一匹狼同士の会話。

 愛桜にバスケの特訓をさせたあと、比呂は、その足で高校へ登校する。

 そもそも、休日に学校へ登校する奴は部活動をしてる生徒か引率の教師ぐらいのもの。もしくはぐらいのものだ。


「ふぁぁ~」


 登校してそうそう、彼は軽―く欠伸をする。


「ちょっと疲れたなぁ~」

(まあ、普段から教えるとかしたことがないから。当然と言えば、当然だけど――)


 自分でも珍しいと思ってしまってるぐらいに彼は不思議がる。


 昇降口で上履きに履き替え、職員室から鍵をもらい、応接室へ直行しようとした矢先――


「おい、魁」


 彼を呼ぶ声が後ろから聞こえてくる。耳に入る声質からトーンから誰か察しがついてる比呂は振り向きざまに言い放つ。


「なんだい、東四郎」


 振り向きざまに視界に納めるのは練習着を着ていた東四郎だった。

 身長が低い。その一言に尽きるも彼の手には卓球のラケットが握られている。

 比津賀谷東四郎。彼は卓球部の部員で部内でもエースを張るほどの熟練者。

 何でも、個人戦でインターハイにベスト8まで勝ち進んだことがある。

 その彼が練習の合間に比呂に声をかけることが珍しいことだ。


「なに、委員長会議は来月だけど?」

「違ぇよ」

「それとも、いい加減、部活動に参加しろ、とか言うのか?」

「それも違ぇよ」

「じゃあ、なんだい? これでも俺は忙しいんだが?」


 彼は東四郎に自分が忙しいアピールを咬ますも


「それが忙しい奴のアピールかよ」


 揶揄されるどころか皮肉な返しが来た。


「それより、一つだけ聞きてぇ」

「なんだい? 手短に――」

「火野愛桜のことだ」

「…………」


 率直に訊ねる東四郎の問いに、比呂は目を細める。


「別に、彼女に近づくなぁ、とか。身を引け、とか言わねぇよ。

 ただ――」

「ただ?」


 聞き返そうとする比呂に東四郎は目線を外にやる。


なよ」

「…………はい?」


 東四郎の言ってる意味が分からず、呆ける比呂。だけど、彼は、その理由にも意味にも答えず、卓球場へと踵を返す。


「あぁ~、それと…………お前が気づいてねぇとは思わねぇが…………そろそろ、

 早めのうちに処理しとけよ」

「ああ、天川のバカね。心配するな。

 とっくの昔に龍樹と秀二らに任せてある。でも、懲りなかったら、俺が咬み殺すまでだ」


 比呂は去り際にそう答えて、応接室へと足を向けるのだった。


 背を向け、離れていく彼を見る東四郎。その後ろ姿は風紀委員長をたらしめる風格を感じさせた。


「全く……」


 呆れるしかないと肩を落とす東四郎だった。


 だけど、そんな彼に声をかける生徒がいた。


「東四郎。練習をサボってもいいの?」

「あっ?」


 声質が良く、トーンがアルトボイスから女子なのがわかる。彼は振り向きざまに視界に納めたのは濃紫がかった黒のロングヘアの女子高生。瞳の色は碧玉を思わせる緑色。四葉学園高校の制服を着てることは当然だが、彼は話しかけてくる女子高生を知ってるのか嫌な顔をする。


「チッ……」

「今、舌打ちしたよね?」

「してねぇよ。お前の聞き違ぇだ」

「いいや。してたね。

 っていうか、サボってもいいの?」

「サボってねぇ。休憩してただけだ。っていうか、俺に話してる暇があるんなら、さっさと仕事したらどうだ? 広報委員会、委員長さんよぅ」


 回りくどく彼女を揶揄する東四郎。いや、彼の言い草から回りくどさなんて全然なかった。


「話しかけてるのが仕事だろーが! このチビ!!」


 彼女の言い草やら口調やら粗暴さが露わになってる。見え隠れどころか隠す気すらなかった。

 おまけに彼のことを“チビ”と言い切るあたり、仲の良さなんて――


「あ゛ぁ゛!! 俺に喧嘩、売ってるのか? “女ゲーマー”!!」

「ゲーマーをばかにするんじゃないよ!!」


 最悪の極みだった。

 東四郎と喧嘩腰になる少女は三河深澄。四葉学園高校の女子高生。

 比津賀谷東四郎や泉川零美、有沢澄香、そして、魁比呂の同学年。

 さらに、四葉学園高校、広報委員会、委員長を務めてる。

 さらにさらに、四葉学園高校随一の編集者でもあり、校内新聞の最終決定権は彼女が握ってる。

 おまけに情報を収集に関しては滅法強く、あの手この手で情報を集めては記事の一面に載せたり、相手の主導権を奪ったりと悪魔的所業を平気でやってのける女子高生。

 ある意味で魁比呂と違った意味で敵にしたくない女子だ。


「――で? 新しいスクープネタでも探してるのか?」

「うーん。そうなのよ。ほんとーだったら、あの俺様会長を失脚させるスクープを探したい気分だけど、尻尾見せないし」

「天川のバカは?」

「あのバカもダメ。面白ネタもない」

「じゃあ、超絶美少女共は……」

「あの三人? したいけど、生徒を熱中させるネタがねぇ~」


 煮詰まる深澄に東四郎がとんでもないネタをぶっ込む。


「面白ぇネタがねぇっと言えば、ねぇが…………美少女共のネタが一つだけある」

「ほんと?」


 食いついてくる彼女に彼は警告まがいに言い放つ。


「危ねぇ橋だぜ。内容次第で厄介な奴に喧嘩を売ることになるが?」

「スクープネタになるなら、危ない橋なんて上等よ!」


 いくつかの修羅場を潜ってきた自信か危険上等の姿勢を見せる彼女に東四郎は情報を与える。

 それは、四葉学園高校に新たな風を巻き起こさせるのだった。

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