これがオレの答えだッ
「違う」
…………違うらしいです。
アイナが「う、嘘でしょ?」と愕然としているが知らないふりをする。
うるさいうるさい! だって絶対そうだと思ったんだもん!
思わず赤面しそうな俺の前で、老人は息を細く吐き出した。
「たしかに君が今言ったように“契約は相互作用する鎖”という側面はあるだろう。先にも言ったように、呪術学と混同されやすいのはそのためだ。だが、私が君たちに訊いたのはさらにその意味するところだよ。問うたのは契約というものの本質であり、それが“契約学”の基礎にして――」
「ちょ、ちょっと待ってください。
確認させていただきたいのだが」
「なんだね」
「あの……契約学というものは本当にあるのですか?」
「は?」
何言ってんだコイツ、と言わんばかりの声をあげたのはアイナで、老人は肩を揺らしている。笑っているようだ。
え? いやだって……あれ?
これはアンブレラが用意した協力型謎解きゲームみたいなもので……何気ないルネリアの言葉がヒントになっているやつでは……ないのか?
…………じゃあなにか?
契約学は実在し、そこで手に入るパワーアップアイテム(アンブレラ製)も実在し、それはそれとしてルネリアは勝手に「奴隷論」なる奇論を語り出したということか?
これもうホラーだろ。
「君はアンブレラに随分振り回されているようだね。なにか勘違いするのも無理はない」
老人は可笑しそうに俺を見た。
「明確にしておこう。私は彼女に頼まれごとはされたが、授業はその思惑に一切関係なく行うつもりだ。
……と言ったところで、君には常に何かしらの疑念が残るだろう。“これ”を餌にしている限り、私は彼女から指示されているように見えるだろうし、その雑念は私にとってあまり望ましくない」
やれやれ、と老人は肩を竦め、
「こうしよう。私はアンブレラの思惑から降りる。つまり――」
と、例の薬瓶を手に取った。
「――“これ”は君たちに進呈する。
ただし、君たちの
……そんなんでいいのか。拍子抜けだ。
俺は特に取りたい授業があるわけでもないからいいが……アイナはいいんだろうか。
まあ、困ると言われても呑んでもらうしかない。こちとら命がかかっているのだ。
「これは、“契約”ですか?」
瓶を受け取り――ふと思ったことを口にすると、老人は笑って答えた。
「いいや。契約よりも弱く、呪いよりもそれに近い。
これはただの“約束”だよ」
***
「……ということで、明日の朝“これ”を試してみることにした」
錠剤のようなものが入った茶色の瓶をためつすがめつ、ルネリアは俺の話を聞き終えて頷いた。
「――なるほど、そんなことが。
私のお教えした“奴隷論”が役に立って嬉しいです」
「話聞いてた? 全く役立ってなかったよね?」
言うまでもなく、夕食は食堂ではなく自室で摂ることにしている。
別にそれぞれの部屋でパンでも囓ればいいのだが、ルネリア的にはそれはナシらしく、こうして料理を振る舞ってくれるのだ。
そんなに世話を焼かないでもいいのに……と思う反面、美味い飯が食えて嬉しいという気持ちもある。
ちなみに、キッチンは共用のものが下の階にあるのみだ。ルネリア曰く、結構調理器具は揃っているらしい。この第三男子寮では彼女以外まともに使っている人間はいなさそうだが。
「それにしても“契約学”ですか……。
その老教師の方は、何者なんでしょうか」
「さあな、学園長をかなり知っていそうな感じはあったが……」
古くからの知己、という雰囲気はあったが詳しいことは分からない。
そういえば、俺はあの老人の名前さえ知らないのだった。契約学も結局なんなんだかよく分からないし……さすがにもうちょっと説明が欲しいところだったが、ともかく。
「ルネリアはなにしてたんだ?」
「ウィンドライツ様の情報収集です」
ほう、なるほど。
今朝、俺がアイナにボコされてる間アンブレラに指示されたのだろう。
たしかに、最近絡みがないので奴の動向は不明だ。俺としては喜ばしきことではあるのだが、だからといって気にならないこともない。
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