序章4 祝い
休み時間――僕は、ぼんやりとした表情で空を眺めていた。
「ディゼル、どうしたの?」
「お前らしくないぜ? 首席がそんなんじゃ、他に示しがつかないっての」
「アメリー、ジャレット……」
ぼんやりしていた僕に話し掛けてきたのは、クラスメイトのアメリーとジャレット。騎士科の中でも特に仲が良い友人達だった。
アメリーは女子ながら、次席の成績を誇る優秀な生徒。ジャレットは剣術の腕は粗削りながらも、高い持久力と頑強な肉体を持つ。
僕等はよく行動する間柄――けれど、それも今日で最後になってしまった。
どう話を切り出そうか、迷っている。
「あ、あのさ……実は――」
「全員、集合!」
教官の声が聞こえてきた。何事だろうと、他の同期生達が視線を向ける。
僕は複雑な気分になった。教官がこれから何を話すか理解しているからだ。
おそらく、その内容は僕に関することだろう。
「皆、集まってくれたか。ディゼル、来てくれ」
「はい」
教官に呼ばれ、僕は教官の隣に立つ。周囲がざわつく――何事だろうと。
「その……いきなりの話なんだが、ディゼルは今日で学園から卒業することが決まった」
「……っ!?」
「えっ!?」
同期生の中でも、アメリーとジャレットは特に驚愕した表情に変わる。
「それと、アストリア陛下からの勅命で守護騎士に就任するとのことだ」
「守護騎士!?」
同期生全員がざわついた。無理もない話だ。
守護騎士といえば、聖王国が誇る精鋭騎士――14歳で抜擢されるなど過去に例がない。聖王国で騎士を目指す者にとっては、最高の名誉といえるだろう。
ましてや、女王陛下の勅命。驚かない方がおかしい。
「数日後から、ディゼルは聖王宮に務めることとなる。皆も努力次第では、ディゼル同様に飛び級による卒業もあり得る。皆の努力に期待している!」
解散後、僕は同期生からの質問責めに遭ってしまった。流石に困惑してしまう。さっき決まったばかりのことなのでと返答した。
暫くして、ジャレットが興奮気味に話し掛けてきた。
「ディゼル、凄いじゃないか! 飛び級卒業もだけど、いきなり守護騎士に抜擢されるなんて史上初じゃないか!?」
「ありがとう、ジャレット。でも、いきなり守護騎士だなんて思わなかったよ。最初は、普通に騎士団入りするものばかりだと思ってたから」
「けど、お前と一緒に居るのも今日で最後か……。アメリーとお前と3人で卒業したかったんだけどな」
「うん……」
自身に目を掛けてくれた方々に感謝しているものの――出来れば、アメリーやジャレットと一緒に卒業したいという気持ちがあった。
ふたりとは、共に騎士を目指してきた仲だ。騎士になる時も一緒が良かった。
そういえば――さっきからアメリーの姿が見えない。何処に行ったのだろう?
「あー……アメリーは、暫くひとりにしといてくれ。多分、お前が居なくなる心の整理が出来ていないと思うんだ」
「そうか……」
結局、アメリーと会えないまま――僕は聖王都にある自宅に帰宅した。
王立学園の学生は、基本的には学生寮で生活する。夏季休暇等以外で自宅に帰ることは少ない。
僕の実家であるアークライト邸が見えてくる。家の前で箒を持っている藍色の髪の女性の姿が。
ソフィア・アークライト――僕の母だ。母さんは驚いた表情で、僕を出迎えてくれた。
「まぁ、ディゼル!?」
「ただいま、母さん」
「どうしたの?急に帰って来るなんて――」
「実は――」
「その話は、夕食の時にしよう」
背後から声が聞こえる。振り返ると、僕と同じ赤髪の男性がやって来る。父のウェイン・アークライトだ。
聖王国騎士団総長を務める、騎士団の最高責任者である。
「父さん」
「あなた、お帰りなさい。今日は随分と早いのね。話って……ディゼルに何かあったの?」
「うむ……家族全員が揃って話す」
「あ、お兄ちゃん!」
「え?ホントだ!」
ふたりの少女が、僕を見るなり駆け寄って来る。
妹であるミリーとユーリ、まだ7歳になって間もない。双子の姉妹なので、髪型以外は殆ど同じだ。
「ただいま、ミリー、ユーリ」
「おかえりー」
「学校はどうしたのー?」
「夕食の時に父さんから話があるんだ。その時に分かるよ」
「「?」」
首を傾げる妹達。
夕食まで時間があるので、久し振りに自分の部屋のベッドに大の字になる。
しっかり掃除してくれているらしく、埃や汚れは室内には見当たらない。
守護騎士……この国で騎士を目指す者なら、誰もが憧れる存在だ。僕が、そのひとりに抜擢されるなんて夢にも思わなかった。
無論、騎士を目指していたのだから何れは守護騎士に選ばれたいとは思っていた。しかし、飛び級卒業の上にいきなり守護騎士になれるとは、誰が予想出来ようか。
ベッドから起き上がり、部屋を出て階段を下りていく。
すると――1階から声が聞こえてきた。
「あ、お姉ちゃんだ」
「おかえりー!お仕事は?」
「え、と……何か今日は早く帰りなさいって言われたんだけど……」
「姉さん、お帰り」
帰宅したのは母さんと同じ藍色の髪の女性――アークライト家長女レイン・アークライト。僕の姉さんだ。
騎士の名家の生まれだが、母さん譲りの運動神経の鈍さから騎士の道ではなく、魔法研究者の道を志した。王立学園の術士科を卒業し、現在は聖王宮の魔法研究室に勤務している。
僕を見るなり、姉さんは驚いていた。
「ディゼル!? どうしたの、学園から外出許可を貰ったの?」
「それについては、夕食の時に父さんから話があるよ」
「?」
夕食の時間になった。久し振りの母さんの手料理を食べられることに嬉しさが隠せない。
その前に、父さんが真剣な表情で語り出す。
「皆に、重大な話がある――今日でディゼルは、王立学園の卒業が決まった」
「「え!?」」
「「?」」
母と姉は驚き、妹達は何が何だか分からない模様。
「更に――これは、アストリア陛下からの勅命なのだが、ディゼルを守護騎士として迎えたいそうだ」
「守護騎士……!?」
「う、嘘でしょ……!? それも、アストリア陛下から直々に……!?」
アークライト家は高名な騎士の家系。守護騎士を輩出した過去も幾度かある。
しかし、飛び級卒業でいきなり守護騎士に抜擢された例は今回が初めてだ。
「今日は祝いだ――ディゼルの卒業と守護騎士就任のな」
家族の祝福を受けつつ、僕は食事を楽しむ。色々なことが起きたけれど、今は家族との団欒を大切にしよう。
数日後には、聖王宮に務めることになる。しっかりと英気を養っておこう。
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