Arc Light~英雄騎士物語~
ロヒー2号(充電中です(´;ω;`))
序章
序章1 運命の子
――天光雷地水火風の7つの力に彩られた世界。
この世界に生まれる人間は、先に述べた7つの力の何れかを宿して生を受ける。
その中でも特別視される力があった――それは、天の力。
天の力を持つ者は、一時代にひとりしか生まれない。それゆえに、古来から天の力を持つ者は『選ばれし者』、『運命の子』と呼ばれていた。
世界には幾つかの国が存在する。その中でも特に大きな国がふたつ――聖王国と帝国。
この物語は、聖王国から始まる。
聖王国歴710年、聖王国の中心地“聖王都”にある騎士の名家アークライト家。
その日、アークライト家夫人ソフィア・アークライトはひとりの男の子を出産した。
アークライト家の現当主にして、聖王国騎士団で重職に就くウェイン・アークライトは待望の男子の誕生を喜んだ。
生まれてきた我が子は、ウェインと同じ赤髪だった。
「ソフィア、よく頑張った」
「あなた……」
「――ディゼル、この子の名はディゼルだ」
「ディゼル……」
ソフィアは、生まれたばかりの我が子の頬を優しく撫でる。
ウェインは真剣な眼差しで我が子を見つめる。
この世界に生まれる人間は、天光雷地水火風の7つの力の何れかを宿している。
アークライト家は火の力、あるいは雷の力を宿していることが多く、ウェインは雷の力を宿していた。
また、それぞれの属性には魔力色が存在する。火は赤色、水は青色、地は灰色、風は緑色、雷は黄色、光は白色。
この世界の人間は、自らが対応した属性の魔法と共通魔法と呼ばれる属性に関わらず体得可能な二種類の魔法を使いこなす。
ウェインは共通魔法のひとつである『魔力色鑑定』の魔法を、生まれたばかりの我が子に掛ける。
この魔法は、その人間が宿す属性の色を知る為に使うものである。ディゼルと名付けられた我が子の身体から光が発せられる。
その光は虹色の輝き。ウェインとソフィアの瞳が、驚愕に見開いた。
「虹色の魔力色だとっ!?」
虹色の魔力色を見た夫婦は顔を見合わせた。
この後、ウェインはこの事実を主君である聖王家にのみ伝え、決して口外しない約束を取り付けた。
聖王国歴722年――聖王都王立学園。
ここは、魔法技術を教える学校。
生徒は12歳から16歳までここで魔法技術を学ぶ。
術士科と騎士科のふたつの学科に分かれており、校舎は別々になっている。
今日は入学式――新入生である僕は正門を潜る。
「ここが王立学園かぁ……騎士科の校舎はこっちだって、父さんが言ってたっけ」
騎士科の校舎に足を踏み入れると、僕と同じ新入生達の姿が見られる。
新入生達の向かう先は講堂――僕もそれに続く。
講堂には騎士科と術士科双方の新入生達が集まっていた。やがて、入学式が始まる。
滞ることなく入学式は終わり、新入生達はそれぞれの教室に。
騎士科第一学年一組の教室。僕は、自分の名前が書かれたプレートのある席に着席する。
プレートには『ディゼル・アークライト』と表記されていた――僕の名前だ。
教室の中を見渡すと、既に何人かの生徒達が談笑している姿が目に入る。
入学早々、仲良く話しているところを見ると付き合いが長い友達なのかもしれない。
僕にも友達が出来るかな――何て、考えてると。
「よっす!俺はジャレット、お前は?」
「僕はディゼル」
気軽に話し掛けてきてくれる生徒がひとり。名前はジャレットって言うみたいだ。
ジャレットは、人懐っこい笑顔を浮かべている。明るい性格なのか、誰に対しても気さくに接してくれそうな印象を受けた。
暫くして、女性教官が教室に入って来た。
「皆さん、入学おめでとう。私は担当教官のモニカです」
黒髪の女性教官は、モニカと名乗った。年齢は20代前半くらいだろうか?
モニカ教官は、教壇に立つと自己紹介を始めた。
その後、これからの生活や授業についての説明が行われた。
そして、最初のホームルームが終わったところで、早速訓練場へ集合するように言われた。
訓練場に到着した僕らは、モニカ教官の指示に従い整列する。一組である僕達以外のクラスの生徒達や教官達も集まっている。
訓練場には台座が設置されおり、水晶玉が置かれている。
「明日からの本格的な授業の前に、まずは皆さんの魔力適正検査をします。名前を呼ばれた人から水晶玉に触れて下さい」
魔力適正検査――自身の魔力をあの水晶玉に込めると、水晶玉は反応して色を変える仕組みになっている。
父さんや姉さんからそう聞いたことがある。
火は赤色、水は青色、地は灰色、風は緑色、雷は黄色、光は白色となっているって聞いたっけ。
僕はどの魔力色なんだろう?
「アメリー・フュンリー、前に」
「はい」
最初に水晶玉に触れるのは、アメリーと呼ばれた生徒。ポニーテールがよく似合う、活発そうな女の子。
彼女は水晶玉に触れる――水晶玉が輝き、緑色の魔力色を発する。緑色は風の力を持つ者の証。彼女は風魔法に適性がある。
彼女を皮切りに、次々と水晶玉に触れていく生徒達。水晶玉は生徒達の適正色を発光していく。
「次、ジャレット・クロービス」
「はい!」
元気よく返事をするジャレットが水晶玉に触れる。彼の魔力色は灰色――地の力。地魔法に適性があるみたいだ。
ジャレットが戻って来る……あれ、何か落ち込んでるみたいだけど?
「はぁ……」
「ジャレット、どうしたの?」
「いや、俺さ、火か雷がいいなーって思ってて……」
確かにと、少し笑ってしまった。
ジャレットは、地よりも火か雷の方が似合いそうなイメージがある。
「次、ディゼル・アークライト」
「はい」
そうこうしている内に、僕の番が来てしまった。返事をして、水晶玉の前に立つ。
水晶玉に触れて、魔力を送り込む。一体、僕の魔力色は何色だろう?
父さんは雷の力だから黄色、姉さんは火の力だから赤色だったと聞いた。
アークライト家は火か雷が多いと聞いた。僕もそのどちらか――。
「え……虹色?」
水晶玉は虹色に発光していた――虹色って何の魔力色だろう?
困惑の表情で、モニカ教官に視線を向ける。
モニカ教官と他の教官達は、驚いた表情で僕を見つめていた。一体、どうしたんだろう?
教官のひとりが、血相を変えて訓練場から走り去っていく。
もしかして、虹色って何か良くない力の色なのかな?
「あの、モニカ教官――虹色って何の力の魔力色なんですか?」
「……ご、ごめんなさい――ディゼルくんの力に関しては、後で話します」
「え……は、はい」
モニカ教官の言葉を聞いて、僕を含めその場の生徒全員が首を傾げる。
その後、他の生徒達の魔力検査は無事に終わり、教官達の指示に従って解散となった。教室に戻る途中、モニカ教官に呼び止められる。
「ディゼルくん、一緒に学園長室に来てくれますか?」
「は、はい……」
教官と一緒に学園長室に行くことになった。学園長室の扉をノックするモニカ教官。
「学園長、入ってもよろしいでしょうか?」
「うむ、入りなさい」
入室を許可され、モニカ教官が学園長室に入り、僕も教官の後に続く。
長い白髭を伸ばした人物が、椅子に座っている。講堂で行われた入学式で見た学園長だ。
そして、室内にはもうひとり。僕はその人の顔を見るなり驚いた。
「父さん……!?」
そう、そこに居たのは僕の父であるウェイン・アークライトだった。
どうして、父さんが学園長と一緒に居るのだろう?
「来たか、ディゼル」
「父さん、どうしてここに?学園長、一体どういうことなんですか?」
「うむ……実は、君の持つ力について話そうと思ってな」
僕が持つ力?
そういえば、僕の魔力色は虹色だったけど、あれは何の力の色なんだろう?
学園長に促され、僕は室内にあるソファに腰掛ける。正面のソファに学園長と父さんが腰掛けた。
モニカ教官は一礼して、学園長室から退室していった。
「ディゼルくん、君の持つ力は……天の力だ」
「……天の力?」
「うむ、遥か昔から選ばれた者だけが宿すとされる力。君はその天の力に選ばれた人間なのだ」
――選ばれた者の力?僕が、そんな凄い力を持っている?
学園長の隣に座る父さんが口を開いた。
「ディゼル、お前が生まれた時に私は魔力色鑑定を行った。その時に、お前は虹色の魔力色を発した。虹色の魔力色は天の力を宿す者の証なのだ」
父さんは真剣な眼差しを向けている。
そういえば、小さい頃から父さんにやたらと厳しい訓練を受けてきたけど……その力を持って生まれたことが理由だったんだ。
「天の力は全ての力の中で、最も深淵の軍勢に対する効果が強い力なのだ」
深淵の軍勢――その言葉に、僕はゴクリと唾を飲み込む。
“深淵”とは、僕達の住むこの世界と表裏一体に存在するもうひとつの世界。深淵の軍勢とは、その世界に住まう悪しき怪物達のことを指し示す。
遥か昔から、この世界は深淵に住まう軍勢との戦いに明け暮れてきたという。
深淵に住まう悪しき者達は、常に僕達の住む世界を狙っている。
「お前の持つ力は、何れ多くの人々の希望となると信じている」
「君の力を引き出すのが私達の役目だ。これから、この学園で多くのことを学びなさい」
僕の力が、多くの人々の希望に――。
なれるんだろうか。いや、なってみせる。
誰よりも強い騎士になるんだ。
こうして、僕の学園生活が始まった。
そして、2年が過ぎたある日のこと――。
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