Arc Light～英雄騎士物語～

裏話＃１０

　＃１０　もうひとつの可能性

今回は、あり得たかもしれないもうひとつの可能性についてです。早い話、もしもディゼルが本編の時代に現れなかったらどうなっていたのかというIF話です。

　その１　レイナード伯爵領の被害

もし、本編第１話でディゼルが３００年後の時代に出現しなければどうなっていたのでしょうか？ リリアと出会わないという事は、レイナード伯爵領は大きな被害を被っていた可能性があります。

　というのも、本編第３話でレイナード伯爵領には深淵の軍勢が出現しています。その際、リリアはエリスと共に深淵の軍勢が出現した戦場で、負傷者の手当てに尽力しています。

　負傷者を治癒魔法で癒している最中、気配を断った深淵の怪物がリリアとエリスに襲い掛かります。この時は、ディゼルが空間転移で駆けつけた後に結界術で攻撃を遮る事で難を逃れました。

　その後、ディゼルの活躍で深淵の軍勢は殲滅され、戦っていた騎士達の負傷も軽微なもので済みました。では、ディゼルが居ない場合はどうなっていたのか？

　ディゼルが居ない場合、気配を断って襲い掛かって来た深淵の軍勢からリリアを庇ってエリスが死亡。そして、その惨状を目の当たりにして恐怖と絶望で固まるリリアも、そのまま殺されてしまいます。

　当然、ディゼルに斃される筈の深淵の軍勢はディゼルが居ない場合は健在なので、騎士達にも多数の犠牲者が出る可能性があります。遠方に用事で出掛けていたフローラが戻って来た時、レイナード伯爵領は多大な被害を受けている状態に陥っていたでしょう。

　本編で描かれていませんが、フローラは優れた風魔法の使い手です。彼女が風の放出魔法を使えば、領地を襲った深淵の軍勢を撃退する事も出来ます。しかし、甚大な被害を受けた領地の建て直しと、リリアとエリスの死に心を病んでしまう最悪の展開になっていかもしれません。

　その２　ライリーの成長

ディゼルが居ない事で、大きな影響を受ける人物が居ます――ディゼルの妹であるユーリの子孫であるライリーです。

　守護騎士を目指している彼女は、王立学園で起きたゴーレム騒動で活躍したディゼルが魔法剣の使い手である事を知り、彼から魔法剣の指導を懇願します。しかし、ディゼルが居ない世界線では、当然の如く魔法剣の指導が受けられません。

　加えて、親善試合編でディゼルと特訓するという流れも無くなってしまう為、代表選手として出場しても大した活躍も出来ずに敗退して終わりとなっていたやもしれません。

　その３　魔法都市ラングレイの事件

……ある意味、ディゼルが居ない場合で一番最悪のケースが魔法都市ラングレイ編で起きた深淵教団の事件でしょう。魔法都市ラングレイで起きたこの事件は、深淵を信奉する邪教団との戦いでした。

　深淵教団は校外学習に訪れた王立学園の生徒や教官達を犠牲にして、深淵の扉を開こうという非道な行為を実行しようとしましたが、これもディゼルや浄化魔法を体得したリリアの活躍もあって解決する事が出来ました。

　――では、ディゼルが居ない世界線ではどうなっていたのか？ ここでは、その１で記述したレイナード伯爵領の被害もある場合で話を進めていきましょう。　

　レイナード伯爵領の被害でリリアが死亡していた場合、浄化魔法を使える人間が居ないので学園の生徒達は魔力を吸い尽くされて死亡。更には空間転移が使えるディゼルが居ないので、メルトディス市長やグレイブが現場に駆けつける事は無理でしょう。

　生徒達の犠牲で疑似的に作り出された深淵の扉からは、大量の怪物達が出現して魔法都市ラングレイは壊滅的な被害を受け、更には３００年前のような戦いが勃発する可能性もあったかもしれません。

　その４　結論

誰も居ない遠い時代に来てしまったディゼル。自分を知る人間がひとりも居ない世界に孤独感を抱いている事でしょう。

　しかし、彼によって救われる人間は大勢居ます。ディゼル自身も、騎士としての矜持から目の前で起きる事件を放置する事など出来ません。

　彼が本編の時間軸に居るか否かで、物語の展開は大きく変わっていた事でしょう。