る。ふたりは険しい顔つきだったけど、頬に汗が伝うのを見逃さなかった。


 新米の私よりも、多くの修羅場を潜り抜けてきた先輩達のこんな姿を見るのは初めてだ。これはヤバイわね、腹を括るしかないわ。


 ロイド先輩がアイコンタクトを送る。頷く私とジス先輩。


 正面からロイド先輩が、左からジス先輩、右から私が黒騎士目掛けて魔法剣を繰り出す。各々の魔法剣の刃が黒騎士に届く直前、凄まじい魔力が黒騎士の身体から発せられた。


 魔力は放電に変わり、私達に襲い掛かる。先輩達は跳躍して躱したけど、私は思い切り受けてしまい、地面を転がった。


 倒れる私の傍にライリーが駆け寄って、支えてくれた。ありがたいんだけど、カッコ悪いところを後輩に見られて恥ずかしい。


 今日は魔導車の揺れで酔った影響で嘔吐もしたし、散々な一日だわ( ;´Д`)


「ルディア先輩、大丈夫ですか?」


「ん、何とかね。だけど、まだ身体が痺れて手に力が入らないわ……」


 魔法剣の柄を握ろうとするも、指が痺れて思うように握れない。さっきの放電の影響みたいね。 


 ライリーに支えられながら、視線を先輩達と黒騎士に向ける。ロイド先輩とジス先輩の魔法剣が、黒騎士の鎧と衝突する。


 だけど、鎧はビクともしない。ほんの僅かな切り傷しか付かない。


 あの黒騎士が身に纏う鎧、何て耐久性なの。フリッツ先輩の話では、あの鎧には防御特化の武装強化術と増幅術が付与されているという。


 だけど、魔法剣でも少しずつしか傷付かないなんて。とんでもない強度だわ。


 あつつ……まだ痺れてる。指先の感覚が全然戻らない。


 情けないわね、まともな援護も出来ないなんて。こんな無様な姿、天国に居るお父さんと兄さんに見せられないわ。


「おい、愚妹。私は死んでない、王立学園でロゼ御嬢様の護衛中だ(#^ω^)」


 ……今、兄さんの声が聞こえたような(・ω・ = ・ω・)? うん、幻聴ね!


 守護騎士上位の先輩達も、あの黒騎士の強固な鎧を前に攻めあぐねている。どうにかしないといけないと思った時、急に身体がぐらついた。


 あ、あれ? 私を支えていた筈のライリーが立ち上がって……ちょ、ま、待って、何をする気なのこの子!?


 ライリーは緊張した面持ちで、腰のホルダーに納めていた魔法剣の柄を手に取った。まさか、あの戦いに参加するつもりなの!?


「ライリー、待ちなさい! 学生のあなたにどうにか出来る相手じゃないわ!!」


「分かってます。だけど、このままじゃアークライト記念館に被害が及ぶかもしれません。天の騎士様の御実家を守りたいんです」 


 彼女の握る魔法剣の柄、アークライト家の家宝であるその柄に魔力が流れていく。やや放電する黄色い刀身が出現した――。






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